【華南マンスリーコラム】リストストラップで理論武装


守れないルール
#8
静電気に敏感な電子部品を取り扱う現場に出るときは必ずリストストラップを着用している.
皆さんも冬場にドアのノブをつかもうとしてパチッと電撃を感じた事があるであろう.着衣に帯電した静電気が指先を通してドアノブに放電したのである.静電気は簡単に数千Vの高電圧となる.
この数千Vの静電気が電子部品に放電したらひとたまりもない.簡単に壊れてしまう.
従って電子部品を取り扱う作業者は必ずリストストラップを手首に巻いてアースに接続し,静電気の放電を防がなくてはならない.
ところがこれがなかなか守られない.休憩時間後ついうっかりという作業者が何人かいることになる.

理論武装でルールを守らせる
「作業時はリストストラップをすること」ルールは明確だ.現場の班長もリストストラップをしていない作業員を見つけるたびに指導をしている.それでも守られない.
小さな子ともに躾をするときと同じである.
「○○をしなきゃだめ」と約束を教えて,約束を守れないたびに叱る.この方法では約束が守れるようになるのにはすごく時間がかかる.
「○○をしなきゃだめ」な理由を教えて,「○○をします」と約束をさせる.子供が理由を理解できれば,約束はきちんと守られる.
作業者に教える時も同様である.叱り続けるよりは,理由を教えた方が簡単である.私はこれを「理論武装」と呼んでいる.
 
理論を可視化する
理論武装といっても「静電気の帯電とは原子の中で陽子と電子のバランスが崩れ……」などとやってはダメだ.もっとわかりやすく教える.
工程の中にある物を並べて実際に静電気メータで電圧を計って見せる.どんな物が帯電するのか,どうすると帯電するのかを現物で見せる.いわば理論の「看える化」である.
例えばセロテープをピーッと引き出したとき,プラスチックトレーにブローで空気を吹き付けたときなど,どのくらい静電気が発生しているか見せる.どうして帯電したかを教える.
そして静電気放電を自分の体で体験してもらう.3kVくらいから放電により痛みを感じるはずだ.いわば理論の「体験化」である.
理論武装によりHowだけではなくWhyをきちんと理解・体験できればルールは守られるはずだ.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.