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統計手法

 先週は、ネジを作っている工場を訪問した。改善アドバイスをした後に、困っているコトありますか?と聞いてみたら意外な質問が来た。

ネジを生産している人たちは、生産を数量では管理していない。重量で管理している。一方顧客の方は、数量で発注をする。当然顧客側は、部品表に指定してあるとおりに、ベンダーに注文するわけだから、ネジを1kg発注することはない。1000本と発注する。

しかしネジの工場では、本数を数えていては、梱包作業に時間がかかりすぎる。したがって、重さで本数を管理している。つまり1本のネジの重さを量り、1000倍した重さで、1000本のネジを梱包する。

バネ、リベットなど小さな部品は、同様な管理をしている工場は多いだろう。

ところがこの方法で出荷すると、顧客から本数が足りないとクレームが来るそうだ。顧客がわざわざ受け入れ検査で、ネジの納入本数を検査しているとは考え辛いが、そのようなクレームがあるという。

やむを得ず、何個か追加して出荷しているが、小さなネジの場合なかなかクレームがなくならないそうだ。どうすれば良いかと聞かれた。

こういう時にこそ統計的なモノの考え方をすればよい。

通常出荷する時に、出荷ロットの山から、1本製品を取り電子秤に乗せる。重量を測定した後、出荷個数を入力すれば、一袋に詰めるべき重量が自動的に電子秤に表示される。その重さになるように、袋詰めする。
これが通常の作業方法だろう。

これを統計的に考えてみる。
ネジは皆同じ重さではない。ある範囲でばらついているはずだ。たまたま秤に乗せた1本が、そのバラツキの軽い方のネジだったら、出荷重量規格は小さめに設定されてしまう。ネジの重量バラツキが1本分の1/1000だとしても、梱包単位が1000本だとすれ
ば、その影響は無視できなくなってくる。

したがって、この問題を解決するには、統計的アプローチを取る必要がある。

生産ロットごとに、ネジ重量の平均値、ばらつきは変化するはずだから、生産ロットごとに、梱包の重量規格を変える必要がある。

生産ロットごとにサンプルを抜き取り、そのサンプルデータから平均値、標準偏差を計算する。この値をその生産ロット全体の、平均値、標準偏差の推定値とする。

検査規格を、(平均値+3×標準偏差)×梱包個数
とすれば、梱包個数未満の袋が発生する確率は、0.15%以下となる。
もしも0.15%もクレームが来ては困る、と言う方は、
検査規格を、(平均値+4×標準偏差)×梱包個数
としていただけば良い。これならば梱包個数未満の袋は30ppmしか発生しない。100万回梱包して30回だけだ。

納入本数が足りないと言うクレームに対し、むやみに余分に出荷する、または、自動機で個数をカウントする、という対策を取れば、コスト上昇を招き、利益は減る。

自動機で個数をカウントすれば、正確になるが、設備投資が必要になり、計数時間は秤を使う方式よりは、遅くなる。

統計的手法を使えば、梱包数量が少ない不良を、統計的に少なくすることになる。本来の梱包数量より若干余分に梱包する可能性があるが、全て作業員が数えたり、自動カウンタを導入するよりははるかに安いだろう。


このコラムは、2012年11月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第284号に掲載した記事です。

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C管理図

 C管理図は欠点数の工程管理に使用する。
布地の織り傷の数、液晶画面の欠点数などは、その発生確率はポアソン分布になる。例えば、交通事故の数、切符販売窓口に並んでいる人の数もポアソン分布だ。欠点は不良とは少し異なる。不良率は、その分母の数が分かっている。しかし欠点は分母が無限に大きくなる、もしくは良く分からない。

例えば交通事故の件数を率で表そうとした時に、分母はどう考えれば良いか?
車全部の数とすると、ちょっと変だ。1台の車が2度事故を起こすことだってありうる。
クリーンルーム内の1立方ft当りのダスト数の分母は何になる?1立方ftに入るダストの数なんて無限大だ。
こういう数はポアソン分布に従うと考えれば良い。

では、C管理図は何を管理しているのか?
当然ダストの数も、交通事故の件数もバラツキが有り、測定するたびに違う値となる。このバラツキは0から無限大まであり得る。しかし平均値から離れるに従って、その発生確率はどんどん小さくなる。

例えば、ある都市の平均年間交通事故件数が3,650件であり余り変動していないとすれば、1日に10件交通事故が発生する確率となる。しかし毎日10件発生する訳ではない、0件の日も有れば20件の日も有る。100件発生することもありうる。しかし1日に100件も交通事故が発生することは稀(発生確率が低い)になるはずだ。

C管理図は、偶然のバラツキなのか、何か原因が有ってバラついているのかを識別するために使う。
発生確率が0.3~99.7%の場合は、偶然のばらつき。
0.3%以下の場合は何か異変が有る。と判断する。

クリーンルームのダスト管理では、
実力範囲(確率0.3%以上で発生するダスト数の範囲)内のバラツキなのか、異常(確率0.3%以下で発生するダスト数の範囲)なのかを上下限の管理線の内側に有るか、外側に有るかで判断する。
下限管理線よりダストが少なければ良いではないか、と考えてはいけない。偶然ではない何かが起きている、例えばダストカウントの測定を間違えた、測定器が壊れたなどの異変が起きていると考えるべきだ。
これがC管理図の「理屈」だ。

全ての数字にはバラツキが有る。
このバラツキが「偶然によるバラツキ」なのか「何か原因があるバラツキ」なのかを区別することが、統計的品質管理の「理屈」だ。

理屈さえ覚えておけば、統計的品質管理は難しいことではない。


このコラムは、2015年7月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第432号に掲載した記事に追記しました。

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宇宙行けば体重減ります 宇宙機構、飛行士514人解析

 宇宙に行くと体重が減る──。宇宙航空研究開発機構の松本暁子医長らのグループが、30~50歳代の宇宙飛行士延べ514人について、宇宙へ行く前後の体重変化のデータを集め、そんな解析結果をまとめた。

 調査対象は、1961年から2004年の間に宇宙へ行った米国、日本、カナダ、欧州、ロシアの飛行士のうち、米航空宇宙局(NASA)の記録があった男性延べ434人、女性同80人。宇宙飛行の前後で体重が平均2.13%減っていた。

 宇宙では、無重力のため筋肉量が減るほか、体液の移動など様々な要因で、体重減少が起きるらしい。地球に帰還し3カ月~1年経った後も、飛行前に比べて平均約1%軽かった。

(asahi.conより)

 こういうデータの出し方は,大変胡散臭い.
例えば私の場合体重68kgなので,2.13%の体重増減といえば,約1.4kgだ.このくらいの体重変動ならば,朝食前と夕食後では十分起こりうる.また2,3kmジョギングしただけでも,その程度の体重は減る.

たまたまあったデータで,科学的な結論を導こうというのが間違いだ.

宇宙に行く前後の体重データには,測定時条件の誤差+測定誤差+宇宙効果が含まれている.測定時条件とは,測定時に空腹だったかどうかなどの身体的な条件による誤差.測定誤差は,測定器具と測定方法による誤差.これらの誤差が,宇宙効果よりも小さくなくては有意とはいえない.

しかも宇宙効果の中には,個人差によるバラツキ,宇宙滞在期間によるバラツキが含まれる.

従ってこの調査によって得られるのは,宇宙に行くことにより「筋肉量の減少」と「体液の移動」によって体重が減少するかもしれないという仮説だけだ.

体重減少のメカニズムを考えると「筋肉量の減少」は,再評価する価値がありそうだ.しかし「体液の移動」に関しては,移動しても体液はまだ体内にあり,体重変動があるとは思えない.

科学的な結論を得ようとするならば,検証可能な仮説を立て,正しいデータにより検証をしなければならない.
当然データには誤差によるバラツキ,効果によるバラツキが含まれる.これは統計的に検証可能だが,正しいデータを取らなければ誤差によるバラツキの方が大きくなってしまい,有意な結論を導くことはできない.

まずは具体的な仮説を設定する.
この例で言えば「宇宙に行く前後で体重減少がある」は,まだ具体的ではない.
「宇宙滞在時に筋肉量が減り体重が減る」という仮設にすれば,具体性が増す.
その仮説に基づき,必要なデータを集める.
この例ならば,宇宙滞在期間と体重減少量との間に相関があるかどうかという仮説を検証するデータを集めればよい.

その上で各個人の体重減少量のバラツキが,誤差によるバラツキより十分大きいことが検証できれば,この仮説は有意であると結論をつけることができる.

今「イシューからはじめよ」という本を読んでいる.
著者の安宅和人氏は,脳神経科学の研究者であり,経営コンサルタントのキャリアを持つという変わった人だ.
本書の中で,問題を解くことを考えるのではなく,まず問題を見極めよ.その上で価値のある結果を導け.と説いている.

今まで問題解決に関する書籍にはたくさん出会ってきたが,安宅氏のようにまず問題を見極めよ,という主張は新鮮であり,もっともだと思う.

ご興味がある方は是非一読をお勧めする.
ただし今回のコラムに書いたような統計的手法について語っている本ではない.

「イシューからはじめよ」


このコラムは、2011年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第213号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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