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改善の火をともす

 クライアントの工場で改善活動をして成果を上げる.これが私の仕事だがこれだけでは不十分だと考えている.このまま仕事を終わってしまうと,いつしか改善の効果は元の木阿弥となってしまう.

工場のリーダや作業員が継続して改善するモチベーションを植えつけておかなければならない.

まず改善活動を始めるときに改善モチベーションを高めなければならない.
今まで現場で上司の指示どおりに仕事をしてきたリーダたちに,自分で考えて行動を起こさせるためには,それなりの初期エネルギーを与えないとだめだ.

まず小さな改善で成功体験をしてもらう.
しかしここですでに変えることに抵抗を示す.「変更する前に上司に話を通してほしい」といってくる.

無理もない.今まで改善の訓練を受けていない上に,よそ者のコンサルに「ここを変えよう」と言われているのだ.うまく行かなかったときの責任が自分に降りかかってくるのを恐れてしまう.

こういうリーダたちはほとんど死んだ目をしている.

私はこういうメンバーたちにまずミーティングをしている.
私「何のために仕事をしているの?」
 「??」
 「……」
今まで当たり前すぎて考えたこともないのだろう.誰も答えない.
しばらく待って
 「家族のため」
 「会社のため」
などと言う答えが返ってくることもある.

私「仕事をするのは自分のため.
  仕事を通して自分の能力を高めるのが目的.
  能力が高まれば,給料が上がり家族が幸せになる.
  会社も利益が上がる.
  そして自分自身が幸福になる」
そんな話をすると「!!」と目が輝きだすリーダが出てくる.

私「会社のためじゃなくて自分のために仕事をしなさい.
  知識ではなく能力を高めなさい.
  会社は給料をくれてそういう機会を与えてくれる場所だ」

こんな話をして目が輝きだす人が一人でもいれば,その人に改善の方法を教え成果を見せる.成功体験が自信となる.
次々と課題を与え自分で考えさせる.
最後には課題を自分で見つけさせる.

ここまでできるとそのリーダの背中はピカピカと輝きだす.
それを見ている周りのリーダの目が輝きだせば大成功だ.
急速に職場には背中がピカピカ輝いた人間が増えてくる.

言われたことをきちんとこなすリーダよりも,問題を見つけてくるリーダを重用する.そしてそういうリーダが評価される仕組みをきちんと作っておく.

こういうことができて「改善文化」が出来上がってくる.


このコラムは、2009年11月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第124号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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生産改善

 もう10年近く前の話になる。従業員9,000人ほどの大工場の指導をしていた。人手による生産から脱却し、自動化生産をしたいという経営者の要求を受けた。自動化設備の設計製造をしている友人からの要請でプロジェクトに参加した。現状のラインをどのように自動化するかアイディアを出すのが私の役割だった。友人はアイディアを設備として実現する才能を持っている。

当時すごい勢いで上昇し始めた労務費の削減が狙いだが、経営者と話をすると従業員マネジメントの苦労から逃れたいようだった。

現場を見ると、なるほどと思える。
従業員の躾が全くできていない。製品の持ち出しを懸念して作業現場の出入りには保安係の身体検査がつく。従業員を信じていないから、現場も経営幹部を信頼しない。

現場の改善は日本人幹部がやる。
作業改善のために治具を製作し現場に投入するが、班長が治具の使用を拒否。信じられない状況だ。日本人幹部がトップダウンで生産改善をしても、それを現場が運用しなければ効果は発生しない。

この様な状況下で、全自動化したいという経営者の要求が生まれたのだろう。

ここまで極端な事例はあまりないと思う。
しかし現場の中国人幹部に改善の積極性が低い、という日本人経営者の不満はよく聞く。自ら改善提案ができない、改善活動に消極的な中国人幹部が多い。そのため日本人赴任者主導で改善を進める。そして中国人幹部の能力も積極性も養われない、という悪循環になっている様に思う。

生産現場の監督職までも積極的に改善活動に参加する「改善文化」を作る。そのためには、現場の管理職、監督職の能力と意欲を磨く必要がある。
全自動生産設備を導入すれば生産性は上がるだろう。しかし改善は一度だけだ。改善文化を磨けば改善は継続する。


このコラムは、2018年3月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第647号に掲載した記事に加筆しました。

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