リスクを見抜く


 昔電源装置を中国の工場に生産委託していた。新工場立ち上げの時からお手伝いとさせていただいた。ここの工場の品質管理責任者には、昔から色々教えていただいた。彼は細部にまで非常にこだわる方であった。

梱包作業者に一台ずつシリアル番号順にきちんと並べて集合梱包するよう指示がしてあった。

この作業指示に対して、私は大先輩に異議を唱えた。
顧客からは何も要求がないので、作業者の負担になることは止めましょう、と提案した。しかし大先輩は、たいして余分な工数がかかるわけではないのでこのままやろうと私の提案は認めてもらえなかった。

大先輩のご意見ではあるが、私には不安があった。

電気検査が合格すると、主銘版、シリアル番号のシールを貼る。
外観検査。
梱包作業。
という順の工程を、じっと見ていた。

案の定外観検査で不良と判定した物の取り扱いがおかしい事を発見した。通常不良品は、修理後前工程に戻し、順に工程を通して再検査することになっているが、班長が不良品を修理工程に持って行きそのまま外観検査工程に戻した。

修理時に故障を造りこんでしまう危険があるため、工程復帰は決められた場所に再投入して、工程内の検査をすべて再度実施する仕組みが崩れてしまったのだ。

決まりどおりの工程を通すと、不良となったシリアル番号の製品は梱包工程に遅れて到着する。そのため梱包作業者はシリアル番号順に梱包できない。集合梱包が出来ないまま次々と完成品が来てしまい工程が混乱してしまう。そのため班長は一刻も早く修理済み品を梱包工程に戻そうと自ら持ち回りで処理をしてしまった。

通常はうまく行っていても、なんらかの異常時には「ダラリ」(ムダ・ムラ・ムリのこと)がある工程では、想定していない事が発生するものだ。工程の中に「ダラリ」がないか良く見て、リスクを見抜かなければならない。

別のお客様の製品は、梱包箱、取扱説明書にもシリアル番号をつけてあり、製品と同じ番号の取り説を梱包しなければならなかった。従って製品、取り説、梱包箱のシリアル番号が全部一致していないと不良品となってしまう。

この仕様の緩和をお願いしたが、お客様の内規でそうせざるを得ないということだった。

このような顧客仕様を満足するために「作業指示書に明記する」「作業員に注意する」だけでは不十分だ。不良が発生しないように工程を設計しなければならない。

さてあなたならどう工程で保証するだろうか。
梱包箱、取り説、製品に間違いなく同じシリアル番号シールを貼り付けるにはどう工程設計をすればよいか考えてみてください。


このコラムは、2008年10月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第57号に掲載した記事です。

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