中国の家電メーカ・ハイアールが三洋電機の冷蔵庫事業、洗濯機事業を買収して作ったハイアールアジアの事業戦略説明会が6月2日に開催されたそうだ。
日経トレンディの記事「ハイアールの“価電”戦略続々! 新参社長の新発想を旧三洋技術者が形に」から、家電製品の将来を考えてみたい。
ハイアールアジアの社長・伊藤嘉明氏の経歴を見ると、意図的に家電業界を避けてキャリアアップして来られた様にすら見える(笑)家電業界の「新参者」を自らのアイデンティティとされている。
その新参者が発表した新製品は、
- 扉が液晶ディスプレイで出来ている冷蔵庫
冷蔵庫の扉に液晶ディスプレイがついている訳ではない。扉そのものが32”の液晶ディスプレイで出来ている。 - R2D2型移動式冷蔵庫
スターウォーズに出て来るロボットコンビのR2D2の形をした小型冷蔵庫。呼ぶとそばまで来て冷えたビールを体内から取り出すことができる。 - 移動式冷蔵庫
キャリーバック型の冷蔵庫。冷凍食品を買った後カフェでのんびりお茶する事が出来る。 - 水を使わない洗濯機
オゾンのエアシャワーでスーツやジャケットを洗浄。 - スケルトン洗濯機
洗濯機の中で洗濯物が水流に乗り漂っているのを眺める洗濯機。
などなど、誰がそんなモノを買うんだ、と突っ込みたくなる製品ばかりだ。しかしそんな製品が有ったら楽しいだろうなぁと自分も思ってしまう(笑)
伊藤社長の説明によると、彼らが造っているモノは「家電」ではなく「価電」であり「可電」だと言う。つまり「冷やす」「保存する」「洗う」「乾かす」と言う基本機能で差別化出来なくなったコモディティ製品の新たな「価値」や「可能性」を提供する、と言うコンセプトだ。
洗濯機の歴史を見ると、洗濯機が商品化されたことにより家庭労働の負担が劇的に軽減された。それまではタライの前に腰を下ろし、洗い板を使って手で洗っていたのだ。それが自動となる。更に脱水機が付く。その上洗濯槽と脱水槽が一つとなり、洗濯物を移すことが必要なくなった。更に乾燥機も一体化し
洗濯物を干す手間すら要らなくなった。
ここまで来ると、もう新たに追加する機能が見当たらなくなる。洗濯物がからまない様に水流を工夫する。夜でも洗濯出来る様に静粛性を上げる。
買ってもらう為に値段を下げる、と言う方向に行かざるを得なくなる。
国内マーケットが縮小方向に向い、成長する新興国市場を目指しても、今までのプライドが有り、そこそこ品質・単機能の新興国ボリュームゾーンに訴求する製品が作れない。そんな所が、従来の家電メーカが抱えている悩みだった。
そこに新参者・伊藤社長が、商品開発に新たなコンセプトを持ち込んだ。
開発設計者は、価格競争に勝つ製品ではなく、自分たちが欲しい物、お客様のワクワクする物を設計することになる。仕事が楽しいに違いない。
三洋電機が中国企業に買われてしまったと聞いた時には、元三洋電機の方々の思いを考え、国の産業に対する憂いが有った。しかしこの記事を読む限りでは、元三洋電機の方々は仕合せに働いておられると言う印象を持った。何よりだ。
そして伊藤社長の考え方は、我々も大いに参考にすべきだと感じる。
基本機能や基本性能では差別化することが困難になり、コモディティ化した製品や部品を生産している企業も、この発想をもって「価値」や「可能性」を高めたいモノだ。
例えは悪いが、製品の機能を上げる、性能を上げるのを、ど真ん中直球勝負とと例えるならば、変化球で目先を変える、更に言えばボール球を振らせる作戦が伊藤社長の発想の様に思える。
このコラムは、6月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第428号に掲載した記事です。
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