品質保証と言う仕事


 先週末は,今指導している中国企業の経営会議の報告を受けた.
前回と違って,ほとんどの部門長はグラフを使って自部門の業績を報告出来たそうだ.情けない話だが,このレベルから教えなければならない.

この程度のことでは喜んでいられない.
彼らは広大な土地に宮殿の様な工場を建てて,仕事をしている.私の判断では,この工場は倒産の危機に瀕しており,このまま放置すれば1年以内に倒産だ.しかし経営者を含め,従業員に危機感がないのが決定的な問題だ.まさに血が流れ続けているのに気が付いておらず,大丈夫と言い続けている状態だ.

各自が自分都合で仕事をしており,企業の体を為していない.
設計は,目標コストを設定せずに設計している.この会社では,コスト責任は設計者ではなく,購買部門にある.従って,設計者が指定した部材が高ければ,購買部門の担当者が,勝手に別型番,別メーカに変更できる!図面を渡して,加工品を納入してもらうのならばそれもあり得るが,全ての部材を購買部門がコントロールしている.

営業は,受注し易い条件でしか顧客と交渉しない.その結果極端に利益率が低い仕事を受けてしまう.設定した工場リードタイム未満で仕事を受ける.

無理な価格で受けた仕事は,原価管理部の勝手な判断でコストに合う様に仕様が変更される.その結果サンプルとして1台目の生産をし顧客に見せた時点で,キャンセルを食らう.

品質保証は,源流に遡って保証しなければならないが,モノ造りの最源流である設計,営業がこのような状態だ.

製造部門も同様に「源流管理」の概念に欠ける.
不良は,最終工程で修理して直す.と言う考え方でモノ造りをしている.

現場にも危機感は全くなく,仕事中にぶらぶらと散歩している.そういう状態なのに,残業・休日出勤が常態化している.

この会社に必要なことは,ちゃんとした品質保証システムを取り入れ,それを機能させることだ.

設計レビューシステムはあるが機能していない.
顧客の要求品質をきちんと定義する仕組みがない.この会社の製品は,基本モデルは先に開発されているが,顧客ごとに仕様細部をエンジニアリングする必要がある.従って,受注判定会議を持ち顧客要求仕様のレビュー,受注金額の決定などのステップを踏む必要がある.

これらの品質保証システムを,全体から見てきちんと機能する様にしなければ,受注が増えれば,増えた分だけ不良損失が指数倍で増える.
忙しくなれば忙しいほど赤字が増えてしまうだろう.

この会社の致命的な所は,この様な状況で赤字経営を続けていても,許されてしまう所だ.親会社の利益を食いつぶして,広大な土地に宮殿の様な工場で,のんびりと仕事をしている.働いている従業員は,会社がつぶれても困らない.別の会社に転職すれば良いからだ.
しかし経営者や経営幹部は別だ.会社を潰した経営者・経営幹部を雇う様な奇特な会社はない.

唯一この会社の希望は,品質保証部門のリーダだ.彼は元々設計者であり,製品の設計に熟知している.その彼を「源流管理」の先兵とすべく,意欲と知識を仕込んでいる.

現状この会社の組織は,設計副総経理,営業副総経理,製造副総経理の3人が総経理を補佐する形で経営をしている(少なくとも外観上は・苦笑)そして品質保証部門は製造副総経理の担当になっている.

製造部門と品質保証部門を一人の人間が担当することは,相当難しい.しょっちゅう相反する決断をすることになる.
製造部門は,納期通りに顧客要求品質を満足した物を生産しなければならない.
品証部門は,時として納期を送らせてでも,要求品質を満足させることを優先させなければならないことがある.

この会社の総経理には,品質保証部門のリーダを二段跳びで,副総経理にすることを提案している.そして,この最年少副総経理の給与を一番高くする.総経理が,この決断が出来れば,良い方向に舵を切ることができるはずだ.能力のある者を抜擢するだけではない.その者に一番高い給与を払う.これにより,本人の意欲が上がるだけではなく,全社に品質保証の重要性を知らしめることになる.

実は品質保証部門のリーダは,設計部門に戻りたがっている.
私も,設計エンジニアから品質保証部門に異動した経歴を持っている.次週訪問時に,外から設計部門をコントロールする生きがいや楽しさを彼に理解してもらわねばならない.
もっと難しそうなのは,総経理を納得させることだが(笑)

【続編】
この企業の総経理は、その後転職し複数の企業を統括する立場となった。そして再び我々に声をかけていただいた。彼の傘下にある2工場を1年間指導した。
実は品質保証部門のリーダも総経理自身も納得させることはできなかった(笑)
それでも再び仕事をいただいたのは、実績に満足いただけたからだろう。


このコラムは、2013年4月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第305号に掲載した記事に加筆しました。

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