真似されないモノ造り


 中国でのモノ造りで,最大の心配事は「真似される」と言う事だろう.

以前、電解コンデンサを生産している台湾資本の中国工場を訪問したことがある.かなり良い工場だと判断したが,肝心の電解液を作る工程の品質保証が不明確だった.そのために,工程内で幾度となく検査が繰り返される.これらの検査は,間接的に電解液の調合が正しかったとを確かめるための工程だ.

なぜこんな手間のかかる事をするのかと言うと,電解液の調合方法を,従業員に盗まれない様にするためだ.電解液の調合工程は,別の場所で別の作業員が調合した二つの液体を合わせる事で完成する.二人の作業員が共謀しなければ,電解液のレシピは分からない様になっている.

ここまで厳重に管理しているのは,この会社の創業者自身が,日系コンデンサメーカで,電解液のレシピを盗んで来たからだ.自分と同じ様に,自分の従業員も電解液のレシピを盗むと考えるから,厳重な管理下に置き,ムダなコストをかけてでも秘密保持に腐心する.

こういう事例は,中国のモノ造りではいろんな所で見られる.
中国の市場には,ブランドバックの偽物を至る所で買うことができる.
しかしルイビトン社の売り上げは,中国がトップらしい.真似されるからと,中国市場に出荷しなければ,相当の売り上げを諦めねばならない.

こういう心配を解消するのはそこそこ難しい.
一つの方法は「突き抜けてしまう」事だ.

このメルマガでも何度かご紹介した,岡野雅行氏は痛くない注射針をプレスで作っている.なぜ痛くないかと言うと,針の直径が極端に細い.そのため蚊に刺されたくらいにしか感じないのだ.

「カネは後からついてくる!」岡野雅行著」

針を板金プレスでどうやって造るのか,想像もつかない.
このアイディアは,40年以上前に岡野氏が開発した鈴を板金プレスで造る工法にオリジナルがある.
ある会社から依頼され,鈴を板金プレスで量産する技術を開発し,金型を納入したそうだ.当時特許を取得したが,既に特許の有効期限は切れている.それでもまだ誰も,鈴を板金プレスで造れる人はいないそうだ.

プレスで作っているので曲げているだけだ.注射針は鈴より更に難しいだろう.

「痛くない注射針」も誰にも真似出来ない商品になるだろう.技術的に突き抜けてしまえば,誰にも真似が出来ない.

またルイビトンのバックの様に,本物は細部にこだわった縫製がしてある.偽物のバックと比較すれば,一目瞭然だ.中国人富裕層は,絶対に偽物を買わないだろう(笑)

技術的に突き抜けることができなくても,細部へのこだわりに突き抜ける所があれば,真似しきれないモノ造りは出来る.安くしか売れない偽物と,コストをかけてでも価値を高められる本物との違いだ.


このコラムは、2013年3月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第300号に掲載した記事です。

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