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東横線の車いす転落 別の7駅も急傾斜、さく設置へ

 東京都大田区の東急東横線多摩川駅で車いすの女性(当時81)がホームから転落した死亡事故に絡み、東急電鉄の別の7駅でもホームの傾斜が急で、車いすでは線路に転落する恐れがあることが同社への取材で分かった。同社は転落防止策としてホームでガードマンが警戒し、11月中にさくを設置する。

 同社によると、死亡事故を受け、さくが未設置の54駅を緊急調査。この結果、東横線の中目黒、自由が丘、新丸子、武蔵小杉と田園都市線の渋谷、鷺沼、長津田の7駅は、ホームから線路までの傾斜が1メートル当たり2センチ以上と急であることが判明したという。

 多摩川駅では07年9月にも車いすの女性が線路に転落して骨折する事故が起きている。

(asahi.comより)

 先週の苦言が功を奏したわけではないだろうが、水平展開という意味ではなかなか良い答えが出てきたといって良いだろう。

事故に対する暫定処置としてホームでガードマンが警戒する。
再発防止対策としてホーム端に柵を設ける。
同様な危険のある駅を調査して暫定処置と再発防止対策を水平展開した。

しかし事故の真因である、プラットホームの傾斜に関しては何も改善されていない。ホームから線路に転落しなくとも、転落防止柵に激突して怪我をするということもありうるだろう。

もちろん日々の利用客があるので、工事が難しいのは理解できる。
しかし日本の「段取り力」を持ってすれば、終電と一番電車の間に工事を済ますことも不可能ではないだろう。

この「段取り力」というのは目立たないが、日本の優れたところだ。

中国の工事はこの段取り力がないため、利用者に迷惑のかけ放題だ。
道路工事で渋滞など当たり前。工事しているのだから「没方法」というわけだ。渋滞しないように工事をするという「段取り力」がない。

私事であるが、以前通っていたジムではシャワールームの排水を改善する工事のため工事資材をロッカールームに積み上げた。そのためシャワーばかりでなくロッカールームも使用不可能になった。
その工事資材は何日も使わずにロッカールームに積み上げられたままだった。
必要な資材を必要なときに持ち込むという初歩的な「段取り力」もない。


このコラムは、2009年9月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第118号に掲載した記事です。

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車両火災

 小田急小田原線の代々木八幡ー参宮橋間で9月10日に発生した車両火災事故に関して考えてみたい。経緯をまとめると以下の様になる。

  • 沿線のボクシングジムで火災発生。16時6分119番通報。
  • 消防士の要請により現場にいた警察官が踏切緊急停止ボタンを押す。16時11分。
  • 火災現場前に停止した車両の屋根に延焼。
  • 消防士の指示で列車が移動(ただし後部車両は火災現場前に残る)。16時19分。
  • 乗客の避難完了。16時42分。

幸いけが人はなかった様だが、過去には桜木町事故(1951年)、北陸トンネル事故(1972年)で車両火災事故があり多くの死傷者を出している。

桜木町事故は、車両扉の非常時開閉コックが乗客が操作しない事を前提に設計されており多くの人が車両外に避難出来ずに死亡した。この事故以降、非常開閉コックは乗客が操作する事を前提にし、改善された。

北陸トンネル事故は、火災発生時にトンネル内で停車したため消火活動、避難が困難となり多くの人が亡くなった。運転手は火災発生時には停車する様に運転マニュアルに定められていた。この事故以降、トンネル内、橋梁上で車両火災発生時には、速やかにトンネル、橋梁を抜けた後に停止する様マニュアル改訂が行われている。

今回の事故の最初の誤りは、踏切の非常停止ボタンを押してしまった事に有る、と言えそうだ。警察官は非常停止ボタンを押した場合、列車は自動停止する事を知らなかったのであろう。火災現場で停止すれば、列車に延焼する事は容易に推測出来る。

運転手は非常停止し前方の踏切を確認に行っている。この時、後部車両から火が出ているのを発見。消防士の指示で車両を移動。ただし後部車両は已然火災現場前にあった。消防士は列車の長さを把握せずに停車位置を指定したのだろう。この時に最後部にいた車掌は何をしていたのだろうか?火災現場が前方に見えており、車両に延焼した事も知れる位置にいたと思われる。

これだけの情報で何かを判断するのは無理だが、あえて私見を述べるならば、乗客の安全責任を持っている運転手、車掌の判断が何も入っていない事に問題が有ったと考える。警察、消防など非専門家の指示を鵜呑みにしてしまった。

運転手も車掌も規定通りの仕事をした様だが、「現場の判断」に基づいた仕事が出来なかった。マニュアルや規定は万全ではない。インシデントに直面している現場の裁量で判断しなければならない事もあるはずだ。

当然運転手も車掌も、その技能を認定され職位についているはずだ。
異常時の判断能力もその技能に含まれるべきだと考える。

例えば製造業では、作業訓練時に「正常作業」ばかりでなく「異常作業」も訓練すべきだ。例えば、ミリねじとインチねじを取り違えた時の作業感、ねじを斜行して締めてしまった場合の作業感を、体験訓練する事により異常に気が付く感性を養えるはずだ。

当然ミリねじとインチねじが混入している事が問題であり、混入防止対策が必要だ。しかし完全に防止する事が出来ないのであれば、作業者の気付きが最後の砦となる。

今回の車両火災事故も同様だ。
鉄道路線沿線の建築基準を変更すれば、事故は発生しなくなるかも知れない。しかし現実的ではないだろう。運転手、車掌に対して異常時対応訓練をする事で能力を上げる事が出来るだろう。当然マニュアルで規定された事を確認する訓練では不足だ。どのような潜在問題があるか、議論する所から訓練を始める。
この様な訓練を継続、蓄積する事により訓練内容は深化するだろう。

KYT(危険予知訓練)もこのような手順で進めれば、予測したインシデント以外にも潜在インシデントを蓄積する事が出来よう。


このコラムは、2017年9月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第568号に掲載した記事です。

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