シンプルに考える


 「物事はシンプルである」エリヤフ・ゴールドラット博士の「ザ・チョイス」の根底にある考え方だ。

例えばパン屋さんは閉店時間が近づいて、売れ残りそうなパンばあれば値引きして売り切ろうと考える。逆に閉店前に売り切れてしまえば、販売チャンスを失う。
したがってパン屋の経営者は、「売れ残りがない」「売り切れがない」と、相反する目標を達成するために知恵を絞る。

顧客の需要が正確にわかれば、それに合わせて仕入れをすれば良い。
例えば地域全体のパンの需要動向が日々わかっていれば、連動させ仕入れ数を決めればいい。しかしそのような統計データはないだろう。日本全体の需要量、季節変動、曜日ごとの変動などがわかれば、予測はできるかもしれない。しかしそのデータは、明日自分のパン屋で売れるパンの数ではない。

パン業界という大きな塊で考えれば、需要予測はつくだろう。しかしその中の小さなパン屋では、変動要因が複雑でバラツキが大きくなる。実用的な予測は不可能だろう。

この問題はパン屋一軒ごとの問題ではない。パン屋は売れ残りを嫌って仕入れを少なめにする。多くのパン屋に出荷している製パン工場にとってみれば、大きな販売機会の損失となる。

売れ残った商品を割り引いて引き取る。という対策を製パン工場は考えた。
同業者も真似をし、割引率の引き上げという不毛な競争に陥った。

ここで「需要の予測は不可能である」とシンプルに考える。
製パン工場は1日一回だった出荷を、朝と昼の二回に変更した。
パン屋は午前中の売れ行きを見て午後の注文を確定する。午前中に売れ切れた場合は「お昼に用意しておきます」と顧客に言うことができる。顧客は親切なパン屋だと誤解(笑)するだろう。

顧客満足→パン屋の繁盛→製パン工場の業績向上の連鎖が完成する。

「顧客需要の予測」という恐ろしく複雑なことを「顧客需要は予測不可能だ。ではどうすればいいか」とシンプルに考える。

障害は時として、競合他社との競争に打ち勝つ障壁となる。


このコラムは、2021年3月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1115号に掲載した記事です。

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