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チェックリスト

 先週号でポカミスについて記事を書いたが、ミスの防止(流出防止)にはチェックリストが良く使われている。一種のダブルチェックだ。
今回はチェックリストの効能を別の切り口で考えて見たい。

私は自分一人でする作業にも自己チェックリストを作っている。
定例セミナーの開催にも自己チェックリストがある。
当日会場に持って行く物リスト。講演テーマの決定、会場の予約、セミナーの告知、参加者への会場案内、参加者へのお礼、議事録の作成など一連のスケジュール。
これらがチェックリストの形になっている。

持ち物リストは前の日にプリントアウトし、鞄につめながら各項目にレ点を付けてゆく方式になっている。
スケジュールリストはwebのスケジュール管理ソフトにTODOとして登録してある。その日にしなければならないTODOアイテムが朝メールで届くようにできる。

こんな仕組みによって「ついうっかり」を防止している。

このチェックリストにはもうひとつ目的がある。
将来この仕事を部下に任せるときに、このチェックリストが業務マニュアルになる。
スケジュールリストは仕事の流れに沿って時系列にTODOアイテムが並んでいる。
各TODOアイテムごとに、誰と相談して決めるか、誰の承認決済を貰うかなどを追加してゆけば立派な業務マニュアルになる。

ホワイトカラーのオフィスワークは非定型要素が多くあり業務マニュアルを作るのが困難だ、という話を良く聞く。そう考えていたら一生かけても業務マニュアルなどできない。

まずは不完全で良いから、チェックリストを作る。それを運用しながら改善する。この運用・改善のプロセスを通してチェックリストに魂を入れる事ができる。

持ち物リストのようなモノは業務マニュアルまで昇華することは少ないかもしれないが、将来業務マニュアルに進化させることを前提にチェックリストを作れば良いのだ。

自己チェックリストができたら、相互ダブルチェックが働く仕掛けを用意する。
例えば業務プロセスが完成し報告書や伝票などを上司のチェック・承認を貰うために提出する時に、自己チェック済みのチェックリストを添えて提出するように義務付ける。

まだ業務に慣れていない部下には上司が部下と一緒にチェックリストを内容をチェックする。こうすることにより上司は部下のその業務に対する理解度、習熟度が把握できる。このプロセスがOJTそのものだ。

こういう習慣をつけることにより「ホウレンソウ」もうまく行くようになる。
必要があれば、このような「報告・連絡・相談」アイテムをチェックリストの中に入れておけば良い。「ホウレンソウ」とは部下から上がってくるのを待つのではなく、部下が「ホウレンソウ」をするように上司が仕向けることだ。


このコラムは、2009年7月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第106号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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知ってる。出来る。教えられる。

 今週のコラムに「知行一致」を書いた。「知ってる」と「出来る」が一致するレベルとなって初めて教育訓練の意味がある。

ISO9001の6.2.2章にあるTrainingは、日本語では教育・訓練と訳している。
英語ではTrainingと一単語で表現できるが、日本語では教育が「知」を表し、訓練が「行」を表すのであろう。

工場で中国の若者に指導した時に、「知りました」とか「知っています」と返事が来ることがある。多分、本人は『知道了』の意味でそう言っているのだろう。

「知っています」などと言われると、ちょっとムッとする。しかしこのような時制のミスは、しばしばあることだ。それよりも、知っただけではだめ、理解して今後の行動を改めてもらわねばならない。日本人としては「分かりました。注意します」と答えてもらえると安心する。

小さな問題、言葉の問題と片付けてはいけない。
知行一致は、言葉ではなく行動で評価しなければならない。
小さな問題で知行一致が出来なければ、経営理念と自分の行動の知行一致は望めない。

そして、知っている・出来るでもまだ不十分だ。
それを教えられなければならない。
知っていることは教えられる。出来ることは教えられる。と考えるのは早計だ。

例えば5S。
私の観察によると、5Sを「知ったつもり」になっている人が随分いる。そういう私自身も、前職時代に会社や上司から5Sについて系統立てて教わった経験は無い。しかし職場では、当たり前のように5Sの話が出る。
生産委託先の指導をすることになり、何冊も本を読んで勉強し実践した。知ったつもりになっているだけでは、教えることは出来ない。

例えば作業方法。
流れるような動作で、全く無駄のない作業をしている作業員を見ることがある。
しかし彼女(彼)がそのやり方を教えられるかというと別問題だ。多くの場合、現場リーダがその作業を観察し作業のポイントを分析・抽出して、他の作業員に教える事になる。
教えるためには、観察・分析能力が必要となる。

例えば改善。
自分で改善ができる。その改善内容を皆の前で発表することも出来る。しかしその改善をどうやって発想したか。その発想過程を教えることは、難易度が1ランク上がる。モノ事を、抽象化して汎用化する能力だ。


このコラムは、2011年10月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第226号に掲載した記事です。

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このコラムは、2011年10月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第226号に掲載した記事です。

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仕事の報酬は仕事

 98号のニュースから:「受かって何になるん?」 大阪検定、逆風でオマケまでに読者様からメッセージをいただいた。

☆S様のメッセージ
(前半省略)
そんな中で今日のメルマガのまとめ文には、いささかの違和感を感じました。
違和感というより、消化不良といったほうが正しいかもしれません。

 「仕事の報酬は仕事」であり、それによって得られる能力向上が「長期的な実利」であることをしっかり教えてやる事が正しい対応だと考えている。

これは、中国人に限ったことではありませんね。
日本人の最近の若年層の考え方も似たようなものです。
企業規模が大きくなるにつれて、個々の社員は狭い領域の仕事だけが己の職務すなわち、給与の対象と考えている。
 能力評価を上げて上級職を目指し、結果的に給与水準を上げる。そんな考え方よりも、先月の残業代のほうが重要だと…。

『自己の能力向上が長期的な利益』と教えるには、対象とする部下の今現在の能力が実はたいしたことは無いレベルなのだ。とある種の評価否定から入らなければなりません。
 この点が、中国人にはもっとも難しい点ですね。中華思想というべきか、ほんのちょっとの能力を、ことさら誇大に自己主張する。
その背景には、大陸性の民族としての習性もあるのでしょうが、この部分の指導方法こそが、最大の課題なのではないかと、日々感じています。

【林のコメント】
S様がご指摘の通り、日本の若者も「仕事の報酬は仕事だ」ということを学ぶべきだと感じる。特に昨今のフリーターという働き方が生活の糧を得るためだけに働く、という貧しさを感じる。
7日間のうち5日間を働かなければならないとすると、週末に「自分」を取り戻すよりは仕事を通して「自分らしさ」を実現したほうが幸せなはずだ。

「自己の能力向上が長期的な利益」であることを教えるのに部下に否定的評価をする必要はないと考えている。「現在の実力がたいしたことない」という評価は原点が現在にある。それよりは評価の原点を将来の夢(目標)に置く。その目標と現在の差を埋める行動を取るようにする。

やることは同じかもしれないが、原点が現在にあるのか、将来のありたい自分にあるのかに大きな違いがある。

現在の能力を否定された形でのスタートはココロがネガティブになる。
将来の夢を原点として物事を考えればココロはポジティブになる。
ポジティブなココロがポジティブな行動を生む。

自己の能力を最大限に誇張表現する、と言うのは中国人にしてみれば生活がかかっているので当然の行動原理だと思う。

しかし一緒に仕事を開始しすれば誇張表現はなくなる。
こちらからお前はダメだと否定するより、自分からその差に気がつき学ぼうと思ってもらったほうが効果は高い。

一緒に仕事をしてなおかつ誇大表現が止まらない人は、
 自分の能力を適正評価できない
 世の中で通用する能力レベルが理解できない
という欠陥がある可能性がある。
こういう人にはいくら教えてもムダだ。むしろ教える側のモチベーションが下がると言う弊害がある。


このコラムは、2009年5月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第99号に掲載した記事に加筆しました。

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