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異常感度を上げる

中国で生活をしていると,「異常」と感じる閾値の差を思い知らされる事が多い.

ジムの蒸気サウナの温度がなかなか上がらなくなったことがある.普通15分もあれば,十分熱くなるのだが,1時間かかっても熱くならなくなってしまった.受付の事務員に,壊れているから直すように言っても,全く改善されない.痺れを切らせてナゼ直さないかとマネージャに聞くと,壊れてないと言い張る.

蒸気は出ている.熱くなるのに時間がかかっているだけだ.と言う.
では,ナゼ時間がかかるのかと聞けば,2つあるヒータの内1本が切れたと言う.こういうのを「壊れた状態」と言うのだと教えても,「使える」と言い張る.

彼らにとって,正常と異常の間にある閾値は,使える・使えないの閾値だ.使えている間は,正常であり,異常ではないという判断だ.

同様なことに,工場の現場でも良く直面する.
例えば,
プラスチック成型工場.4個取りの金型が,バリの発生がひどくなり,4個あるキャビティの内3個が使えなくなってしまった.この状態でも,1個取りの金型として生産を継続している.

電子PCBアッセイ生産工場.半田DIP槽のスプレーフラクサーのノズルが,フラックス残渣が固まり揺動動作が緩慢になっている.指摘をしても,ノズルの動力源(圧縮空気)の圧力を上げるだけ.

電子製品の組立工場.プラスチックケース組み立て前に,内機に塗布した接着剤の量が明らかに多すぎる.しかしケース組立員は何事もなくケースを組み立ててしまう.

こんな実例を挙げたらきりがない.

異常と正常の間にある閾値が,我々の期待と違いすぎるのだ.
この違いを是正するために,ひとつずつ「異常状態」を教えていたのでは,手がかかりすぎる.

例えば,人間は「健康」と「病気」の二つの状態だけではない.
人の健康状態は「健康」「健康ではない」「病気」の三つの状態があるはずだ.
つまり「健康」「病気」以外に「まだ病気ではないが,健康とは言えない」状態がある.
この「健康ではない」状態を放置しておけば,すぐに病気になる.

工場も同じだ.
「正常」「異常」の二状態以外に,「異常とは言い切れないが,正常ではない」状態がある.
「正常」状態をきちっと定義をしておき,それ以外の状態になった場合の行動を決めておく.

「異常」の範囲を定義しようとすれば,まだ発生していない異常も列挙する必要がある.しかし「正常」の範囲を定義することは比較的容易だ.「正常ではない」状態を全て「異常」と定義することにより,「異常感度」は上がるはずだ.


このコラムは、2010年8月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第166号に掲載した記事に加筆しました。

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地下鉄丸ノ内線車内で洗剤の缶破裂 男女2人重傷

 20日午前0時20分ごろ、東京都文京区本郷2丁目の東京メトロ丸ノ内線本郷三丁目駅に停車中の電車内で、「乗客の女性が持っていた缶を振っていたら破裂した」と110番通報があった。東京消防庁や警視庁によると、中に入っていた液体が飛び散って乗客にかかるなどし、11人が手当てを受けた。いずれも意識があり、男女2人が重傷という。
 東京消防庁によると、11人は20代から50代で、男性4人、女性7人。このうちの20代の女性が持っていた容器が破裂したという。メトロによると、缶には「強力洗剤」と書かれていた。東京消防庁によると、女性は、コーヒーのキャップ付きアルミ缶に強アルカリ性の業務用洗剤を入れていたという。

asahi.comより

 アルミニウムとアルカリ性の洗剤が反応し,水素が発生.アルミ缶の内圧が上昇し,その圧力に耐えきれず破裂したのであろう.

こういう事故も人ごとではない.
中国の工場で,プラスチック容器に潤滑油や薬剤を入れているのをしばしば見かける.大きな缶から,使い易い様に小分けにしているのだろう.

しかしプラスチック材料によっては,切削油や潤滑油の様な鉱物性油によって劣化してしまう.ペットボトルなどは手軽に使えるが,酸やアルカリに対する耐性はあまり強くない.

ペットボトルに平気でガソリンを入れているのを見るが,危険きわまりない.ガソリンを入れておいても,短時間ならばPETは劣化はしないだろう.
しかしペットボトルからガソリンを注ぐ時に,ペットボトルが帯電する.絶縁体であるペットボトルから放電することはないが,それを支える人体は導体だ.給油中に給油口の金属に静電気が放電すると,ガソリンに引火し爆発・火災が発生することがある.

また容器を移し替えた場合,入っている物が何であるか表示も必要である.誤用があると大変なことになる.

ある工場で5Sを指導する時に,トイレ掃除用にペットボトルに入ったコヒー色の液体を発見した.掃除係のおばちゃんの説明によると,塗装の前処理に使う酸洗い用薬液の廃液だそうだ.この廃液で便器を磨いていたそうだ(苦笑)
表示がしてないこと以前に,この様な危険な薬液をトイレ掃除に使うべきではない.
表示が無い訳の分からないモノを処分しようとして,事故が起こる可能性も十分に考えられる.

本日のニュースは,現場に訳の分からない液体が,ペットボトルにないか再点検する様に,我々に示唆を与えてくれている.


このコラムは、2012年10月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第280号に掲載した記事です。

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予知能力

 リーダーの資質として「予知能力」をあげたい.
予知能力といっても,オカルトチックな能力ではなく,ロジカルな推論による能力だ.

例えば生産現場のリーダが,作業台の上にネジが一本落ちているのを見て,どう考えるかという能力だ.このケースを例として考えてみよう.

何も感じないのは論外だ.

すぐさまネジを拾い上げ,作業現場の5Sを保つ.
これではリーダーとはいえない.初歩の作業員レベルだ.

ネジの種類を調べ,どこから来たネジなのかを考える.そしてそのリスクに対し適切な予防処置を取る.これができて初めて現場リーダーといえる.

つまりネジが製品に組み込むためのものであれば,閉め忘れや脱落の可能性を予知し,完成済み品に影響が無いことを確認する.

またはネジが設備から脱落したものであれば,ネジが脱落した設備で生産した場合の製品品質への影響を予知し,適切な処置を取る.

こういうことが予知能力だと考えている.

同じものを見ても,どこまで予知が出来るかでその人の能力が決まる.
例えば他社のリコールのニュースを見たときに,自分たちの仕事に引き寄せて予知が出来るかどうかということだ.リコールなどの事件ばかりだけではなく,日ごろの出来事の中から多くのことを予知できるようにならなければならない.

これはモノ造りの現場だけでの能力ではない.
例えば,若者の離婚率上昇の新聞記事を読み,作業者の採用難を予知する,というのは人事部職員に要求される能力だろう.

こういう能力は,本を読んでも身に付く能力ではない.
日々目の前にある現象やモノから何が予測できるのか,鍛錬をする必要がある.
私は部下とこういう問答をしょっちゅうやっていた.
なんでもない物事を見聞きしたときに,それをいかに深く考察・洞察してその影響を予知するという,問答をするのだ.

部下の予知能力がシャープになるだけではなく,自分の訓練にもなる.実はこういうことをやるのが結構面白いのだ.


このコラムは、2010年3月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第141号に掲載した記事に加筆したものです。

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