東京電力福島第一原子力発電所が東日本大震災時に全ての電源を失い炉心溶融を起こした問題で、国の原子力安全委員会の作業部会が1993年に、全電源喪失対策を検討しながらも「重大な事態に至る可能性は低い」と結論づけていたことがわかった。安全委は13日、当時の報告書をウェブで初めて公開した。今後詳しい経緯を調べるという。
報告書は安全委の「全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループ」が作った。専門家5人のほか東電や関西電力の社員も参加。安全委の作業部会はどれも当時は非公開で、今回は情報公開請求されたため、公表した。
米国で発生した全電源喪失の例や規制内容を調査した。その結果、国内では例がなく、米国と比較して外部電源の復旧が30分と短いことや、非常用ディーゼル発電機の起動が失敗する確率が低いなどとした。「全交流電源喪失の発生確率は小さい」「短時間で外部電源等の復旧が期待できるので原子炉が重大な事態に至る可能性は低い」と結論づけていた。ただし明確な根拠は示されていない。
(asahi.conより)
FMEA(故障モード影響分析)についてはこのメルマガでも何度も紹介した。
原子力発電所の設備用交流電源が失われるという、潜在故障に関して18年前に対策を検討したという。これがFMEAだ。
FMEAでは、潜在故障を、故障の発見容易度、故障の発生頻度、故障の影響度を評価する。
18年前の検討では、
- 発見容易度:
これは記事には書かれていないが、電源が失われればすぐに分かるはずだ。これはリスク点数は低いと判断しただろう。 - 発生頻度:
非常用のディーゼル発電機の起動が失敗する確率は低い、と判断している。 - 影響度:
外部電源の復旧が早いので影響は少ない、と判断している。
18年前の検討が不十分だったため、大事に至っている。
その内容を再検討してみたい。
発見容易度に関しては、異論はない。
- 発生頻度に関して:
故障モードを発電機の起動失敗だけ上げているところに問題がある。
非常用発電機の故障、非常用発電機の水没、発電機燃料の喪失、電源配線系統の故障などもっと想定しなければならない潜在故障があったはずだ。 - 影響度に関して:
外部電源の復旧にかかる時間の絶対値が記載されていないが、外部電源が復帰するまでには、原子炉が危機的な状況(炉心溶融)には至らないと判断したのだろう。
これも外部電源喪失の潜在故障検討が不十分といわざるを得ない。
潜在故障をきちんと列挙していれば、過去のデータ(米国と比較して外部電源の復旧が30分早い)が役に立たないのは明白だったはずだ。
FMEAではこれらの三つの指標を掛け算し、PRN(危険優先指数)を求める。PRN値が高いものから優先的に事前対策を講じておくというのが、FMEA手法だ。
しかし自動車業界などではPRN値が低くても、影響度の高い潜在故障モードには事前対策を施すようにしている。
「非常用電力の喪失」という潜在故障モードは、炉心溶融という最高レベルの故障影響度を持っていたはずだ。
最大の問題点は「米国で発生した全電源喪失の例や規制内容を調査した」というアプローチの間違いだと考える。米国の原子力発電と日本の原子力発電はその方式も、立地条件も異なる。安易に他の事例を、そのまま取り入れてOKとするべきではないだろう。
米国と比較して外部電力の復旧が(平均?)30分早いなどという過去のデータが論拠となるはずがない。
事故には莫大な授業料がかかる。
今回の東日本震災でも、かけがえのない人命を含む莫大な授業料を払っている。この中から、教訓を得ることが必要だ。
潜在故障モードとして不足しているところはないか、潜在故障モード発生原因の推定に不足はないか、総点検をしなければならない。
我々は常に進化している。
18年前の結論をどれだけ高く超えられるかが、次世代に継ぐ我々の責任だろう。
あなたの会社ではFMEAは常に進化していますか?
このコラムは、2011年7月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第214号に掲載した記事です。
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