続・ノウハウとノウホワイ


 先週は作業標準を現場の判断で改変して核臨界事故を発生させた事例を紹介した。
「ノウハウとノウホワイ」
今週も同様に作業標準の改変で発生した事故を紹介したい。

城島後楽園遊園地で発生した「スカイショット」(ゴムによって座席を上方に打ち上げる逆バンジー遊具)の事故だ。座席を吊るすワイヤーとゴムの連結部はねじ止めされており、ねじのゆるみを防ぐために割りピンが使われていた。割りピンは、ねじ軸のピン穴に通し折り返して固定する。割りピンは折り返すため、交換すると再利用出来なくなる。メンテナンス作業を効率化するために、割りピンをスナップピンに変更した。スナップピンとはピン材料の弾性を利用し、脱着が可能となっている。一般的には「β」の形をした形状になっており、ベータピンと呼ばれている。

参考:ベータピン(事故事例の物ではありません)

何度も使用している間に、ピンの弾性が弱くなり抜けてしまったのだろう。
当然メンテナンス要員は、安全が第一であり、安全と効率をトレードオフするべきではない事は知っていたと思われる。しかしベータピンが緩んでしまう事を想定出来なかったのであろう。(判断のミス)

「ゆるみ止めピンを交換する」と言うノウハウは分かっていても、ノウホワイが作業者に伝わっていなかった。

設計者は設計FMEAなどにより緩み止めピンの脱落と言う潜在リスクを把握しており、割りピンを使用し定期交換対象としていたはずだ。メンテナンスマニュアルにノウハウ(方法)だけではなくノウホワイ(理由)が記述されていれば、この事故は防げたはずだ。

設計FMEAは設計者だけのモノではない、メンテナンス作業にも展開すべきだ。設計FMEAで検出した潜在故障を、工程FMEAやメンテナンス作業にも展開する仕組みを作り、製造時、メンテナンス時にリスク管理が出来ているかどうかレビューするとよい。APQP(先行品質保証計画)のCP(コントロールプラン)にここまで記述してある例を見た事はないが、APQPをここまで深めておけばベストプラクティス事例になるだろう。

今回の失敗事例は「失敗百選」中尾政之著を参考にさせていただいた。


このコラムは、2017年5月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第529号に掲載した記事に加筆修正しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】