品質より優先すべきモノは何か?と言う問いがあったとすると、あなたはどう答えるだろうか?
多分このメールマガジンの読者様は「安全」と答えるだろう。
どういう答えが正解だと言う事は無いかもしれない。しかし日本人の経営者の内大部分は、品質より優先すべきモノがあるとすれば、それは安全だと答えるのではないだろうか。
製品を購入してくださったお客様の安全、自社従業員の安全を無視して企業が成り立つはずは無い。私も、優先順位は安全、品質、効率の順番だと考えている。
しかし今まで付合って来た中華系の経営者と話をしていると、微妙に違う事がある。日系企業に勤務し、そこから独立した中華系経営者ならば「品質第一」「顧客第一」と答えるかもしれない。
ある台湾人経営者は、顧客の信頼がまず大事だと言う。
自社の中国工場に生産能力に余裕があるのに、すぐそばに新工場を建設した。しかもすごく立派な外観の工場を建ててしまった。
新規受注の当てがあるの?と聞くと「当ては無いが、工場が立派でなければ顧客が信用してくれない」と言う。
高品質や納期遵守で実績を築けば顧客から信頼を得られる、と私は考えていた。しかし台湾人経営者の言う様に、受注しなければ実績は築けない。「見かけ」が第一なのかもしれない。
先日会った香港人経営者は、生産能力が第一だと言う。
顧客が必要とする物量を生産できなければ、受注はできない。品質は後から改善すれば良い、と考えているようだ。
それぞれに道理はあるのだろうが、私から見れば原因と結果が入れ替わっている様に見える。
本当に優秀なバイヤーは工場建屋の見かけではなく、生産現場の実質を重視する。もちろん財務体質が弱く、供給ができなくなるようでは困る。大量受注があれば、材料を発注しなければならない。資金を回収できるのは材料調達、加工が終わってからだ。しかし財務体質を確認するのに、工場の外観を見る者はいないだろう。
顧客が要求する物を作れる、と言うのは最低条件だ。生産量に関しては、稼働率に余裕さえあれば、何とかなるはずだ。稼働率がいっぱいでも、スペースがあれば短期間で生産能力が上がる。
しかし品質レベルをあげるのは、短期間では難しい。
以前3ヶ月で直行率98.4%の工程を、99.5%に改善した事がある。実質改善活動は生産をしながらの3週間だけだ。しかし事前に改善リーダーや班長、組長の指導ができていたから短期間で改善できた。
別の事例では、顧客クレームを1/2にした事があるが、この時は毎朝工程内不良の原因確認と、再発防止の徹底を行って半年かかった。
品質改善には一定の時間が必要だ。設備を増やせば明日から生産量が増える、と言う訳には行かない。
生産量の向上に注力し,ある程度の品質不良を放置すると,じわじわと体力を失う事になる。癌と同じだ、痛みを感じないうちに癌が進行し、気がついたら余命0ヶ月と言う事になる。
例えば、顧客で不良が発生しても、代替え品を納めていれば大きなクレームにならない。顧客が中国企業の場合こういう事例は多い。
しかし不良対応で選別のために検査人員を顧客に派遣する。
不良代替え品の生産のために小口ロットの生産をしなければならない。
これらの損失も考えれば、工程内不良の損失の10倍はコストがかかっていると考えた方が良いだろう。
しかも、不良発生により顧客の信頼は徐々に失われて行く。あるとき突然営業が呼ばれ、転注が伝えられる事になる。
従って「品質第一」は揺らぐ事があってはならない。
安全は,品質を保証する前提なので、最優先となる。
このコラムは、2015年10月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第447号に掲載した記事です。
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