教育・訓練はムダか?


 新入社員に教育・訓練をする。職場異動者に教育・訓練をする。昇格者に教育・訓練をする。経営者にとって従業員への教育・訓練は必須のモノだ。
しかし同時に、せっかく教えても辞めてしまう、と言う悩みを持っている経営者も多いと思う。

教育・訓練がムダだと思っている経営者はいないだろう。しかし教育・訓練を諦めている経営者はいる。

諦める前に方法を考えよう。
教育・訓練が効率よく行われる方法を考える。
従業員が簡単に辞めない方法を考える。

例えば仕事でExcelを使う職員がいる。
(Excelが使えるかどうか、採用時に確認していると思うが、例として考えていただきたい)

この職員にExcelのマニュアルを渡して、勉強して置けといっても、いつまで経っても仕事が出来るようにはならないだろう。普通は仕事をさせながら上司や先輩が手取り足取り教える。したがって新人が仕事に慣れるまでは、一人当たりの作業効率は半減する。
ここが経営者も上司も、教育・訓練に熱心になれないところだろう。

どんな作業でもExcelの全機能を使うわけではない。
限られた機能しか使わない。その限られた機能を効率よく覚える仕掛けを作ればよいのだ。

例えば報告レポート作成作業を分析する。
製造作業員の作業分析と同じだ。
分解した作業ごとに、必要な操作知識をピックアップする。
これを作業マニュアルとして作成すれば良い。

PC作業の場合、作業マニュアルを作成するのは簡単だ。作業のステップごとに、スクリーンショットで操作画面をコピーしてゆけばよいのだ。

製造作業者には作業マニュアルがあるだから、オフィス作業者にも作業マニュアルを準備してやればよい。これでいちいち手取り足取り教えることはなくなる。

しかしこれだけでは、足りない。
たぶんこうして仕事を教えても、すぐ辞めてしまうだろう。マニュアル仕事だけではつまらないからだ。ここに「せっかく教えても、仕事が出来るようになると辞めてしまう」という経営者の悩みがある。

仕事の全体像(任務)が分かるようにしておく。
その任務を果たすための仕事がどうなっていて、その仕事をするための作業はそれぞれどうすればよいかを明確にしておく。こうしておくことにより、新人作業者が自分で能力を上げて行く様にする。これが出来ない人(向上心がない人)は辞めていってもまったく問題はない。

そしてその先に自分で仕事を定義できるようになれば、もう一段上のステップに上れるはずだ。その第一歩が上述のマニュアル作成だ。

マニュアル作成は上司やリーダの仕事だと思うと、すぐに時間が足りないなど「諦めモード」になる。マニュアルを作るのは作業している本人にやらせる。

人の成長モチベーションは、「仕事に必要な能力>現有能力」の状況で向上する。

「仕事に必要な能力>>現有能力」ではモチベーションが萎える。
「仕事に必要な能力≒現有能力」の時はモチベーションはなかなか上がらない。
「仕事に必要な能力<現有能力」の時はモチベーションの維持が困難。

上司やリーダにマニュアル作成の仕事ばかりをさせるのは、「仕事に必要な能力<現有能力」の仕事ばかりを与えると言うことだ。

一方作業員にとってマニュアル作成の仕事は、「仕事に必要な能力>現有能力」となるはずだ。自分の現有能力より少しだけ高い仕事を与え続ける。それが従業員の成長実感となれば、簡単には辞めないだろう。

経営者や上司が、教育・訓練のためにすべき仕事は、マニュアルを作ることではなく、どうすれば従業員を育成できるか考え、仕組みに落とし込むことだ。

我が師・原田則夫氏は、農村からの出稼ぎ作業員に、コストは固定費と変動費に分かれていることを教え、損益分岐点を教えた。これで彼女が退職後も食堂の経営が出来るようにしてやる。自分の日本語通訳に、秘書業務や会計学を教え、転職させて会社経営者とした。

上司は部下・従業員の生涯の幸せのために、育成をする。
部下・従業員は自分の成長のために仕事をする。
この二つがかみ合えば、強い求心力となるはずだ。


このコラムは、2012年2月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第246号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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