日中モノ造りの発展


 中国のモノ造り産業の発展のために,何か助言が出来ないか考えた(今週の雑感「外国人専門家の懇談会」参照)日本のモノ造りがたどった発展の道と,中国が世界の工場になった道の違いを分析し,更なる中国発展の課題が見えるはずだ.

この検討は,中国企業ばかりではなく,日系中国工場,日本の製造業にも気付きが得られると思う.

製造業を二つの軸でカテゴライズする.
縦軸を「製品の設計力」とする.
横軸を「製造力」とする.
それぞれを,高い・低いと層別する.
上図を以下の4つの象限で検討する.
右上:高い設計力,高い製造力(例)工作機械
左上:高い設計力.低い製造力(例)高機能LSI
右下:低い設計力,高い製造力(例)高精度の加工部品
左下:低い設計力,低い製造力(例)大量生産の日用品

日本も中国も,左下から製造業がスタートした.同一規格大量生産品を,安価に生産することにより,世界の市場要求に応えることができた.

日本はその左下モノ造りの過程で,製造力を磨き,高品質・高効率のモノ造りに達することができた.つまり左下から右下にシフト出来た訳だ.
加工機の限界制度を引き出す職人のワザ,加工機を改造する智慧,それらの製造の力が,モノ造りニッポンを支えている.

そのインフラをもとに,右上の領域に達することができた.

一方,同じ左下から出発した中国の発展は,次の様な経路だ.
海外からの投資,技術指導で同一規格大量生産品を,安価な労務費により低コストで生産し,あっという間に世界市場を席巻した.

次のステップで,中国は左上を目指した.つまり高設計力,低製造力分野にシフトした.
例えばPCの生産は,高い設計能力が必要だが,製造的には機械設備を買ってくれば可能となる.高機能LSIも同様に,設計は高度だが,製造は機械設備さえあれば可能となる.

つまり中国は,今までの延長で投資の力により左下から左上にシフトした.
従って,高機能な製品を生産出来る様になったが,高信頼性の製品は,生産出来ない.例えばPCの生産は可能だが,同じ機能のプロコンは生産出来ない.1台あたりの利益幅が大きくても,投資した設備の稼働率が落ちるからだ.

そして現在,右上の高設計力・高製造力を目指している.

この時点で中国製造業の進化がスピードダウンしている,と私は感じている.
高設計力を簡単に身につけることは難しいかもしれない.しかし左下から,左上にシフトした時の様に,海外の先進技術を導入することは可能だ.そして13億の人口を持ってすれば,優秀な頭脳は必ず育つだろう.
しかし,高製造力を得るのは簡単ではない.

ここが日本の進化と大きな違いだ.
日本では,長期雇用を前提として高い製造能力を自社で育成できた.
それは日本人の,仕事を通して成長する,仕事が人生そのものだ,と言う信条がプラスに作用している.

しかし中国では,離職率が高く能力の高い職人が育ち難い.
それは中国人労働者が,一つの仕事に熟練する喜びに気が付いていないからだ.また経営者も,投資効率を優先し,旋盤工を育てるよりは,NCマシンを買った方が速いと考えているのが原因だ.

しかし中国企業及び日系中国工場が,右上に行けないと言う訳ではない.
日本がやって来た様に,製造力を鍛えれば良いのだ.
中国人には無理だと考えている人は,人を表面でしか見ていない.環境や文化に影響される,ココロの表面は,日本人と中国人では大いに差がある.しかし人間としてのココロの深層は同じはずである.これを信じることができる経営者だけが,本物の職人を育てることが出来,右上に到達出来る.

一方日本のモノ造りが安泰であるかと言うと,そんなことはない.まさに危機に直面している.
高い製造技術を支えている,中小企業が次々と廃業に追い込まれている.高い技術があっても,受注がない.受注があっても,銀行の貸し剥がしで運転資金が確保出来ない.利益があっても,後継者がいない.この様な状況では,日本製造業の根源的な強みが失われてしまうだろう.

政府の政策には期待が出来ない.
中小企業のモノ造りが,事業として成り立つ様に必死で考えるしかない.


このコラムは、2012年10月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第280号に掲載した記事です。

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