盗難事件


 先週末のセミナーで受講者から,社内での材料,製品の盗難事件で困っているという話を伺った.
残念ながら,こういう事例は中国工場では,豊富にある(苦笑)

銅線や半田など素材として簡単に売却可能なモノなどは,狙われやすい.
酸化した半田カスも,盗難に遭わないように施錠された倉庫にしまっておくという工場すらある.半田カスを還元することにより,半田が再生できるので,買い取る業者がいる.

携帯電話の液晶表示パネルなど,どういうルートで売りさばくのか想像も付かないが,現実に深センの電子城には,その工場の工程内で使用しているパレットに入れて,堂々と並んでいる.

工場の材料倉庫は施錠されており,工場の出入りには保安係の目が光っている.
それでも材料,製品が消えてなくなる.

私の知る事例では,トランス巻線用の細い銅線をボビンごと盗み出すのではなく2階倉庫の窓にはめられた鉄格子の隙間から銅線をたらし,外で待ち受ける仲間が,空ボビンに巻き取っていた.この事件はたまたま巡回中の保安係が見つけ未遂に終わったが,気が付かねば,密室の倉庫から銅線だけ盗まれた空ボビンが見つかると言う,不可思議な事件になったはずだ.

ある工場では,廃棄ダンボールにICなどの高価な材料を隠して製造フロアの廃棄シュートから1階の廃棄物集積所に投棄.廃棄物整理係の人間が別に仕分けておき,廃棄業者に外に持ち出させるという,チームプレーで盗難が行われていた.
これを防止するため,廃棄シュート口は鍵が掛けられ,フロアごとに時間を決めて保安係立会いで廃棄をするという,馬鹿げた管理を導入せざるを得なくなった.

保安係が加担すると,盗難は容易になる.そのため保安係を第三者に業務委託する工場もある.

「食い逃げされてもバイトを雇うな」と言う本には,食い逃げによる損失と,バイトを雇う経費をきちんと比較評価するべきだと書かれている.その他にも「数字」からモノ事を見る面白い例がたくさん載っている.

しかし工場における内部盗難事例に関しては,「食い逃げ損失」として考えるべきではない.社内の不正を許す文化が増長すると最悪だ.社内の不正に対しては,厳しく対処しなければならない.

以前勤務していた会社のインドネシア工場で,信頼していたリーダがICを盗み出したことがあった.
本人から事情を聞くと,母親が病気で金に困っているということだった.大目に見てやろうとの意見もあったが,泣いて馬謖を切ることにした.解雇し,警察に引き渡した.
彼の母親には見舞金を送ったが,これに異を唱える従業員は一人もいなかった.

ICは彼の宿舎から回収済みだったし,母親に送った見舞金も彼が正式に退職した場合の退職金に少しプラスした程度だ.我々としては,金銭的には何も損失はない.一番痛かったのは,優秀なリーダを失ったことだ.
しかし不正を許すことにより社内の秩序の乱れが発生することの方が深刻だ.


このコラムは、2011年11月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第232号に掲載した記事に加筆修正しました。

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