第四章:経営はレンズ遊び


伝説の経営者・原田則夫の“声”を聴け!
工場再生指導バイブル

組織を活性化し再生するには,全従業員の熱いココロが必要だ.原田式経営哲学では,これを「レンズ遊び」にたとえる.経営者が太陽,管理者がレンズの役割をし,従業員のココロに火を点けるのだ.

レンズ遊びと経営

あなたも,小学生のころレンズ遊びをしたことがあるだろう.太陽光線を虫眼鏡で収束させ,紙を燃やす遊びだ.
原田氏は,しばしば経営をレンズ遊びにたとえて話をされた.つまり社長が太陽.管理職がレンズ.レンズで太陽の光を集め,従業員のココロに火を点けるわけだ.
当然太陽の光は強いほうが良い.夕方の太陽よりは,正午の光の方が強い.レンズも大きい方がたくさんの太陽光線を集められる.白い紙より,黒い紙の方が,熱を吸収しやすく早く火が点く.更に重要なのは,正しく紙に焦点を当てることだ.

社長の光

社長の光とは,従業員のココロを照らし,未来を照らす光だ.希望のある未来を照らす強い光であるべきだ.
人は時に,晩秋の黄昏の光の中で物思いにふけることも,必要かもしれない.しかし社長の光は,常に明るく,力強い希望の光ではなくてはならない.
つまり社長の光とは,企業の経営理念であり,長中期の経営目標そのものだ.
業績が上がらない,経営の問題で悩んでいる時も,意気消沈光線を発してはならない.従業員の前では,常に笑顔で希望の光を発するべきだ.
社長は苦しい時でも明るい笑顔でいる.そのために他の従業員よりも多く給料を貰っているのだ.

管理職のレンズ

従業員が100人くらいまでならば,その隅々まで社長の光で照らせるだろう.例えば,忘年会で一人ずつ乾杯をしても酔いつぶれない人数が限度だろう.
組織の中には,社長の思いを増幅する中間管理職が必要だ.組織を劇団にたとえるならば,座長が,脚本,演出,主演俳優を兼ねることは出来る.しかしそれを続けていたのでは大きな劇団にはなれない.ナンバー2,ナンバー3を育て,脚本,演出が出来るようにする.主演も自分でやらなくても良くする.
社長の仕事は,業務を全部社員に任せ,5年後,10年後を考え,それを社員に示すことだ.
それを可能にするのは,管理職だ.彼らが一人ひとりの従業員に,正しくレンズの焦点を当てられるように鍛える.

従業員のココロに焦点を当てる

光はそのままでは熱にならない.物質が光を吸収し,光エネルギーを熱に変換して初めて火が点く.
笛吹けど踊らぬ従業員.そんな焦燥感,徒労感を持っている経営者も多いだろう.ましてや,日本から離れ異郷の地で,外国人を部下にしているのだ.
異文化の中で育った従業員に「一発点火のココロ」を持ってもらうためには,共通の価値観を軸にする必要がある.この価値観を求心力とする.
ひとつは金銭.これは万国共通で分かりやすい.しかし金銭以上に有効なのは「成長意欲」「達成感」だ.仕事の成果は「自己成長」と「達成感」であり,更に高度な仕事へのチャレンジ権を与えられることだと理解させる.それで「自己成長」と「達成感」は更にスパイラルアップする.その結果,金銭的報酬が与えられる.
これを,光の焦点を従業員のココロに正しく当てる仕組みとする.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年11月号に寄稿したコラムです.
原田式経営哲学勉強会を開催しています.
詳細は,ブログ:原田式経営哲学をご参照ください.