20世紀型モノ造り


 先週は久しぶりに「無料工場診断」で中国民営企業を訪問した。
昨年は大きなプロジェクトが2件入っており、無料工場診断に出かける時間が取れなかった。そんな訳で久しぶりの無料工場診断訪問となった。

この企業は、新興市場向けの電子製品を大量に生産している。
ベルトコンベアに大量の作業員を配置し生産する方式を「20世紀型モノ造り」と呼んでいる。名称は私の勝手な定義なので、一般的に通用するかどうかは分からないが、同一機種を大量に生産する方式と考えていただければ良い。

それに対して「21世紀型モノ造り」は、多品種少量生産に適応したモノ造りだ。
2001年から切り替わったと言う意味ではないが、顧客の要求が多様化した時代に適応するために進化して来た生産方式だ。日本では20世紀末から「21世紀型モノ造り」に替わって来ている。

この企業の経営陣は、次の問題を抱えていると認識している。

  • 離職率が高く作業者が定着しない。
  • 現場監督者の能力が足りない。

解決策として「現場監督者研修」を研修企業に依頼して来た。たまたまこの研修企業が我々のパートナーだったので、研修講師と一緒に我々も工場診断に立ち会う事になった。しかしこの企業の問題は監督者の研修だけでは解決困難だろう。監督者の研修で作業員の離職率を下げられるとは思えない。

現場診断により、以下の点を確認した。

  • 離職率は1年で現場作業者全員が入れ替わる高水準。
  • 月例の品質会議の資料を見ると、重大不良発生の原因が「作業不良」であり、その対策は「作業者の再指導」「該当作業者に罰金」となっている。

では21世紀型モノ造りを導入すれば問題が解決するかと言うと、多分無理だ。
高離職率のまま21世紀型モノ造りを導入すれば、更に混乱するだけだろう。
作業者は、採用条件の月給がそこそこ良いので応募して来る。しかし給与条件は毎日10時間労働の残業代が含まれている。新規採用者は1週間程働いてそれに気がつく。短期間で離職する者が多い。

この企業に問題解決の方策がないかと言うとそうではない。
多くの日系企業は、20世紀型モノ造りでも結果を出して来ている。離職率が高いので、作業工程を分割し短期間で作業習熟出来る様にする。20世紀型モノ造りはこのような活用が可能だ。

この企業には以下のアドバイスをした。

  • 生産効率を上げて残業時間を減らす。
     具体的には、50人1ラインの編成を30人1ラインとする。現在7ラインの稼働を10ラインとすれば、現状の生産量はほぼ確保出来る。
     その上で作業改善をして編成効率を上げれば生産効率が上がる。人数が少ない方が、編成効率を上げやすくなる。
    生産効率が上がれば、残業なしでも同じ給与を払えるだろう。
  • 直行率(現状96%)を上げる。
     電子製品の組み立てでは初回量産時に直行率95%程度は達成可能だ。この状況から、改善を継続し3ヶ月以内に直行率99%以上になる様に初期流動管理をする。改善のコツは高速で改善を回す事だ。不良品を放置し、まとめて不良解析・対策をするのではなく、不良発生時に即解析・対策を繰り返す。
  • 不良解析の能力を上げる。
     不良解析を「作業ミス」で終わりにしない。なぜ作業ミスが発生するのか原因を突き止めなければ有効な対策は打てない。
  • 新人作業員の作業訓練効率を上げる。
     TWI(企業内訓練)を活用すれば、作業訓練効率を上げるだけではなく、監督者と作業員の信頼関係が出来、離職率も下がるはずだ。

以上を3ヶ月程度繰り返せば、生産効率は1.6倍以上になると試算した。
ここからまとめ造りを止めるなど、全体のレイアウト変更を含む大掛かりな改善をして行けば21世紀型生産方式に近づいて行くはずだ。

今回の工場診断では、「枯れた製品」を新興市場向けに再活用する、という気付きを得る事が出来た。まだ物が十分行き渡っていない新興市場に対し既に原価償却が終わっている製品を生産すれば、そこそこ利益が得られるだろう。今までは、中国で生産した物を日本を初めとした先進国に輸出する、中国市場で販売する、という戦略の日系企業が多かったと思う。アフリカ、南米などの新興市場向けに、過去の製品を再活用する事を検討するのも良いかも知れない。


このコラムは、2017年5月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第529号に掲載した記事です。

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