水素脆性破壊


ねじに、めっきなどの処理により水素が残留している状態で残留応力がかかっていると脆化してポロリと破断してしまう不良現象があります。
北欧のある周辺装置メーカから、最近出荷した製品ロットのねじに「水素脆性破壊」不良が混じっている可能性があるので、回収させてほしいと言う連絡を受けたことがあります。このメーカが使っているねじメーカが、めっき処理後のアニール工程を飛ばしてしまったため、完成在庫品でねじの頭がポロリと取れてしまうものが見つかり連絡をしてきたのでした。
めっきをする過程で酸洗い工程などで金属中に水素原子が捕捉されます。通常はアニール工程でこの水素原子をたたき出してしまうので問題はありません。このアニール工程を飛ばしてしまうと、残留応力が残っている部分が脆性破壊してしまいます。ねじを作った時点や、ねじを締め付けた時点では見つからず、製品に組み込んだ後にしばらくしてポロリとねじの頭が取れてしまいます。
 
この周辺装置メーカは、完成在庫の中から不良を見つけた時点で速やかに連絡をしてくれたおかげで、エンドユーザに出荷する前に被害を食い止めることができました。しかしこのメーカ、連絡をくれた直後から夏休みに入り、なんと1ヶ月休みだそうです。そのおかげでお客様には、納品をしばらく待っていただかざるを得ませんでした。1ヶ月も夏休みがあるなんて、さすが北欧のメーカだと感心するやら恨めしいやら、複雑な心境でした。
実は私はこの不良現象をこのとき初めて知ったのですが、この現象は教科書にも載っているような有名な不良現象でした。当時の機械系エンジニアの先輩から、それはこの本に出ているよと教えてもらったものです。
当然ねじのメーカでも常識として知られていた内容です。それでも不良が発生してしまう。QC工程図にもきちんとアニール工程は入っています。
各工程が連続していて、一つ一つの工程が終わらないと次の工程に行かないような連続工程になっていれば、「工程飛ばし」は発生しにくくなります。しかしねじなどのような部品の生産は、往々にしてバッチ生産となり、各工程で処理待ちのバッチができたりします。このときに中間完成品の状態をきちんと表示をしておかないと、「工程飛ばし」の原因になります。特にアニール処理などのように処理前と処理後の見分けが付かないものは識別表示が重要です。
部品ベンダーの採用監査などでは、工程内の識別表示がよくできているか重点的に見る必要があります。
ねじのような共通部品は、きちんとロット管理をするのが結構難しいものです。きちんと先入れ先出しができていても、問題のあるロットの絞り込み対象範囲が拡大してしまったりします。このためにためにも品質のきちんとしたメーカを選定しておくことが最重要です。