問題は再来する


過去に発生した問題は再来する。その理由は二つある。

一番多いのが、問題が発生した真因を把握出来ていないために同じ問題が再来するケースだ。問題の真因が分からないまま流出原因にだけ対策を実施しても流出は発生する可能性が高い。

もう一つは、同じ問題が形を変えて再来するケースだ。例えば以前紹介した信頼性問題を考えてみよう。

高耐圧部品の発煙焼損事故。
1990年代に、CRTディスプレイ装置に使う高耐圧トランスの市場不良がしばしば発生した。25KVのアノード電圧を発生させるフライバックトランス(FBT)は、耐圧性能を上げるため、FBT内部にエポキシ樹脂を充填している。エポキシ樹脂は可燃性があるため、難燃性を上げるために赤燐を消炎剤として添加していた。この赤燐が吸湿するとコイルの絶縁皮膜を腐食させる。絶縁皮膜腐食によりコイルがレアショート、ショート部分が発熱し、最終的にはエポキシ樹脂から発煙しFBTが故障する。FBTの故障により、CRTディスプレイの表示が消えるだけではなく、エポキシ樹脂がこげた臭いがし、火災につながる重大事故として扱われる。

当時は、FBTメーカは消炎剤に赤燐を添加するのを止め、臭素系の消炎剤を採用する事により対策した。

しかし臭素は、環境問題の懸念があり、RoSH規制により使用が禁止された。FBTメーカは、臭素系の消炎剤が使えなくなり、赤燐を再使用する事になる。材料開発により、赤燐を防湿コーティングする事により使用可能にした。上記部分は私の推測だが、RoHS規制以降のFBTは難燃消炎剤に赤燐を採用している。

その後CTRを使用したディスプレイ装置は激減し、FBT焼損事故はほとんど話題になっていない。

しかし高耐圧性能を上げるためにエポキシ樹脂を使う部品は他にもあるだろう。同じ不良発生メカニズムが、形を変えて再来する可能性はある。市場で発生している事故は、原因は既知であっても、このように形を変えて事故が5年、10年の期間をおいて再発していると言ってよかろう。


このコラムは、2016年9月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第493号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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