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検査不正

スバルは28日、自動車の性能を出荷前に確かめる検査での不正が、ブレーキやステアリング(ハンドル)をめぐって新たに見つかったと発表した。これまでの不正は排ガスや燃費で判明していた。車メーカーではさまざまな検査不正が相次ぐが、安全性能での不正発覚はスバルが初めて。

(朝日新聞より)

社外弁護士による調査で新たに分かったことは以下の2点だ。

  • フットブレーキの制動力を検査しなければならないのに、サイドブレーキを併用して検査した。
  • ハンドルの操舵角が検査規格に入らないので、タイヤや車体を押して検査合格となるようにした。

私は日本自動車業界の品質を信頼していた。しかし業界の闇は深いようだ。

新たな検査不正発覚でスバル中村社長が謝罪会見を行っている。
会見の中で「再検査のためのリコールは行わない」と明言している。その根拠として以下のように説明している。

  1. 道路運送車両法の保安基準には違反しておらず安全性能には問題ない。
  2. ブレーキなどの性能は、「全数検査」の後に別途行う「抜き取り検査」で確認している。

スバルという会社は品質管理、品質保証とは何かを理解しているだろうか?
出荷時の性能が市場で使用される期間変わらないことはあり得ない。そのため保安基準より厳しい出荷基準を設定しているのではないか?
抜き取り検査とは、工程内検査を含む品質管理が正しく行われていることを確認するための品質保証行為だ。工程内の全数検査で不正検査が行われていたのに抜き取り検査で品質をどう保証するというのだろうか?

なぜこのような不正が横行するのか、もっと冷静に分析をしなければならない。

  • ブレーキ制動力の検査規格は、保安基準より厳しく設定されており安全上の問題はないと製造現場が判断している。
  • 制動力検査不合格となるとタイヤを外しブレーキ部品の再調整が必要となり製造現場が混乱する。
  • 操舵角の精度に対する工程能力が不足しており、検査後の調整が常態化していた。
  • 最大操舵角の足りなくても事故に至ることはない、という認識が現場にある。

などの背景があったのではなかろうか?
だから検査不正をしても良いというわけではない。検査をごまかすのではなく、社内検査基準が厳しすぎるのであれば、適正な検査基準に変更すべきだ。または設計改善・工程改善により工程能力を改善すべきだ。

完成車メーカは、下請け業者に納品品質不良を0ppmせよと指導していると聞く。
車や人の安全を守るという自動車業界の理念と理解している。高邁な理念は、この様な不祥事により完成車メーカの下請けいじめに堕落する。


このコラムは、2018年10月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第727号に掲載した記事に加筆しました。

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日産不正検査

 今週の「失敗から学ぶ」で日産の完成車検査不正について書いた。
メール配信後、秒速で読者様からメッセージをいただいた。

※I様のメッセージ
 私も日産の件は不思議だなあと思いましたし、こんな大きなニュースのネタにするようなものだろうか、とも。メディアでは、新しく出た神戸製鋼の品質検査の誤魔化しと並べて報道されていますが、日産のケースはいまのところ検査内容自体の問題は指摘されていないので、両ケースは似て非なる別レベルの事案ではないでしょうか。

ご指摘の通り、日産と神戸製鋼所の問題は似て非なる別問題だ。
日産自動車:無資格検査員が検査を行ったが、検査そのものは正しかった。
神戸製鋼所:検査を行ったが、検査データを改ざんした。

神戸製鋼所の問題は同情の余地がない。
社内的にも、後ろめたさがあっただろう。本件の発覚は内部告発であろう。

日産の場合は、監督官庁の定期監査で発覚している。検査成績書の検査捺印が同一検査員の物が異常に多くあることを、監査員が疑問に思ったのだろう。
検査にかかる時間と、同一検査員の検査記録枚数を比較すればすぐにばれる。
また検査記録書の筆跡を見れば一目瞭然だろう。

問題となっている完成車検査は、陸運局の車検検査と同等のものである。工程内の品質検査と比較すれば、はるかに簡単な検査だ。なぜ検査有資格者が不足していたのか?

前回のメール配信後参考になりそうなコラムを発見した。
「日産の「無資格検査問題」が起こるべくして起きた意外な背景」

この記事は、ライバルメーカ幹部の推測を紹介している。

  • 急激な生産台数増。17年上期は前年同期比で23%増。
  • 経営幹部と現場のコミュニケーション不足により、リソース確保が不足。

確かに生産が急増すれば、人員の確保は現場の努力では及ばないことがある。しかしフル生産から23%増加したわけではなさそうだ。しかも足りなかったのは完成車検査有資格者だ。
現場管理職レベルの、人員計画・完成車検査員の教育計画で対応出来る範囲だろう。完成車検査員の資格があっても、従来通りの組み立て作業もできるはずだ。それともよほど弱気の年度計画を立てていたのだろうか?

記事は日産の認識が、軽すぎると指摘している。
「日産は最初に西川廣人社長や生産担当役員ではなく、一般の従業員に会見を任せた。」
さすがに、一般従業員といっても役職のある幹部社員が対応したのであろうが、これでは監督官庁の面子も無かろう(笑)

今回の問題は法律がらみの特殊な問題のように見えるが、「技能」という括りで考えると、製造業であれば共通の問題だ。

加工技術などで短期間で熟練できない技能がある。例えば「きさげ加工」は高い平滑度と面荒さという相矛盾した加工を、技能で実現する。このような技能は一朝一夕では得られない。きちんと技能継承の計画を持たねばならない。
設備などの保守計画なども同様に、問題が明確になってからでは間に合わない。事前に計画を持ち粛々と準備をしておく、というのが今回の事例の教訓だろう。


このコラムは、2017年10月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第575号に掲載した記事に加筆しました。

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