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長目飛耳

 幕末の教育者・吉田松陰は松下村塾で明治維新の志士、明治政府の政治家を育成している。松田松陰は「飛耳長目」と題したノートをいつも携えていたと言われている。

「飛耳長目」は春秋時代の思想家・管仲の言葉から出ていると知り調べてみた。管仲の言葉を弟子が編纂した「管子」の九守が原点のようだ。

『一曰長目,二曰飛耳,三曰樹明;明知千里之外,隠微之中,曰動姦,姦動則変更矣。』
中国では『長目飛耳』というようだ。

一に長目、二に飛耳、三に明察、千里の外に隠れたるわずかな邪悪を洞察し、動乱を阻止する。という意味になるだろう。

これは治世のみならず、我々製造業に携わる者にとっても示唆のある言葉のように思える。

僅かな変化に目を凝らし、微かな異音に耳を凝らす。そして異常の兆候を知る。
それにより不良の発生を事前に察知し、問題が起きる前に手を打つ。

千里眼の能力がなくても、変化に気付く感性があれば可能だ。

例えば組み立て工程で不良部品を入れる箱に、規格外のネジを見つけた時に作業者が規格外のネジに気がついて除去したと安心してはいけない。すでに組み立て終わった製品に規格外のネジが使用されていないか?と心配する。そしてなぜ規格外のネジが混入していたのか原因を調べる。このような感性が「長目飛耳」だと言えるだろう。


このコラムは、2019年5月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第822号に掲載した記事に加筆しました。

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空港でカートが暴走、係員が別車両で突っ込み阻止

 米シカゴのオヘア国際空港で9月30日、ケータリング用のカートが制御不能になって暴走する騒ぎがあった。カートは駐機場にあった機体に衝突する目前で、アメリカン航空の誘導員が暴走を食い止めた。

 (中略)

カートは円を描いて暴走しながら、近くにあった航空機の機首の方へと徐々に近づいていた。そこへアメリカン航空の誘導員が別の車両に乗って現れ、カートに突っ込んで暴走を食い止めた。

 (中略)

アメリカン航空は声明を発表し、カートを止めた従業員の素早い行動を評価した。暴走したカートはアクセルが引っかかって制御不能になっていたことが判明。同航空の従業員にけがはなかったが、便の出発には10分の遅れが出た。

(CNN.co.jpより)

 詳細は報道されていない。推測すると、旅客機に機内食を積み込む作業中にカートのアクセルペダルが戻らなくなり、制御できなくなった。カートに搭乗していた作業員は危険を感じて飛び降りた?飛び降りる際にハンドルを切り速度を落とそうとしたのではなかろうか。
ハンドルが切ってあった事が幸いし、別の車両でカートを停止させる事ができた。またはハンドルから手を離すと、ハンドルが片側にロックし同じ場所を旋回するように安全設計がされていたのかもしれない。

根本原因に対する対策を考えると、アクセルペダルが引っかからないように設計する。引っかかった場合安全側に停止する仕組みを入れる、などが思いつく。
しかし「引っかかったことを検出して…」と考えると、複雑になってしまう。
こう言う仕組みは単純なほど良い。今回の事例では、主電源を落とす非常停止ボタンをつければ良いだろう。

工場の設備も問題が発生した場合、安全側に停止する仕組みを組み込んでおくべきだ。


このコラムは、2019年10月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第886号に掲載した記事に修正加筆しました。

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不良対策

 不良が発生したら、再発防止対策を検討する。当たり前のように聞こえる。
しかし「不良が発生したら再発防止対策を検討する」この様な姿勢だから不良がなくならない、と私は考えている。

例えば、家庭では散らかったり汚れたりすると整頓や掃除をする。しかし工場の5Sは散らかる前に整頓し、汚れる前に清掃をする。だから散らからないし、汚れないのだ。

不良も同様だ、不良が発生してから対策をするのでは遅い。不良が発生する前に対策をすれば、不良は発生しない。

詭弁の様に聞こえるかもしれない。しかし市場回収をしなければならない不良、従業員・工場設備の安全に関わる事故が発生すれば、企業の存続に即影響する。

不良が発生する前に行う対策を「未然防止対策」という。
他社事例、他業種・他業界事例を自社に適用し、同様な問題が発生しない様に対策を検討する。こういう活動が不良が発生する前の不良対策活動だ。

例えば、アルミ製品の加工工場で粉塵爆発が起きたら、製粉工場、木工工場等も対策を検討し、未然に対策を実施しておくという具合だ。

毎週水曜日配信の「失敗から学ぶ」のコラムはそういう趣旨で書いている。
先週のアエロフロート機着陸失敗事故では、操縦室内のリーダシップについて考えたが、どの様な組織・チームでも同じことが起きうるだろう。

つい先日発生した伊丹空港での保安検査ミスによる大混乱も、製造業にとって参考事例になるはずだ。


このコラムは、2019年9月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第882号号に掲載した記事です。

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伊丹空港保安検査

 全日空(ANA)によると、26日午前7時すぎ、大阪(伊丹)空港の全日空便の保安検査場で、女性係員が手荷物にナイフを持ち込んだ乗客を見つけたが、誤って乗客に返却した。係員が誤った対応に気付き、約2時間40分後の同9時40分ごろから、搭乗待合室にいた他の乗客も含めて全ての手荷物検査をやり直し、空港ターミナルが混乱している。

 保安検査場を約2時間にわたって閉鎖し、検査場を通過した乗客らもいったん外に出すなどして安全を確認した。同社によると、この影響で午前9時40分以降の全便の運航を見合わせ、遅延や欠航が相次いだ。午前11時50分現在、到着便を含めて計14便の欠航が決まった。

 捜査関係者によると、40~50代男性が折りたたみナイフを1本所持し、係員が誤って「この長さなら大丈夫」と通したという。

(神戸新聞より)

 この事故により、南側ターミナルは午前9時30分ごろから午前11時59分まで約2時間30分にわたり閉鎖となった。伊丹発着の28便が欠航となった。
男性が持っていたのはアーミーナイフ。航空法第86条では、刃物などの危険物の機内持ち込みを原則禁止している。保安検査員は男から持ち込んで問題ない旨の説明を鵜呑みとし、保安検査を通過させた。

 ANAは保安検査場の入場を停止後、搭乗済みの乗客も降ろして再検査を実施。午前11時44分までに、南側保安検査場を通過したすべての乗客を一般エリアに誘導し、正午から保安検査を再開した。

問題の男は特定されず、事態収拾前にナイフを持ったままANA機に乗って伊丹空港を離れた様だ。

何が起きたのかは想像の域は出ないが、この事例をどう学ぶかを考えたい。

この事故の根本原因は、保安検査でナイフを男に返却した係員の「判断ミス」だ。保安検査では、ハサミでさえ機内持ち込みを禁止されることもある。

判断ミスに対する対策は、更に分析しなぜ判断を誤ったかを特定しなければならない。

係員のミスさえなければ、問題は発生していない。
しかし問題の影響がここまで拡大したのは、係員のミス発生後の対応に問題があったと考えられる。

我々製造業に馴染みのある表現で言えば、不良発生後の修復処置が適切でなく問題の波及範囲が拡大してしまった、ということになろう。

この様な事態が発生した場合の修復処置手順は以下の様になるだろう。

  1. 保安検査を通過した乗客(搭乗済みの乗客を含む)全員を保安検査前に戻す。
  2. 保安検査後のエリア、搭乗開始済みの機内で問題のナイフを捜索する。
  3. 捜索終了後再度保安検査を実施。

今回の事件の影響が拡大したのは、修復処置に手間取った、且つ乗客への情報提供が不十分だったからだろう。

しかも問題のナイフとそれを持った男は、発見されていない。

7時から9時40分まで修復処置に手をつけられなかったのは、この様な事態が想定できていなかったためと考えられる。今回の問題は保安検査で100%食い止めるめるべき問題ではあるが、この関門が破られたら、という想定をするのが未然防止だ。
「関門が破られたら」という想定をFMEAでは「潜在不良」と定義している。


このコラムは、2019年10月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第883号に掲載した記事に修正加筆しました。

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トヨタ、ヴィッツ8万台リコール 窓開け閉めで不具合

 トヨタ自動車は21日、乗用車ヴィッツ8万2226台(05年1月~8月製造)のリコール(回収・無償修理)を国土交通省に届け出た。運転席のドアにある窓を開け閉めする電気スイッチの内部がショートして、窓の開閉が
できなくなる恐れがある。これまでに32件の不具合が報告され、08年11月には、島根県でスイッチから発火した事案もあった。けが人はなかった。

(asahi.comより)

 トヨタがおかしい.
この8月にトヨタは中国市場で窓の開閉スイッチの不具合によりヤリスを含む68.8万台のリコールをしたばかりだ.

「トヨタ、中国で乗用車68万台をリコール 窓の開閉装置に不具合」

ヤリスは名前が違ってもヴィッツそのものだ.中国でリコールを発表して2ヶ月経ってから日本国内で回収を発表している.しかも中国で回収対象となっている他の車種,カムリ,カローラ,ビオスについては記事には何も触れられていない.

市場での発煙事故から14ヶ月かかっての回収発表だ.

国内市場向けの車は国内で生産しているだろうから,問題のスイッチメーカは中国で回収対象となったメーカとは違う可能性もある.しかし68.8万台の回収事故に対して,水平展開が図られなかったのだろうか.

簡単な事だ.
スイッチの故障モードに対してFMEAを全車種に展開すれば良いだけだ.
検査容易度:スイッチベンダー,工程内でのこの不良モード検出度
故障率:この不良モードの予測故障率
影響度:この不良モードが完成車の運転に与える影響度

 パワーウィンドウが開閉できなくなったとしても,重大な影響はないと考えてはだめだ.運転手がパワーウィンドウに気を取られて運転ミスをすれば即人身事故につながる.これは完成車メーカが一番良く知っているはずだ.

この評価を使用しているスイッチの構造,製造方法ごとに実施すれば,どの車種が危ないかすぐに分かったはずだ.

トヨタはモノ造りに関しては自動車産業を超えて世界中の企業から尊敬・研究の対象となっている.
そのモノ造りの根底にあるのが「顧客中心主義」「品質第一の心」だと理解している.
最近立て続けに発生した回収問題が,トヨタ崩壊の予兆でないことを祈るばかりだ.

このような大きな回収問題を発生させても,まだ生き残っているのはトヨタという強い体力を持った大企業だからだ.中堅・中小企業ならばひとたまりもない.

設計段階,生産移行段階から安全レビューを実施するなど予防保全的な仕組みを構築する必要がある.


このコラムは、2009年10月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第122号に掲載した記事に加筆したものです。

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衛星「ひとみ」運用を断念 太陽電池パネルが分解か

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は28日、通信が途絶えていたX線天文衛星「ひとみ」の運用を断念したと発表した。電源の太陽電池パネルが根元から分解した可能性が高く、回復は見込めないと判断した。X線を観測してブラックホールなどの詳しい様子を調べる計画だったが、研究も停滞することになる。

 衛星は2月17日に種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられ、3月26日午後4時40分ごろから地上と通信ができなくなった。機体が複数に分解、回転していることが観測で判明していた。

 JAXAが原因を調べたところ、衛星の姿勢制御のプログラムが不十分で機体が回転。衛星は自動的に噴射で立て直そうとしたが、事前に送った信号に設定ミスがあり、逆に回転が加速した。このため、太陽電池パネルや長く伸びた観測用の台の根元に遠心力がかかり壊れたとみられるという。

 JAXAは当初、通信が途絶えた後も3月28日までは衛星からの電波を短時間確認できたとし、パネルが太陽の方向を向くようになれば復旧の可能性があるとしていた。しかし、電波は別の衛星のものだと判明したという。

 JAXAの常田佐久・宇宙科学研究所長は会見で謝罪し、「人間が作業する部分に誤りがあった。それを検出できなかった我々の全体のシステムにより大きな問題があった」と述べた。

 X線を観測して宇宙の成り立ちを探るX線天文学は日本のお家芸とされ、ひとみは6代目の衛星。米国などとの共同開発で、日本は打ち上げ費を含め約310億円を負担していた。

(朝日新聞電子版より)

 初代X線天文衛星「はくちょう」以来3代目「ぎんが」の活躍で日本はX線天文学の中心的役割を果たして来た。しかし、4代目「あすか」は制御不能。後継機は打ち上げ失敗。5代目「すざく」も故障。と言うていたらくだ。
しかも問題は「はやぶさ」の様に遥か彼方での探索ではなく、地球周回軌道でオペレーションが出来なかったことにある。今まで多くの技術蓄積が有る分野での失敗だと言うことを重く捉えなければならない。

記事によると、姿勢制御プログラム(もしくはパラメータ?)のミスと、姿勢制御の遠隔操作ミスが重なった為に衛星の回転が加速したようだ。プログラムのバグも操作ミスも、一括りにしてしまえば「人為ミス」だ。

二流の企業であれば対策として「人員の再教育」などいうだろう。
JAXA研究所長は「人間が作業する部分に誤りがあった。それを検出できなかった我々の全体のシステムにより大きな問題があった」といっている。

私には、この姿勢は正しいと思える。人のミスが原因としてしまえば、対策は困難だ。人のミスを発生しにくくする、ミスを事前に検出すると言う「全体のシステム」を改善しなければならない。

プログラムにはバグが有るのが前提だ。
いかにバグを事前に検出するか、バグが有っても致命故障にならない様に冗長性を持たせるか、と考えるべきだろう。
操作ミスも同様だ。操作ミスが起きる要因(間違えやすい、操作しにくいなど)を極力排除し、ミスが致命傷にならない冗長性を持たせる。

衛星と言う限られた資源の中で冗長性を持たせるのは困難かも知れない。しかしコントロールセンターにシミュレータを置き、操作結果がどうなるか検証してから、遠隔操作のコマンドが送られる様にする事は可能だろう。


このコラムは、2016年5月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第474号に掲載した記事に加筆修正しました。

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品質不良のアフターフォロー

 以前一緒に仕事をした台湾人から久し振りにSkypeでチャットの呼び出しがあった.

生産委託工場の品証部経理をしていた人で,お互い職場が変わっても時々連絡をくれる.
中国語でのチャットは正直疲れるのだが(笑)昔一緒に仕事をしていた人から連絡がもらえるのは楽しいものだ.

今彼は蘇州方面にある,医療器具メーカの品証経理をしている.今回の報告は客先からの不良クレームの件であった.

OEMユーザに出荷した新製品第一ロットの製品の主銘版ラベルの貼り方向が間違っている,というクレームだ.

ちょうど国慶節休暇の最中であったが,彼は休暇中どこにも行くあてがなかったので(笑)即バスと電車を乗り継いで顧客の工場に出向いた.

顧客側はすぐ来てくれるとは考えていなかったようで,休暇中の訪問を大歓迎してくれた.
彼は叱られると覚悟をしていったのが,嬉しい肩透かしであった.
しかも帰りには,次のロットからシェアを上げてもらえる,という約束をもらって帰ってきた.
営業がいくら頑張ってももらえなかったシェアをいとも簡単にもらえた.
そんな事を嬉しそうに話してくれた.

しかし喜んでばかりはいられない.
原因の特定と再発防止が必要である.例によって「作業者に注意します」という報告書を書くつもりだったようだが(苦笑)事情を聞いてみると,最初の仕様決めのときに問題があったようだ.

OEMユーザの図面にはラベルの方向が明示してなかった.

彼には受注時に,顧客仕様が製品設計に十分な情報が揃っているかどうかもレビューするようにアドバイスした.

顧客不良に対するアフターフォロー(後始末)も大事だが,不良を発生させないビフォアフォロー(前始末)はもっと重要だ.

以前開発のエンジニアをしていた時に,新製品に某OEMメーカのCRTディスプレイを採用した事がある.
採用決定後OEMメーカの品証部から最終完成品を見せてくれと申し入れがあった.OEMメーカの品証エンジニアは我々の製品をチェックし,高電圧(25kV)のアノードキャップから25mm以内に金属筐体があるので設計変更をしてくれと申し入れてきた.

アノードキャップは絶縁体でできており,アノード電極(25kV)がむき出しになっているわけではない.従って筐体を設計変更する必要はないと感じたが,OEMメーカの心意気に感心した私は,すぐにメカ設計チームに設計変更を要求した.

こういうのが本当の品質保証活動だと思うのだ.


このコラムは、2008年11月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第59号に掲載した記事です。

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問題解決の優劣

 問題に優劣なし、問題解決に優劣有り。
 問題に気付かぬは問題外。
 処置のみするは下。
 再発防止をするは中。
 未然防止をするのが上。

現場の改善指導をしていてこの標語を思いついた。
問題には影響の大小、重軽はある。リコールに発展する市場問題、工程内で発見出来る不良問題など、経営に与える影響の大きさは同じではない。従って問題に対する対応の優先順位や緊急度の違いはある。しかし問題そのものに優劣がある訳ではない。

問題に優劣はなくとも、問題解決には優劣がある。
問題解決を誤って倒産、と言う事例を挙げればきりがないだろう。

使用期限切れ材料で問題を起こした飲料会社は、問題解決を誤り倒産。
ゴキブリ混入問題を起こした食品会社は、工場・設備を作り直し清潔の見える化を徹底した。たった1件の問題にここまで対応し、消費者の信頼を回復。

この差は大きいが、違いは僅かだ。
問題発生時に世間(お客様)から逃れようとするか、真っ向から対応するかの違いだ。

問題解決の優劣を検討してみよう。

「問題に気付かぬは問題外」
 これは説明するまでもないだろう。
職場で発生しているヒヤリハット問題に気が付かず放置した結果、安全事故が発生する。
工程内で発生している慢性不良に気が付かず(麻痺して)放置、客先に流出、最悪市場まで流出。

「処置のみするは下」
 処置とは、発生した問題を正常に復帰させることをいう。次の様な例で理解出来るだろう。
設備から異音が発生。調査の結果扉を固定しているねじが緩んで、扉が設備の振動と共鳴し異音発生と原因が分かった。
ねじのまし締めをするのが処置。
なぜねじが緩んだのかを原因究明しないと問題解決は出来ない。

人為ミスに対し、ミスをした作業者に「注意」「再教育」「罰金」をするのが処置。
なぜ人為ミスが発生するのかを原因究明しないと問題解決は出来ない。

「再発防止をするは中」
 前述の例で言えば、再発防止とは次の様な対策となる。
なぜねじが緩んだ→ねじに振動がかかり続けた。なぜネジに振動がかかった→モータが振動した。なぜモータが振動した→モータのプーリーが偏心。
と解析の深度を深めれば、プーリーの偏心を修正する事が再発防止となる。

人為ミスも同様に解析し、やりにくい、分かりにくい、間違えやすいなど人為ミスが発生する原因を除去する事で再発防止となる。

再発防止の中でもランクが存在する。

  • 人の注意力に依存する対策(例えば目視検査)は下の下。
  • 検査で不良を除去するのは下。
  • 発生原因を除去する生産方法の改善(例えば治具の活用)は中。
  • 発生原因そのものを除去する(例えば設計変更)は上。

「未然防止をするのが上」
 未然防止とは、まだ発生しない問題に対し対策を実施する予防保全だ。
例えば次の様な問題に対する事前対策が未然防止対策だ。

  • 工程内で発生したヒヤリハット。
  • 設計、生産に於ける潜在不良。(FMEAが活用出来る)
  • 他社事例、異業種事例。

このコラムは、2017年6月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第533号に掲載した記事に加筆しました。

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異常感度を上げる

中国で生活をしていると,「異常」と感じる閾値の差を思い知らされる事が多い.

ジムの蒸気サウナの温度がなかなか上がらなくなったことがある.普通15分もあれば,十分熱くなるのだが,1時間かかっても熱くならなくなってしまった.受付の事務員に,壊れているから直すように言っても,全く改善されない.痺れを切らせてナゼ直さないかとマネージャに聞くと,壊れてないと言い張る.

蒸気は出ている.熱くなるのに時間がかかっているだけだ.と言う.
では,ナゼ時間がかかるのかと聞けば,2つあるヒータの内1本が切れたと言う.こういうのを「壊れた状態」と言うのだと教えても,「使える」と言い張る.

彼らにとって,正常と異常の間にある閾値は,使える・使えないの閾値だ.使えている間は,正常であり,異常ではないという判断だ.

同様なことに,工場の現場でも良く直面する.
例えば,
プラスチック成型工場.4個取りの金型が,バリの発生がひどくなり,4個あるキャビティの内3個が使えなくなってしまった.この状態でも,1個取りの金型として生産を継続している.

電子PCBアッセイ生産工場.半田DIP槽のスプレーフラクサーのノズルが,フラックス残渣が固まり揺動動作が緩慢になっている.指摘をしても,ノズルの動力源(圧縮空気)の圧力を上げるだけ.

電子製品の組立工場.プラスチックケース組み立て前に,内機に塗布した接着剤の量が明らかに多すぎる.しかしケース組立員は何事もなくケースを組み立ててしまう.

こんな実例を挙げたらきりがない.

異常と正常の間にある閾値が,我々の期待と違いすぎるのだ.
この違いを是正するために,ひとつずつ「異常状態」を教えていたのでは,手がかかりすぎる.

例えば,人間は「健康」と「病気」の二つの状態だけではない.
人の健康状態は「健康」「健康ではない」「病気」の三つの状態があるはずだ.
つまり「健康」「病気」以外に「まだ病気ではないが,健康とは言えない」状態がある.
この「健康ではない」状態を放置しておけば,すぐに病気になる.

工場も同じだ.
「正常」「異常」の二状態以外に,「異常とは言い切れないが,正常ではない」状態がある.
「正常」状態をきちっと定義をしておき,それ以外の状態になった場合の行動を決めておく.

「異常」の範囲を定義しようとすれば,まだ発生していない異常も列挙する必要がある.しかし「正常」の範囲を定義することは比較的容易だ.「正常ではない」状態を全て「異常」と定義することにより,「異常感度」は上がるはずだ.


このコラムは、2010年8月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第166号に掲載した記事に加筆しました。

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地下鉄丸ノ内線車内で洗剤の缶破裂 男女2人重傷

 20日午前0時20分ごろ、東京都文京区本郷2丁目の東京メトロ丸ノ内線本郷三丁目駅に停車中の電車内で、「乗客の女性が持っていた缶を振っていたら破裂した」と110番通報があった。東京消防庁や警視庁によると、中に入っていた液体が飛び散って乗客にかかるなどし、11人が手当てを受けた。いずれも意識があり、男女2人が重傷という。
 東京消防庁によると、11人は20代から50代で、男性4人、女性7人。このうちの20代の女性が持っていた容器が破裂したという。メトロによると、缶には「強力洗剤」と書かれていた。東京消防庁によると、女性は、コーヒーのキャップ付きアルミ缶に強アルカリ性の業務用洗剤を入れていたという。

asahi.comより

 アルミニウムとアルカリ性の洗剤が反応し,水素が発生.アルミ缶の内圧が上昇し,その圧力に耐えきれず破裂したのであろう.

こういう事故も人ごとではない.
中国の工場で,プラスチック容器に潤滑油や薬剤を入れているのをしばしば見かける.大きな缶から,使い易い様に小分けにしているのだろう.

しかしプラスチック材料によっては,切削油や潤滑油の様な鉱物性油によって劣化してしまう.ペットボトルなどは手軽に使えるが,酸やアルカリに対する耐性はあまり強くない.

ペットボトルに平気でガソリンを入れているのを見るが,危険きわまりない.ガソリンを入れておいても,短時間ならばPETは劣化はしないだろう.
しかしペットボトルからガソリンを注ぐ時に,ペットボトルが帯電する.絶縁体であるペットボトルから放電することはないが,それを支える人体は導体だ.給油中に給油口の金属に静電気が放電すると,ガソリンに引火し爆発・火災が発生することがある.

また容器を移し替えた場合,入っている物が何であるか表示も必要である.誤用があると大変なことになる.

ある工場で5Sを指導する時に,トイレ掃除用にペットボトルに入ったコヒー色の液体を発見した.掃除係のおばちゃんの説明によると,塗装の前処理に使う酸洗い用薬液の廃液だそうだ.この廃液で便器を磨いていたそうだ(苦笑)
表示がしてないこと以前に,この様な危険な薬液をトイレ掃除に使うべきではない.
表示が無い訳の分からないモノを処分しようとして,事故が起こる可能性も十分に考えられる.

本日のニュースは,現場に訳の分からない液体が,ペットボトルにないか再点検する様に,我々に示唆を与えてくれている.


このコラムは、2012年10月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第280号に掲載した記事です。

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