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凧は逆風で高く上がる

 最低賃金の上昇により、また労務費が上がる。それより作業者を募集しても集まらない。

製造業にとって、最近の人材採用環境は逆風だ。

一昔前ならば、採用告知の掲示を工場の門前に出せば、翌朝には応募者が門前に列を成したものだ。
しかも受注が落ちて仕事量が減ると、作業員は自らより残業のある工場へ転職していく。忙しくなれば、すぐに作業員が採用できる。雇用調整など、何もしなくても良かった。

今はコストをかけて採用しても、作業員の定着は良くない。

この状況はどこかで見た様な気がする。しばし考えて思い当たった。
中国のスポーツジムと同じだ。会員制のスポーツジムは、開業後何年たっても大量の営業係が街行く人に声をかけて、入会の勧誘をしている。なぜこのようなコストのかかる努力をするのか理解できない。

まず既存会員の満足を得る。そうすれば会員は翌年も、年会費を払うだろう。そして友人を勝手に入会勧誘してくれる。

中国のスポーツジム経営者は、この逆をしている。
新規顧客に魅力的に見えるように、入会金を安くする。これを知れば、既存会員は気分は良くないだろう。新規会員獲得にはコストをかけるが、既存顧客の満足にはコストをかけない。つまり設備の故障など永らく放置したままだ。

作業員の採用にコストをかけても、従業員満足にコストをかけていない。
あなたの会社では、そんなことはないだろうか?
従業員満足と言っても、給与や福利厚生ばかりではない。仕事を通して自己成長が出来る。地方から出稼ぎに来ている労働者にとって大きな魅力のはずだ。

低学歴で出稼ぎに来る労働者達は、必ずしも勉強が嫌いだったり、頭が悪い訳ではない。農村の家庭環境、経済状況で進学を断念し、出稼ぎに出ている若者も多くいる。
そういう若者が満足できる社内研修制度や、自己成長がキャリアパスとなる人事制度があれば、定着率は良くなるはずだ。

何よりも、福利厚生や給与が充実しているから採用応募してくる若者と、自己成長の機会を求めて採用応募してくる若者のどちらを採用すべきかは、議論する必要もないだろう。

逆風は、皆に公平に吹いている。
逆風に身を縮めるか、逆風で更に凧を高く上げるかで、成果は正反対となる。

志の高い経営者は、逆境をチャンスと考えることが出来る。

※このコラムを書いてから10年経ちました。街でスポーツジムの勧誘員に声をかけられることは滅多になくなりました。しかし従業員の採用難はより深刻な状況のようです。


このコラムは、2011年1月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第190号に掲載した記事です。

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アメとムチ

 このメルマガで、何度か「アメとムチ」の指導では成果は限定的だと申し上げてきた。

「PK」

先週末に届いたメールマガジンでも同じ様な指摘をしていた。
人の心に灯をともす【アメとアメなし】

このメールマガジンに米大学バスケットボール界の名将・ション・ウッデン氏が紹介されていた。彼の指導法は「アメとアメなし」指導だと解説している。

通常のアメとムチの指導では、
好ましい行動をとった場合は、アメを与え好ましい行動が増える様誘導する。
好ましくない行動をとった場合は、ムチで叩き好ましくない行動をとらない様指導する。
と言うことになる。

バスケットボールで言えば「アメとムチ」指導は、
良いプレイをした選手には、賞讃と言うアメを与える。
ミスをした選手には、罰としてコート10周うさぎ跳びと言うムチを与える。

これに対しウッデンの「アメとアメなし」指導は、
良いプレイをした選手は褒める(アメを与える)。
ミスをした選手は褒めない(アメを与えない)。

ミスをした選手には、次にミスをしない方法を考えさせる、と言う指導をしている。パスミスをした選手にうさぎ跳びをさせた所でパスミスが無くなるはずはない。パスミスをした原因を考えさせる。パスミスが、運動能力が低いため発生したのだとすれば、運動能力を鍛える事でパスミスが減る可能性が有る。
しかし状況判断のミスでパスが通らなかったのであれば、何度うさぎ跳びをしても改善することは無い。

冷静に考えれば「アメとムチ」の指導では部下の育成は出来ない。

ウッデンが監督として優れているのは、選手に対して的確な「指示と支援」が出来るからだ。(私はバスケットボールに関しては全くの素人だ。これを教えてくれたのは、「禅脳思考」の辻秀一先生だ)

「禅脳思考」辻秀一著

「アメとアメなし」指導だけではない、選手が自分自身のパフォーマンスを高い状態にキープ出来るように支援することがウッデンの指導のキーポイントなのだ。

ウッデンは成功をこう定義している。
「成功とは、お金や実績などではない。自分のベストを尽くしたときに感じられる満足感のことだ」
成功とは、全米大学リーグで優勝することではなく、NBLチームと契約し高額の契約金を得ることでもない。試合に出ることが無い控えの選手であっても、練習でベストを尽くし満足感を感じることができれば、それが成功だと言っている。

あなたの会社でも同じことが起きてはいないだろうか?
仕事の目標を達成したら、ボーナスと言うアメを与える。
仕事の成果を達成しなかったら、罰金と言うムチを与える。
もしくは、ボーナスと言うアメを与えない。

本当にボーナスが、ココロから手に入れたい成功の要因なのだろうか。
既に人々の欲求は次のステップに成長しているのではないだろうか。


このコラムは、2015年4月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第418号に掲載した記事に加筆修正したものです。

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