信頼性技術」カテゴリーアーカイブ

トラブルは繰り返す

 私は、技術用語に特化して中国語を紹介するメールマガジンを配信している。そのメールマガジンで、ウィスカーは中国語で『晶須』と言うことを、2年前に紹介した。
そのバックナンバーをご覧になった読者様から、先週メッセージをいただいた。古い記事でも、誰かの役に立っていると分かると大変嬉しい。

ウィスカーと言うのは、単一分子が髭状に成長したものだ。
カーボンウィスカーは、強度の強い素材として利用されている。
しかし錫ウィスカーは、歓迎されざるトラブルの原因となる。

初めて錫ウィスカーが見つかったのは、Dip ICのリードの肩の部分から、ウィスカーが成長しリード間を短絡する不具合だった。当時ウィスカーが信頼性問題の原因になることがまだ知られておらず、錫メッキをしたリードフレームにICチップを乗せた後、肩の部分をプレス成型で曲げていた。

メッキ層に機械的適応力がかかると、ウィスカー発生の加速要因となる。

したがってプレス曲げ加工をした後に、メッキをすれば問題はなくなる。
しかしICの場合は構造上リードを成型した後にメッキをすることは困難だ。錫メッキに、鉛を添加してウィスカーの発生を抑えた。

その後、ウィスカーによる不具合はぽつぽつとあったが、大きな問題になることはなかった。

しかし環境問題で、鉛の添加が出来なくなり、また業界全体で問題となった。
セットメーカは部品メーカに対し、鉛の使用を禁止したにもかかわらず、鉛フリーの錫メッキは認めないなど、矛盾した対応で混乱した時期があった。

一度解決したと思われたウィスカーが、鉛を使えなくなり、また問題としてクローズアップしてきた。

世の中の問題は、殆どこのような「再発問題」なのだと思う。今まで知っていた不具合現象が、何年かの周期で再発する。
ウィスカー問題のように、環境問題に起因して再発することもある。技術の進歩に伴い、再発することもある。
一番情けないのは、技術の伝承がうまくゆかずに再発するケースだ。

あなたの会社には、技術を伝承する仕組みがありますか?


このコラムは、2012年2月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第245号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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モグラ叩き問題

 モグラ叩き問題と言うのは、ゲームセンターにあるモグラ叩きゲームを思い起こしていただきたい。穴から顔を出すモグラを叩くゲームだ。穴から顔を出すモグラと同様に、同類の問題がしばしば発生し、その都度に問題解決をしなければならない問題のことを言う。

本日はなぜモグラ叩き問題が解決できないのかを考えてみたい。

当然モグラ叩き問題が発生している現場ごとに、事情は違うだろう。しかしいささか乱暴だが一言で言ってしまえば「現象として現れる問題にとらわれ、その原因にアプローチしていないから、問題は手を替え品を替えて現れる」と言うことだ。

「人為ミス」による問題に関してしばしばこのメルマガで取り上げている。
人為ミスは「現象として現れる問題」であり「原因」ではない。「人為ミス」と言う言葉を使って再発防止対策を検討している限り、モグラ叩きは続く。

例えば電子部品を搭載したプリント基板を筐体にねじ止めする場合を考えてみよう。プリント基板に実装されたトランジスタなどの発熱部品を放熱のため筐体に密着される様にねじ止め固定する。
このような構造の電子製品は、市場に出てから一定比率で故障が発生する。
プリント基板、筐体のねじ位置の誤差、プリント基板に実装した部品の位置誤差により、発熱部品のリード半田付け点に応力がかかり続けることになる。時間とともに半田フィレットに亀裂が入り、最終的には非導通となり故障する。リード部分に高電圧がかかっていると、亀裂の隙間で放電し発煙出火の危険すらある。

このような故障は、ハンダ割れが発生→半田フィレットに応力がかかっていた→筐体への固定により応力がかかる。と言う具合に問題から原因にフォーカスし対策を検討する。対策としては取り付け方法の設計変更が有効だ。既出荷品や対策完了前の生産には、プリント基板固定後再半田をし、半田フィレットの応力を解放すると言う対策を考えることが出来る。

このように原因にアプローチすれば、問題根絶の対策を考えることが出来る。
しかし問題の原因解析を人為ミスで終わりにしてしまえば、作業員の再教育、作業員の固定、などと言う対策しか出て来ず、人が替わればまた問題が発生する。
人為ミスと言う「現象」にとらわれている限り「原因」にアプローチ出来ない。


このコラムは、2016年2月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第465号に掲載した記事に加筆したものです。

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かつてない困難

 「かつてない困難からは、かつてない改革が生まれる。
  かつてない改革からは、かつてない飛躍が生まれる。」

松下幸之助の言葉だそうだ。

リチウム電池の発火事故で大規模回収に直面しているサムソンは、間違いなく「かつてない困難」に直面している。

私も前職時代に「かつてない困難」に何度も直面した。

サムソンのリチウム電池は自社のグループ企業の問題だが、私が担当していたコンピュータの周辺装置は協力メーカからの購入品であり、自社にとっては未知の技術領域だった。それでも協力メーカの設計技術者や品質技術者らと議論を重ね問題解決が出来たのは、原理・原則に基づいた正しい問題解決の道を外さない様に心がけたからだと思っている。

その過程で得た信頼性技術、解析技術の知見を自社に蓄積し、未然に問題発生を予防するノウハウを得る事が出来た。

高耐圧部品の絶縁不良問題、高電圧半導体の電解腐食問題、プラスチック部品の環境応力割れ、ゴム樹脂のブルーミング、ハンダ付けの応力割れ、メッキ部品の水素脆性破壊などは、短期間の評価では見つからない信頼性問題だ。また電解コンデンサの四級塩電解液による回路ショートなど、業界全体で未知の不良現象もあった。

こういう問題を一つずつ解決し、設計基準や評価手法を確立していく。
その結果製品の信頼性設計技術が向上する。

信頼性問題に直面している最中は、既に出荷してしまった製品への対応、まだ問題が顕在化していない出荷済み製品の寿命予測、など本筋ではないが緊急に対応する必要がある問題が山ほどでてくる。しかし現在の対応に消耗してしまってはダメだ。かつてない困難をかつてない飛躍に結びつけるために、せねばならぬことを忘れない様にしなければならない。

かつてない飛躍とは、信頼性問題を起こさぬ様、事前に対策を打てることだ。


このコラムは、2016年9月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第492号に掲載した記事です。

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ケミカルマイグレーション:抵抗の断線

直流電界がかかっている状態で,塩素,臭素,燐酸などのコンタミネーションがあると,配線パターンの金属原子が移動してしまい断線する現象を,イオンマイグレーションとか,ケミカルマイグレーションと呼んでいる.

今日は抵抗器のケミカルマイグレーションの事例をご紹介する.

金属皮膜抵抗をPCBに実装し,対振動性,耐衝撃性の要求から接着剤で固定していた.この接着剤を変更した時に,信頼性試験により,抵抗が断線するものが見つかった.

写真1は不良抵抗の外観.右側にうっすら黄色く変色している部分が接着剤で固着していた箇所.

ケミカルマイグレーション

写真1:断線抵抗の外観

写真2は不良抵抗のエポキシ外皮を剥がしたもの.金属皮膜の抵抗パターンが,マイグレーションにより喪失している.写真では左右反対になっているが,固定用の接着剤が付着していた部分を中心にマイグレーションが発生している.

ケミカルマイグレーション

写真2:不良抵抗の断線箇所

接着剤に含まれるハロゲン系の成分が抵抗内部を汚染し,触媒となり直流電解が印加された抵抗金属皮膜間でマイグレーションを促進させたものと推定している.
ケミカルマイグレーションは触媒となるコンタミがあれば,直流電界の電圧,温度,で加速される.

この事例は,固定用の接着剤を変更したときの信頼性評価で発見できた.
もし信頼性評価を実施していなければ,エンドユーザが使用中に不良となったはずである.バケ学要素の強い材料を変更する場合は,信頼性評価をきちっとしておくべきだ.

錫ウィスカー

ウィスカーホイスカという言い方もあるが,本稿ではウィスカーと表記する)というのは,髭状に成長した単結晶のことを言う.錫ウィスカーによる短絡不良現象は,1940年代から知られている.錫めっきの表面から錫ウィスカーが髭状に成長し,回路を短絡するという不良である.この不良現象は,製造工程では発見できず,市場にて稼働中に発生する.いわゆる信頼性不良である.

ウィスカーの発生メカニズムは機械的残留応力によるものといわれている.しかしそのほかの要因も複雑に絡み合っており,加速試験の条件など模索状態といってよいだろう.(一般には,-40℃-90℃の温度サイクル試験が用いられている)

昔観察された錫ウィスカーは,ICの錫めっきリードに発生した.図1に示すようにICリードの肩の部分からウィスカーが発生する.この部分は曲げ加工が入っており,錫めっきへの残留応力により,錫ウィスカーが発生したと考えられている.

Whisker図1 ICリードからの錫ウィスカー

金属端子に半田付け性を良くする為に錫めっきをした製品なども同様な錫ウィスカーが発生する可能性がある.ただしめっき層に機械的な残留報力がなければ,錫ウィスカーは発生しない.従って曲げ加工などをめっき前に施しておけば安全だ.

あらかじめ,めっきされた錫めっき鋼板などを加工すると,同様に錫ウィスカーが発生するが,めっき処理(光沢有り・無しなど)によって変わる.光沢錫めっきの方が錫ウィスカーが発生しやすいといわれている.

また錫に鉛を添加したものをめっきすると,錫ウィスカーは発生しない.従って有鉛半田めっきのリードでは錫ウィスカーの問題は発生しない.

環境問題により,鉛の使用が禁止されて以来,再び錫ウィスカーの問題が発生している.同時に回路の高集積化により,部品の間隔が狭くなっており不良の健在化も上がっている.RoHS施行の直前に,鉛フリー錫めっきの使用を禁止するセットメーカが出てきたり,かなり混乱した.

最近では,積層セラミックチップコンデンサーの端子部分の錫ウィスカー発生が問題となった.図2はNASAのホームページに公開されている積層セラミックチップコンデンサーの電極部分に発生した錫ウィスカーの写真である.

Whisker(MLCC)図2 チップコンデンサーの錫ウィスカー

このチップコンデンサーは,図3のような回路基板に実装されており,回路パターンへの接合は導電性エポキシ接着剤を使用している.このため半田付け作業による,錫めっき部分の残留応力開放が行われなかったものと考えられる.

Whisker図3 チップコンデンサの実装状況

宇宙空間で使用する場合は,ウィスカーが他の電位と接触していなくても,プラズマ放電が発生しショートする場合がある.

このように同様の信頼性問題であっても,時を隔てて再度問題となることがままある.
過去の事例を,過去のモノと片付けておかず,しばしば見直すことも必要だ.

チップセラミックコンデンサのショート故障

チップセラミックコンデンサの信頼性不良としてショートモードの故障があります.
今回はクラックによるショートモード不良について紹介します.生産時の製品検査で発見できずに,エンドユーザで使用中に発生する厄介な故障モードです.

セラミックコンデンサは,非常に薄いセラミック板に銀ペーストで電極を構成し,これを何枚も積層して作ってあります.

チップコンデンサ断面図

非常に薄いセラミック板なのでガラスと同様簡単にクラックが入ってしまいます.
例えば,部品を落とす,プリント基板の角が当たるくらいでクラックが入ります.
意外と気がつかないのは,PWBに実装した状態で,PWBにひずみを加えただけでセラミックコンデンサにクラックが入ります.

チップコンデンサにかかる応力

上の図のようにセラミックコンデンサを実装した状態でPWBに歪をかけた場合,90mmの間隔で0.5mm変位をつけただけでクラックが入ってしまいます.

したがってPWBを分割するときのV溝のそばにチップコンデンサがあると,分割の際の力でクラックが入ります.
またPWB固定用のねじ穴のそばにチップコンデンサがあれば,ねじを締結する力でクラックが発生します.
極端な場合は,実装後のPCBを片手で端を持ったときに,自重でPCBがそりチップコンデンサにクラックが入ったという例もあります.

セラミックコンデンサ内部クラック

セラミックコンデンサにクラックが入った場合,クラックの大きさによりコンデンサが完全にオープンになる,容量値が小さくなる,という不良になります.この状態で検査をして見つけることができればよいのですが,ノイズフィルタとして電源ラインに入れるような用途では,検査では見つけられません

しかも悪いことにこのままの状態で通電するとクラックを通して銀ペースト電極が直流電界でバイアスされて向き合うことになります.この状態で使用し続けると銀がマイグレーションしてショートします.電源バイパスとしてセラミックコンデンサーを使った場合,ショートされるのは電源ラインとグランドなので,インピーダンスが低く発熱,発煙するまで電流が流れ続ける場合があります.

電圧が高ければマイグレーションも加速します.ディジタル回路(3.3V,5V)よりもアナログ回路のバイパスコンデンサとして使用した場合のほうが不良が発生する期間は短くなります.

市場情報と信頼性設計

 金属疲労と溶接不足が原因 名古屋・エスカレーター事故
 名古屋市営地下鉄の久屋大通駅で乗客14人がけがをしたエスカレーター事故は、エスカレーターの制御装置の台座を固定するボルトの金属疲労と固定の仕方の不備が重なって引き起こされていたことがわかった。事故原因はこれで、ほぼ特定された。
                           (asahi.comより)
 2008年5月9日朝のラッシュ時に地下鉄駅で発生したエレベータ事故である.
実はこのエレベータは2007年9月の定期点検時に2本の固定ボルトが折れているのが見つかっている.金属疲労による破断であった.
しかしエレベータメーカはボルトが折れていた場所など計4カ所を,台座の下の基礎部分に溶接した鉄製金具で台座を押さえつける補修をしただけである.
金属疲労でボルトが破断しているということは,
・設計条件が実際の環境と違っていた.
・設計が設計条件を満たしていなかった.
ということが想定されてしかるべきである.この時点で応急修理だけではなく,きちんと設計にさかのぼって検討をする必要があったのではないだろうか.
2007年9月の補修以降2008年4月にも定期点検があったが,この際には固定ボルトの点検・交換は行われていない.
少なくとも想定外の疲労破壊が発生しているのであるから,固定ボルトは新品と交換し,7ヶ月使用した固定ボルトを持ち帰り詳細に検査すべきだ.
報道によると,点検業務は委託会社がやっていた.現場への指示や現場からのフィードバックが不十分だったのではなかろうか.
耐久資材を作っているメーカにとって現場の修理サービスの情報は自社製品の信頼性設計に非常に重要であるはずだ.これを委託会社に任せてしまい,現場の情報が上がってこなくなっていないだろうか.
記事では,これで事故原因が特定できた,と報道しているが,固定ボルトが疲労破壊した原因まではさかのぼっていない.
何事も源流までさかのぼって解析する必要がある.
またもっとも重要な現場の情報が設計部門にきちんとフィードバックする仕組みを持たなければならない.

台湾メーカの電解コンデンサ

生産委託先から、コストダウンのために台湾メーカの電解コンデンサを採用したいと申し出がありました。設計者の部品指定は、全て日本メーカの電解コンデンサでした。従って台湾メーカの中国工場の電解コンデンサに変更すれば、コストダウンになります。
早速協力工場のVQA(ベンダーQA)のメンバーを連れて、電解コンデンサメーカの工場に採用監査に出かけました。広東省東莞市にある協力工場からベンダーの工場までクルマで1時間足らずです。輸送費だけ考えてもコストダウンになります。
立派な工場で、検査設備も一応のものは揃っています。工程間での中間検査も一生懸命やっています。これはうがった見方をすると、工程で品質を作りこむ自信がないから検査で不良を除去しようと言う姿勢とも受け取れます。これだけでは安心できません。
工程内を一通り見て回り、少なくとも不良品が流出してくる可能性はかなり低いように思えました。一応このメーカと付き合い始めて、品質指導をすればよい工場になるかもしれないと言う思いが芽生えていました。
しかし電解コンデンサの性能・信頼性を左右する電解液の調合工程を最後に確認したところ、調合比率に関する作業手順書も品質記録も見当たりません。他の工程では手順書も品質記録もしっかりしているのに、この工程だけがありません。この点について聞いてみると、手順書に落としてしまうと、作業員が調合比率を知って、よその工場に行ったり、独立したりして同じ製品を作ることができるから秘密にしてあるのだと言います。さらに驚くべきことに、調合作業は2人の作業員に教えてあり、2人が調合した電解液を混ぜて始めて使えるのだそうです。従って2人が揃ってスピンアウトしない限りは本当の調合比率は分からないと言うことです。
実はこの会社の創業者は、以前日系の電解コンデンサメーカに勤務をしており、そのときのノウハウで創業したのです。自分自身がそうであった様に、彼は従業員を信用できないわけです。
そのために、中間検査を一生懸命やっていたわけです。電解液の調合比率については、中間検査の結果が品質記録だと言えば、ISO的には文句のつけようがありません。しかし電解液の調合比率をその初期特性だけで評価することはできないと思います。最近話題になった水系の電解コンデンサが磨耗型の市場不良が多発した問題は、初期特性だけでは評価できません。
そのほかの管理については比較的よくやっており、この1点のみで採用不可にするのはあまりにも惜しいので、条件付で採用OKにしました。その条件は生産ロット(出荷ロットでは意味がありません)ごとにサンプルを抜き取り、ORT(On Going Reliability Test)で品質を保証する、と言う条件です。
しかし残念ながら、私の採用監査レポートを読んだ設計のエンジニアは腰が引けてしまい、部品表にこのメーカは追加されませんでした。
品質保証の立場から行くと少しほっとしたのは事実ですが、安い部品を使おうと思ったら何らかの工夫をして使えるようにしなければなりません。

水素脆性破壊

ねじに、めっきなどの処理により水素が残留している状態で残留応力がかかっていると脆化してポロリと破断してしまう不良現象があります。
北欧のある周辺装置メーカから、最近出荷した製品ロットのねじに「水素脆性破壊」不良が混じっている可能性があるので、回収させてほしいと言う連絡を受けたことがあります。このメーカが使っているねじメーカが、めっき処理後のアニール工程を飛ばしてしまったため、完成在庫品でねじの頭がポロリと取れてしまうものが見つかり連絡をしてきたのでした。
めっきをする過程で酸洗い工程などで金属中に水素原子が捕捉されます。通常はアニール工程でこの水素原子をたたき出してしまうので問題はありません。このアニール工程を飛ばしてしまうと、残留応力が残っている部分が脆性破壊してしまいます。ねじを作った時点や、ねじを締め付けた時点では見つからず、製品に組み込んだ後にしばらくしてポロリとねじの頭が取れてしまいます。
 
この周辺装置メーカは、完成在庫の中から不良を見つけた時点で速やかに連絡をしてくれたおかげで、エンドユーザに出荷する前に被害を食い止めることができました。しかしこのメーカ、連絡をくれた直後から夏休みに入り、なんと1ヶ月休みだそうです。そのおかげでお客様には、納品をしばらく待っていただかざるを得ませんでした。1ヶ月も夏休みがあるなんて、さすが北欧のメーカだと感心するやら恨めしいやら、複雑な心境でした。
実は私はこの不良現象をこのとき初めて知ったのですが、この現象は教科書にも載っているような有名な不良現象でした。当時の機械系エンジニアの先輩から、それはこの本に出ているよと教えてもらったものです。
当然ねじのメーカでも常識として知られていた内容です。それでも不良が発生してしまう。QC工程図にもきちんとアニール工程は入っています。
各工程が連続していて、一つ一つの工程が終わらないと次の工程に行かないような連続工程になっていれば、「工程飛ばし」は発生しにくくなります。しかしねじなどのような部品の生産は、往々にしてバッチ生産となり、各工程で処理待ちのバッチができたりします。このときに中間完成品の状態をきちんと表示をしておかないと、「工程飛ばし」の原因になります。特にアニール処理などのように処理前と処理後の見分けが付かないものは識別表示が重要です。
部品ベンダーの採用監査などでは、工程内の識別表示がよくできているか重点的に見る必要があります。
ねじのような共通部品は、きちんとロット管理をするのが結構難しいものです。きちんと先入れ先出しができていても、問題のあるロットの絞り込み対象範囲が拡大してしまったりします。このためにためにも品質のきちんとしたメーカを選定しておくことが最重要です。

プラスチックの油脂クレージング割れ

プラスチックの残留応力がある部分に油脂や溶剤が付くと徐々に亀裂が深くなってゆき割れてしまうことがあります。この不良現象をクレージング割れと言ったりします。徐々にクレージングが成長してゆく様子が貝殻模様のようになって見えます。
最初にこの不具合を体験したのは、金属シャフトに挿入されたプラスチックノブです。プリンタのプラテンノブが稼働中にポロリと落ちてしまいました。シャフトに付いたグリースがノブにも付いてしまい、ノブの成型時に応力のあった場所、またはシャフトにはめ込んだ状態で発生する応力のある場所から徐々にクレージングして最終的にはポロリとシャフトから抜け落ちてしまいました。
この場合はシャフトにはグリースは不可欠なので、グリースの塗布を注意させたところで完全な対策にはなりません。ノブの材料を油脂クレージングに強いものに変更しました。
別の例では、プラスチックケース成型用の金型に塗布した防錆剤の洗浄が不十分なまま生産を開始した為に、防錆剤が製品に付いてしまいました。この状態で使っていると、ケースの成型時の残留応力が大きな部分が割れてきます。
防錆剤、潤滑剤など、工場のそこいらにあるスプレーをケースに振りかけて、ヒートサイクルテストをして見せてやりました。数サイクルやっただけで、ことごとく割れてきます。この実験を工場のメンバーに見せて身をもって理解してもらいました。
いくらマニュアルに書いておいても、意味をきちんと理解してもらわないと、この程度きれいにしておけばよいと言う判断になってしまいます。リーダ、作業者みんなになぜ防錆剤をきれいに洗い流さないといけないのか、きれいに洗い流さないとどうなってしまうのか、きちんと理解させておかないと「未然防止対策」にはなりません。