道具


 使っている道具を見れば,職人の腕は大体分かる.
皆さんもこんなエピソードを聞いたことがおありだろう.
左甚五郎が修行の旅の途上で初めて会った親方にかんながけを命じられる.
甚五郎は半日かけてかんなを研ぎ,二枚の板にかんなをかけた.仕事の遅さを笑う職人たちの目の前で,この二枚の板に口に含んだ水をぷっと吹きかけ張り合わせるとぴたりと張り付きなまじの力でははがせなかったという.
先日お邪魔した工場で工具を見せていただいた.ペンチを金槌代わりに使ったのであろう,打痕がそこいらじゅうについており変形している.
こういう工場ではよい仕事は期待できない.
道具に感謝し丁寧に使う.
そして道具や設備に工夫を凝らす.買って来た設備はそのまま使わない.使いやすいように工夫する.
日本のモノ造りのすばらしさは,物を作る道具を作れることである.
古い生産設備をぴかぴかに磨き上げ,且つ自分たちの工夫を入れ込んである.
こういう工場は見掛けは悪くても,モノ造りの心が伝わってくる.
使っている設備を見れば,工場の現場力は大体分かる.