山本品管部長奮闘記(33)


 「どうかね?豊信精密の現場は」前を歩いていた林会長が振り返って山本に話しかける。「いや~感心しました。材料倉庫の保管期限ポスターもすごいですね。監査官の心理を理解していると思いますよ」「というと?」林会長が尋ねる。「監査官に対応する経営者や品管部長がどんなにうまく説明しても、監査官は安心しないものです」「どう言う意味かね?」「あのポスターを見れば、新人作業員でも間違いなく仕事ができると確信できますよ」「ほぉ。山本君はそう考えるのかね」「はい。仕入先の監査をしたり、お客様の監査を何度も受けていてそういう考え方になりました」林会長は嬉しそうに頷く。山本の隣に歩いている李玄宗も頷いている。

会議室に戻ると、すでに中国人メンバーたちはABC班に分かれて着席していた。山本と李玄宗は用意してきた模造紙と大判のポストイットを各テーブルに配り、改善のアイディアを各グループでブレーンストーミングする様に指示した。「ブレーンストーミング」を初めて聞くメンバーもあり、李玄宗が中国語で説明する。賑やかにブレーンストーミングが始まった。各テーブルを見て回った山本は、李玄宗を呼んで耳打ちする。「もっと自由に議論したほうがいいと思わない?」李玄宗も同じことを感じていたのだろう。すぐ前方に立ち作業を中断させ、ブレーンストーミングの注意事項を再度説明する。「自由闊達、批判禁止、質より量、整理・分類は後で、とにかくアイディアの量産!」再び賑やかに議論が始まった。

制限時間の30分が過ぎた頃、李玄宗はアイディアをまとめるように指示をした。5M(人、物、方法、設備、測定)+E(環境)でアイディアを整理分類するように指示する。李玄宗との事前打ち合わせで、山本は新QC七つ道具の活用を提案した。「まず簡単な手法だけでやりましょう。今回はアイディア出しに慣れてもらって、その後に新QC七つ道具を教えたほうが効果的だと思います」という李玄宗の意見に従う事にした。

各チームは検討結果の豊信精密生産現場改善案を発表。それぞれ質疑応答。第一回改善交流会はこうして終了した。

全員で近所のレストランに移動。いつもの「イー・アル・サン」「東莞和僑ナンバーワン!イェェィ!!」の乾杯で、懇親会が始まった。
小楊を始めスター電源のメンバーは興奮気味で次々と山本に話しかけてきた。一様に改善交流会への参加で多くを学んだ、と口々に言ってくる。しかし山本は、不満だった。そんな様子を見て北山総経理が話しかけてくる。「山本さん疲れましたか?」口まで持ってきていたビールグラスを下に置き「各チームが提案した改善案がイマイチでしたよねぇ」「いやいや。御社のメンバーも興奮してたじゃないですか」隣から林会長も「あれでええんだよ。皆が自分の頭で考えるきっかけになったはずだがね。」「そうですよ。まだ1回目ですよ」いつの間にかビールグラスを持って山本の後ろに立っていた李玄宗が言う。

そこから次々と改善交流会に参加した中国人メンバーがチームごとに乾杯にやってきた。山本が覚えているのはそのあたりまでだ。

翌日曜日の昼近くに、宿舎で目を覚ますまでの記憶が飛んでいる。


このコラムは、2020年3月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第953号に掲載した記事です。

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