続・現場力の継承


 第86号で「現場力の継承」を工場でどう工夫するかという問いかけをした。

作業指導書とか作業標準で作業方法は継承することは可能だ。

しかし作業指導書や標準書などで本当の現場力は継承できない。本当の現場力は作業方法などの方法論ではないはずだ。その作業方法を生み出す品質第一のココロ、継続改善のココロが本当の現場力だと思う。

また作業標準や規準書を後生大事に継承したのでは,進歩から取り残される。標準化をするということは、その時点で最善の方法にいったん固定することだ。従って時がたつにつれ、世の中の進歩から取り残されてしまう。標準化をするということは相対的な退歩だと考えねばなるまい。

(注)標準化が悪いといっているわけではないことをお断りしておく。標準化をしたその日から、標準の改定を検討しなければならない。

現場力を継承する方法として「コトづくり」を提案したい。

以前指導した工場で段取り換え短縮の改善に取り組んだ事がある。実際に1時間半かかっていた段取り換えは30分以下で完了できるようになった。これを手順書化してやれば、新しく入ってきた作業員でも同じように段取り換えをする事が出来るだろう。

しかしそれでは不十分だ。
段取り換え短縮の改善プロジェクトに参加した作業員達は,どう改善するかという目的意識によって色々工夫したはずだ。この意識をきちんと伝承しなければ、現状維持が精一杯である。むしろ段取り換え時間は徐々に長くなっていってしまうだろう。

そこで「段取り換えコンテスト」を年に1回とか2回開催することを提案した。段取り換えをする作業員が、段取り替えの手順を競う。最も良い方法で作業できた作業者が優勝の栄誉を得る。またその様子をビデオに撮影し新人作業員の教育資料として使う。こうすれば優勝者の誇りにもなる。

このようにただ手順を標準書に残して伝えるのではなく、目的意識や改善に向ける熱意を「段取り換えコンテスト」という「コト」を作って伝承するのだ。

日本にもモノ造りの技能を伝承するための「技能コンテスト」や「技能オリンピック」という「コト」がある。これをあなたの工場に応用可能な形に置き換えてみよう。

読者様からはこんな投稿をいただいた.

さて今週の「現場力の継承」ですが、林様のおっしゃるように現場力は、マニュアルや作業標準で継承できる、ものづくりのノウハウとは違います。マニュアルで伝えられるのは、いわば「停まっている技術」です。現場力とは、外部環境や要求に応じて技術をブラッシュアップしていく力、改善力です。
まさに情熱、プライド、こだわりといったものに乗って伝わるものです。

では情熱やプライド(誇り)といったものは、どのようにして形成されるか?
一つ目は、限られたジャンルであってもNo.1を目指すことではないかと思う。例えば品質ではなく、コストでNo.1を目指すとする。品質は二の次なのだから簡単なように思えるが、そうではない。品質を下限ギリギリまで下げれば、下限を下回る不良が増えて、結局コストを圧迫したり、市場クレームで出費がかさんだりして、コストNo.1は達成できない。どんなジャンルであってもNo.1であることは、容易でなく、常に切磋琢磨していなくてはその地位は維持できない。

そしてもうひとつは、自分の作ったものの、一つ先が見えるようにすることではないか。アッセンブリメーカであれば、完成した姿、使われる姿が見えやすいので、モチベーションは上がりやすい。しかし部品メーカとなると、作業者レベルでは、目の前のものが何になるのかまったく?で、モノづくりしていることが多々ある。僕はサプライヤーの経営者、従業員に、完成して据付の済んだ彼らの努力の集積(製品)の写真を見せたが、一様に皆目を輝かせ、良い顔をしていた。これは重要なことだと思う。
しかし、中国のカネのためだけに仕事している労働者が、そんなこと理解するか?と反論する人がいると思う。「カネのためだけに働く」と言う意識の低さと、これはある意味別次元だと僕は思う。それは自分の息子や娘を慈しむ目であるような気がする。このような感情は、断じて「労働に対する意識」とは、比例も反比例もしない。まさに誰もが持っている感情ではないだろうか。

Z様。いつもご投稿ありがとうございます。
私の思いと非常に近いご意見と感じた。

中国の若者は「カネの為だけに働く」という人が良くおられる。これはある面で真実であるが、一部の中国人のことしか捉えていないと思っている。特に最近の若い人たちは、自分のスキルアップ、キャリアアップに高いモチベーションを持っている。そのキャリアアップの先にたくさんお金を稼いでよい暮らしがしたいというのはあるが、目前にあるのは自己成長意欲だと考えている。


このコラムは、2009年3月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第87号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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