「売家と唐様で書く三代目」という川柳がある。創業者は食うものも食わず、必死に働いて身代を築き上げる。二代目は父親の苦労を見ており、一生懸命に働く。しかし三代目ともなると、子供の頃から大店のお坊ちゃんとして不自由なく育てられる。教養だの芸事だのに精を出し、商売を省みない。その挙句に左前となり財産を失い自宅も売り払ってしまう。その自宅にかけられた「売家」の札が、唐様に格調高く書いてある、というオチだ。
いきなり川柳で始めたが、三代目が身代を潰す、というのが三世代隔てれば失敗を繰り返す、というのに類似していると思ったからだ。
以前このメルマガに「問題は再来する」というタイトルで、同様な信頼性問題が形を変えて5年、10年ほどの周期で再発していると書いた。
一つには、過去の失敗事例が次の世代に引き継がれていないという問題がある。組織内に失敗事例を継承する仕組みがなければ、大店の若旦那が先々代の苦労を知らないのと同じことになる。
例えば未燻蒸処理パレットに消毒液をかけられ、Al電解コンデンサの容量抜け事故が起きた事がある。これは過去の低直流抵抗電解液で封止ゴム腐食による容量抜け事故を知っていれば、想定できたかもしれない。
もう一つは、時代の変化によって再発してしまう例だ。
例えば、ICの微細化に伴い、既知だった不良モードがクローズアップされる。
環境規制により、過去の問題が再発してしまうなどの例がある。
例えば錫ウィスカーは、錫メッキの残留応力がかかっている部分で発生する。これを防止するために少量の鉛を添加すれば良い事が知られていた。しかし環境問題で鉛の使用が禁止され再びウィスカー問題がクローズアップ。
プラスチック材料の難燃剤に使う赤燐が原因でしばしば火災事故が発生する。その対策に臭素を使う事で火災事故は激減した。しかし環境規制により臭素が使えなくなり、赤燐を使いLSIの焼損事故が多発した。
いずれにせよ、このような事例は、失敗事例を継承しておけば再発を防ぐ事ができただろう。単純に知っているだけでは無理かもしれないが、原理に遡り、問題を抽象化すれば、次の世代に継承する事が出来るはずだ。
このコラムは、2018年8月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第712号に掲載した記事を修正・加筆しました。
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