二日酔い気味で日曜日をぼんやり過ごした山本は、先週末改善交流会に参加したメンバーの顔を思い浮かべながら出社した。彼らはどんな感想を持ったか話を聞くのが楽しみだった。
品証部のオフィスに入ると、小楊が挨拶もそこそこに声をかけてきた。「陳総経理が呼んでます。」陳総経理も改善交流会の感想を話したいのかな?などと考えながら、陳総経理のオフィスに向かう。
意外にも小楊がついてくる。小楊に顔を向けると「僕も一緒に来いと言われてます。」これは改善交流会の話ではなさそうだ。「何の話か聞いてる?」小楊は首をかしげるだけで、要領を得ない顔をしている。
総経理室に入ると、すでに陳総経理は未決書類の箱から伝票を取り出しサインをしている最中だった。会議卓を顎で刺す。席を立ちながら「今日午前中にU社の技術係長さんが来社する」と言いながら陳総経理は山本と小楊の向かいに座る。「山本君、何か聞いてるか?」そういえば春節休暇中に肥沼事業部長から聞いた話を陳総経理に話していなかったと気がついた。「肥沼さんからU社電源の受注を増やそうという話は聞いていないのですか?」「うん、それは今年度の事業部方針で知っている。どうもU社の社長は、山本君の改善活動に感心して、新機種の発注先をウチにするように、日本本社に進言してくれたそうだよ」肥沼事業部長はそんなことは一言も言っていなかったなぁと思いながら「新機種の開発前に設計部の前多係長さんという方が、うちの生産現場を見たいそうです。」「設計者が?」「そうなんです。製造現場を見なければいい設計ができない、と言っておられるそうです」「そういう考えの人がU350のような設計するかなぁ」陳総経理は皮肉な顔で言う。「まぁ、いいじゃないですか。今度は期待できるかもしれませんよ。」
肥沼事業部長の方針で主力製品をPC電源からプロジェクター電源に切り替えることは、陳総経理も理解している。今後主力となる製品の生産に苦労したくはない、と言う考えは山本と同じだ。「それは大歓迎だな。午後一で前多さんと熊さんがくるそうだ」熊苗苗の名前が出て、山本は心が踊るのを感じた。頬が赤くなっていないかと気が気でない。「でも今日はU350の生産予定ありましたっけ?」「今日から生産です。そういえばひと月ほど前に、熊さんからU350の生産計画を聞かれてます。」小楊が答える。「じゃぁ、午前中にちょっと準備をしておこうか」席を立ちかけた山本に「夜は前多さんと食事だな、空いてるだろ」と陳総経理が確認する。顔が緩みかけているのを抑えて山本は頷き総経理室を辞した。
山本は「よし。現場に行くぞ。」自室に戻るなり小楊に声をかける。
2階の一番奥のラインは、生産開始の準備中だった。欧楊組長と張春華班長が作業員をあつめ、作業手順・注意事項の確認をしているところだった。1ヶ月に1度しか生産がない。そのため毎回生産開始時に作業手順・注意事項の確認をすることになっている。以前このラインは陳南初組長と張春華班長が担当していた。陳南初が製造課長に昇格。SMT実装部の欧陽班長が組長として異動して来た。U350品質改善時に、他部所でありながら積極的に改善に貢献した欧陽が今はそのU350組み立てラインの組長になっている。ラインの作業指示書の横に掲示してある工程内不良事例は張春華班長の力作だ。改善活動で直行率は99.9%に改善し、更に今では99.95%まで改善している。不良がゼロの日もしばしばあるのだ。山本は生産開始を見届け「どうだい?」と小楊に声をかける。「心配なさそうですね」「まぁ、今日は工程監査じゃないんだからね」と頷きオフィスに引き上げた。
このコラムは、2020年3月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第956号に掲載した記事です。
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