一道万芸に通ず


今から400年ほど前に、宮本武蔵と言う名の剣豪が日本にいた。
宮本武蔵は武道の道を究めた剣術家、兵法家だが、書画においてもその才能を発揮したと言う。「一通百通」、一つの道を極めれば、その他の分野でも一流になれると言う事だ。

晩年武蔵が書き残した「五輪書」は中国語にも翻訳されている。

何事においても、その道を極めれば「物の理(もののことわり)」に行き着く。
「物理」は全ての道に通じている。

例えば、物理を極めれば、数学、国語、英語にも秀でる事が出来るはずだ。
高校時代の級友で、物理学が大好きな男がいた。彼は物理学のテストは毎回満点を取るが、その他の教科は興味がないので全く勉強しない。担任の教師が見かねて「物理の問題を解くには数学の力が必要なんだが」と本人につぶやいた所、数学も満点を取る様になった。
「物理を説明するためには、国語の力が必要だ」とか「先進的な物理学論文は皆英語で書かれている」ともう一言、二言つぶやいたら、彼は本物の秀才になったはずだ(笑)

「一通百通」とは、一つの道を極めれば百の道につながる、と言う意味だ。

道を極めた所にある「悟り」と、道を極めるための「修練」が表裏一体となり、「一道万芸に通ず」の状態に到達するのだろう。

大学時代にテニスの選手だった後輩がいた。何度か一緒にスキーに行った事がある。運動神経は良いのだが、スキーはお世辞にもうまいとは言えなかった。しかし何度か一緒にスキーをしている内に、彼は膝の使い方がテニスと同じだと気が付いた。テニスをしない私には、彼の説明はさっぱり分からなかったが、そこからは上達が早かった。彼は、テニスで得た「悟り」をスキーにも応用することができた。

ちなみに私はスキーで悟りを拓く所までは行かなかったが、スキーを鍛錬する感覚を持っていた。
スキーを遊びと考えれば、リフトに乗ってただ滑り降りて来るだけとなる。毎回テーマを設定して滑る。納得がゆかない時は、その場で停まり、納得が行かない滑りをした所まで登ってやり直す。そんなストイックな滑り方をしていた。

先輩や同僚はリュックにワインを入れてゲレンデに出る。多分私と一緒に滑るのは楽しくなかっただろう(笑)

中国の若者を見ていて感じるのは、自分の専門分野を狭く尖らせることにより、キャリアアップの効率を図ろうとしている様に思える。

例えば品質保証と言う分野でキャリアを積むためには、品質管理、品質改善、統計数学など色々な分野の知識、社内各部署の仕事内容に精通する事が必要だ。こういう意欲を持った若者を余り見た事がない。
自分自身をISOの専門家として、その範囲だけで成長しようとする。こういう人に経験を積ませるため、受け入れ検査の仕事を担当させようとすると、辞めてしまう事が良く有る。

以前指導していた会社で、ISO担当のリーダに社内各部署で実地の経験を積ませるために、製造や間接部門を短期間研修させようと、経営者に提案した。経営者がどう説明したのか分からないが、彼はすぐ辞職してしまった(苦笑)
10年前の苦い経験だが、今なら直接本人に「一道万芸に通ず」を説明してから経営者に進言するだろう。

あなたの周りには「一通百通」の達人にしたい部下がいますか?


このコラムは、2014年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第371号に掲載した記事に加筆したものです。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】