東京都大田区田園調布1丁目の東急東横線多摩川駅下り線ホームで13日、車いすに乗った川崎市の女性(81)が車いすごと線路に転落し、死亡していたことがわかった。同じ場所では2年前にも車いすの女性(95)が転落してけがをしたが、東急電鉄は具体的な再発防止策をとっていなかった。
同社と警視庁田園調布署によると、13日の事故は午後4時半ごろ、ホームの横浜寄りにあるエレベーター前で起きた。亡くなった女性は長女(61)に車いすを押してもらって1階改札からエレベーターに乗り、2階ホームで降りた。長女がいったん車いすから手を離し、エレベーター内のボタンを操作していたところ、車いすが動き出してそのままホームから線路上に転落。女性は頭を強打し、翌14日に亡くなった。エレベーター前からホーム端までは約5メートルにわたり緩やかな下り傾斜になっている。
ここでは07年9月、車いすの女性が介助者の手が離れた際に線路に転落し、左足を骨折した。同社によると、介助者が「車いすのストッパーをかけ忘れた」と説明したため、転落防止の対策をとらず、駅員に口頭で車いすの利用者への注意徹底を指示しただけだったという。
同社は今回の事故を受け、エレベーター前に係員を置くとともに、17日朝までにホームの端に転落防止用のさくを設ける。同社は「事態を深刻に受け止めている。再発防止を徹底したい」としている。
(asahi.comより)
長らく品質保証の仕事をしてきたので「再発防止」という言葉には敏感に反応してしまう。
最初の事故のときに適切な再発防止処置をとっておけば、今回のような事故は防げたはずだ。また「再発防止対策」も私が考えている「再発防止」とは少しずれている。
記事によると07年の事故以来とられた処置,これからとられる処置は
- 車椅子利用者への注意徹底
- エレベータ前に係員を置く
- ホーム端に転落防止柵を設ける
- 再発防止を徹底する
-
となっている。
「車椅子利用者への注意徹底」というのは再発防止対策ではなく、対策の検討が終わるまでの「現場処置」だ。しかも注意喚起というあまり効果が期待できない処置でしかない。
工場でたとえれば、不良を見逃した検査員に注意を徹底しました、という改善処置と同じだ。
これでは事故発生の真因に対する対策はできていない。
「エレベータの前に係員を置く」というのも暫定対策でしかない。もしこの対策が有効ならば,07年の事故以来エレベータの前に係員がずっと立っていたはずだ。のど元過ぎれば何とかで、こういう対策はいつの間にかうやむやになる。
所詮無理がある。エレベータの前に立っている職員を新たに雇用するのならいざ知らず。現状の職員でエレベータの前に係員が立っているという対策は、絵空事といってよい。
不良が出たので検査を二重にします、という対策と同じで、その場限りの言い逃れとしか思えない。
もしもこれしか対策がないというならば、常時エレベータの前にいる職員をどう手配するかというところから説明しなければならないだろう。
ホーム端に転落防止柵を設けるという対策も有効とは思えない。第一こんなところに柵があったら乗車下車に邪魔ではないだろうか?
落ちるといけないから柵をつけるというのは、真因に対する対策ではない。
もう一歩「なぜ」を繰り返し事故の原因を探れば、エレベータ前がホーム端に向かってスロープになっているのが真因だと分かるはずだ。
真因が分かれば,真因に対策を施すべきだ。
すなわち傾斜を是正すればよいのである。人身事故というリスクの大きさを考えれば、プラットホームの傾斜修正工事のコストとトレードオフなどできないはずだ。
100歩譲ったとしても,エレベータの出口脇に手すりを作るなど、もっとましな対策が考えられたのではないだろうか?
もちろん私は現場を見ていないし、ここでシュミレーションした内容が正しいとは思っていない。
ただし報道だけを見ると、事故原因に対する再発防止対策がプァに思える。
少なくとも我々製造業の間で、このような再発防止対策を顧客に提出したら、つき返されるのが落ちだろう。
このコラムは、2009年9月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第117号に掲載した記事です。
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