先週は1994年4月26日に名古屋空港で発生した中華航空の着陸失敗事故を検討した。着陸やり直しモードで自動操縦されている旅客機を手動で着陸させようとして発生した事故だ。
これも人為ミスと考えてよかろう。人為ミスに対して「パイロットの教育訓練」と言う対策では殆ど効果はないだろう。先週の記事では、機長と副機長間の認識の違いを埋めるため「指示」「復唱」「確認」を徹底すると言う対策を考えてみた。実は事故機のエアバス社は、自動操縦のプログラムを変更し、自動操縦時にパイロットが操縦操作をすると、自動操縦モードを解除する様にしていた。プログラム変更が事故機に適用されていれば、事故は発生しなかったであろう。
機長・副機長間のコミュニケーション改善(人に依存した対策)よりはプログラム改善(設計による対策)の方が効果は確実だ。
本日も人為ミスによる航空機事故を紹介する。
VORの誤入力により、自動操縦中の旅客機が山脈に激突墜落した事故だ。
VOR(無線信号灯)とはVHS周波数滞の電波により、航空機に方位を知らせる灯台の様な物だ。自動操縦ではVORを目指して飛んで行く。
機長が選んだ航路上のROZOのVORを自動操縦システムに入力する際に、誤ってROMEOのVORが選択されてしまった。平地を飛んでいるはずが、山脈に向かっており、警告が出た時には上昇が間に合わず山脈に激突墜落した。
警告が発生した時に機長が冷静に対処出来なかった事もあるだろうが、事故の発端はVORの入力ミスだ。
VORの入力は「R」を入力した時点で第一候補の「ROMEO」が表示されそのまま選択してしまった。そして間違った選択に気がつかなかった。と言うのが事故の根本原因だ。これを「人為ミス」で片付けてしまうと、有効な再発防止対策は得られない。
多分航空機会社の、システム設計者はユーザビリティを考えて、設定の簡便さを優先したのだろう。
例えばGoogleやYahooの検索も検索文字入力の途中で候補が表示される。そしてリターンが押されると即検索が始まる。検索の場合間違った文字列が入力され間違った検索が行われても、やり直せば問題はない。間違った検索結果が表示されても重大な事故につながる事はないだろう。
VOR設定ミスによる潜在問題を洗い出すと、XY軸(緯度・経度)に関しては燃料の浪費、時間の浪費に気がつく。Z軸(高度)に着目すれば、山に激突すると言う重大事故に気がつくはずだ。
航空機の航路設定の場合は、簡便さより安全性が優先されるべきだ。
航空機のコックピットの写真を見ると、スイッチ類がぎっしり並んでいる。多分「ROZO」と入力するだけで,何度もスイッチ操作を繰り返さねばならないのだろう(アルファベットが刻まれたロータリィSWを合わせ、一文字ごとにエンターSWを押すのではないだろうか?今ではこんなユーザインタフェイスは考えられないが、事故が起きたのは1995年だ。)最近の航空機は、操作性と確実性が両立していると考えたい。
しかし、出発準備が忙しく民間機と自衛隊機がニアミスした事故があった様に航空機の操作は、相変わらず煩雑さが改善されていないのかも知れない。
製造現場では、もっと容易に操作性と安全性を両立する事ができるだろう。
操作が複雑、分かりにくいなど改善のチャンスだ
今回の失敗事例は「失敗百選」中尾政之著を参考にさせていただいた。
このコラムは、2017年6月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第533号に掲載した記事を修正・加筆しました。
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