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なぜなぜ5回

 原部長は工場の喫煙室で,いらいらしながらタバコを吸っていた.
もう3時になるというのに,今朝行われたミーティング記事録が届いていない.中国生産工場の品質部長として赴任している原部長は,週に一回ローカル
スタッフに,品質会議を開催させている.朝開かれる品質会議の議事録を当日の昼までに提出するのが決まりだ.その議事録がまだ届いていないのだ.

二本目のタバコに火を点けた時に,品質部の陳課長が喫煙室に入って来た.ちょうど良いところだ.
原「陳さん.今朝の議事録がまだ来ていないけど,どうした?」
陳「実は今朝会議が開けませんでした」

なぜ早く報告しないのだ,と言う怒りをぐっとこらえ.
原「なぜ会議が開けなかったの?」
陳「周さんが遅刻して,お昼に出社しました」
周君は,上司の指示にいやな顔ひとつせず,しっかり仕事をする優秀な部下だ.昨日も定時過ぎに急ぎの仕事を頼み,二つ返事で引き受けてくれた.

原「なぜ周君は遅刻しなの?」
陳「寝坊しました」

周君を呼びつけて,しっかりと叱らなければならんと思った原部長だが,日ごろなぜなぜを5回繰り返さねばならないと,部下を指導している手前更に質問を重ねた.
原「なぜ寝坊したの?」
陳「昨日帰るのが遅くなり,寝るのが遅くなったそうです」
原「なぜ遅くなったの?」
陳「仕事が終わらなかったそうです」

よしこれで4回なぜを繰り返したぞ.後1回だ.
原「なぜ仕事が終わらなかった?」
陳「原部長に頼まれた仕事が多すぎました」
原「あっ」
原部長は,今朝デスクの上に昨夜周君に頼んだ資料が置いてあったのを思い出した.

原部長は,なぜなぜ5回を実践して,本当は自分に非があったことを発見してしまった.もしなぜなぜを2回で終わってしまったら,「周君に目覚まし時計を買ってやる」と言う再発防止対策になったはずだ.これでは問題の表面に対策を打っただけになる.

しかし何か釈然としない.では,この場合どのような再発防止対策を打てば良いのだろう?

原部長は,三本目のタバコに火を点けて考え込んでしまった……

これは架空のなぜなぜ5回問答だ.
ここで原部長が,考え込んでしまった原因を考えたい.
これを放置しておけば,原部長の喫煙量が増えてしまう(笑)

なぜなぜ5回をする目的は,真の原因を見つけ,それに対策を打つことにある.不具合現象の表層を見て対策をしても,必ず不具合現象は再発する.

この例では,なぜなぜを5回しても,有効な対策は見つからない.なぜなら,なぜなぜの答えを「他責」にしているからだ.
「原部長が定時後に仕事を与えた」と言う原因は「他責」だ.これでは「上司は定時後に部下に仕事を与えない」などと言う,自分で解決不可能な対策しか出てこない.

なぜなぜの答えを「自責」にすると,「なぜ仕事が終わらなかったか?」と言う質問に対する答えは「仕事量の見積もりを誤った」となる.
仕事の見積もりが正しくできていたとすれば「深夜まで残業になりそうな事を,上司に連絡しなかった」となるはずだ.

対策を,「仕事を頼まれたら仕事量を見積もって報告する」とすれば,上司は,翌日のスケジュールを変更する.人手を更に投入する.
など問題が起きないように事前に手を打てるようなる.


このコラムは、2011年2月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第193号に掲載した記事に加筆したものです。

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こちらの記事もどうぞ「なぜなぜ5回」

ナゼ・ナゼ中国

 本日のテーマ「特殊工程の品質評価」で「ナゼ・ナゼ5回」を少しお話したが,中国にいるとナゼを連発することが多い.分からないことだらけだ.

私が住んでいる近所には夜になると露天商がたくさん集まってくるエリアがある.洋服,靴,靴下,巨大なぬいぐるみ,ボールペン,財布,髭剃りの刃などありとあらゆるものを売っている.

当然これらのものを売っている人たちは営業許可を持たず,もぐりの営業だ.しばしば公安が来て取り締まっている.

時々露天商の人たちが,商品を袋やダンボールに入れたままずらりと腰を下ろして並んでいるのを見かける.まるで田舎に帰る人が大きな荷物を持ってバスターミナルでバスを待っているようだ.周りを見渡すと,案の定公安の係官が数人いる.

露天商たちは公安に見つかり,身分証明書を取り上げられしょっ引かれるため公安の収容車を待っている,と思っていた.

しかしどうも様子がおかしい.実は露天商たちは公安が引き上げるのを待っているのだ.公安がいなくなると,露天商たちは一斉に商品を並べ始める.多分公安係官は、彼らが露天商であることはわかっているのだろう。

まだナゼがある.
このようにして公安と一緒に露天商が所在無げに腰を下ろしているエリアからほんの数十メートルはなれたところでは,堂々と店開きしている露天商がいる.

公安の係官は,決められた勤務時間中に決まられた範囲で違法露天商が営業をしていなければそれで仕事を達成したと言うわけなのだろうか?

中国には「上に政策あれば,下に対策あり」とよく言うが,「上」も「下」の事情をよく理解し,政策を柔軟に運用していると言うことなのだろうか?
中国のナゼは奥が深い.

このメールマガジン配信後に、読者様からコメントをいただいた。

  • T様のコメント
    露天商の営業許可証取り締まりは、普通には「工商行政管理局」(通称、工商局)です。
  • I様のコメント
    露天商がいる場所はどこか、その場所の管理者は誰か、その場所における中国人民と管理者との関係、そして法律と一般人民との関係はどういうものか等を考えれば、この謎の現象の答えがでると思います。

公安と工商局を間違えていたようです.係官の制服は似ていますが,胸のマークが違っています.T様ご指摘ありがとうございます.
I様は中国人のモノの考え方を,内関係と外関係に分けて説明するユニークな視点を持っておられます.


このコラムは、2009年11月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第126号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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