カテゴリー別アーカイブ: 品質保証

洞察力

 例えば組み立てラインの不良部品を入れる箱に、ねじが一本入っているのを見つけたとする。見つけたねじは正規の部品M3×10mmではなく、M3×8mmだった。これを見つけたあなたはどうするか、考えてみていただきたい。

このねじを見つけた時のリスクをどれだけ思い浮かべられるかが洞察力であり、そのリスクに対してどういう行動を取るかが、リーダの資質だ。そしてそう言うリーダを育成する事があなたの仕事だと思うがどうだろう。

問題が起きてから部下を叱るのではなく。部下にリスクを洞察する力を付けてやるのが、経営幹部の仕事だ。

例えば、冒頭のねじを見つけた時にたまたま異部品の混入を見つけたのは1本だけだったが、他にも短いねじが混入しており、気が付かずにそのまま組み付けてしまった可能性があると考える。そして即座にラインを止めて完成品、半完成品のねじを再チェックする。一瞬でこういう判断と行動が取れれば合格だと思う。判断が遅れてしまうと、不良の可能性がある半完成品が大量に後工程に流出することになる。その結果、ねじの再チェックを実施する決断が鈍る。

自分自身が、判断・決断が出来てもまだ十分ではない。実際に生産に直面している班長がリスクを評価し、判断・決断出来る様に育成しなければならない。

本当の所は、作業員が異常を見つけた時に作業員自身がラインを止めることが出来る様になる事がゴールだ。

こちらの記事もご参考に「答えを教えない教え方」


このコラムは、2017年7月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第536号に掲載した記事に加筆しました。

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京浜東北線脱線再発防止対策

 先週のニュースからに、京浜東北線で発生した工事用車両と回送列車の衝突脱線事故をご紹介した。

同様の事故は

  • 1999年2月、東京・品川のJR山手貨物線でも発生。作業員5人が死亡。
  • 2003年10月、JR京浜東北線の大森─大井町間で、乗客約150人を乗せた電車が、補修工事で線路内に置き忘れられた機材と衝突し、立ち往生した。

このため、保守作業前の線路閉鎖を徹底させるなど点検を厳格にしてきたが再発は防げなかった。典型的な「うっかりミス」による慢性的再発問題だ。再発防止対策が有効ではないため、期間をあけて慢性的に再発することになる。

この事故に対する有効な再発防止対策を検討する事を、先週のメルマガで読者の皆様に提案をした。お考えになっただろうか?残念ながら私に対策をメールして下さった読者様はお一人しか居なかった。

この事故原因を記事から整理してみると、

  • 下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した。
  • JR東日本職員が不在であり、管理監督責任を果たしていなかった。
  • 工事用車両は車輪に非電導ため自動列車制御装置(ATC)が効かない。(ATCシステムは左右の線路を電気的に短絡することにより、車両の位置を750m間隔で確かめることができる)

この条件で、再発防止対策を考えてみよう。

このような問題が発生すると、一番気の毒なのは下請け業者だ。
事故で亡くなるのは下請け業者の社員であり、事故によってその下請け業者は指名業者から外されたり、一定期間出入り禁止となったりする。その結果倒産廃業となる事もあるだろう。
国鉄時代からの風習で下請け業者は、お上には逆らえないと言う体質が受継がれている様に思う。

以前の事故に伴い「点検を厳格にする」と言う対策をとってもJR職員は現場にすら居なかったと報道されている。

「うっかりミス」がきちんと防げないのは、なぜうっかりしてしてしまうのかにメスを入れずに、単純に点検を厳格にするなどとするからだ。うっかり点検を忘れる、と言うミスもあり得るはずだ。

点検で「うっかりミス」を防ぐためには、点検動作をしなければ、次の工程に進まない様にするくらいやらねば有効とは言えない。

本事例には上手く適合出来ないかも知れないが、一世代前のボーイング社の旅客機の扉には「うっかりミス」防止対策がしてあった。(先週乗ったB787にはこの仕掛けがなくなっていた)

航空機の扉は、着陸後開ける時にマニュアルモードにしなければならない。オートモードのまま扉を開けると、脱出用シュートが出てしまうからだ。そして離陸する前に扉を「うっかり」マニュアルモードのまま締めてしまうと非常事態の時に扉を開けても脱出シュートが出ない。
マニュアル・オートの切り替えをうっかり忘れない様に、扉の開閉レバーを操作する時に必ずマニュアル・オート切り替えレバーに付いているピンを抜く動作が必要になっている。こういう仕組みが点検動作による「うっかりミス」防止だ。製造現場では「ポカよけ」と呼んでいる。
ただ点検を厳格にすると言っても有効とは言えない。

しかし本事例の本質的対策は、点検ではない。ATCを有効にすれば良いのだ。トラックを改造した工事用車両だから、左右の車輪間で電気的導通がない、だからATCが効かない。その通りだろう。しかしATCが効かない理由を考えても意味はない。ATCさえ効けば、今あるシステムで衝突回避は出来るはずだ。

トラックのタイヤのままでは、左右の車輪で導通を取るのは難しいだろう。
しかしタイヤは、鉄道用の車輪に変更されている。チョットした工夫で左右の車輪の導通が取れ、ATCのシステムが働くはずだ。

※上海のN様の再発防止対策。
ポイントは「下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した」という部分かなと思いました。

つまり、「うっかり手順を間違えてしまった場合」でも事故が起きないような対策を取る事がポイントです。なぜなら「下請け業者」というのは自社ではないので、場合によって変わる可能性があります。

現下請け業者へ対策を講じても、何かの原因で下請け業者が変わってしまい、仮に今回の事故の教訓が伝わらないようなことがあれば再び事故が起きてしまうからです。

私が注目したのは、「ATC」です。本来ATCはうっかり手順を間違えた時に作動する装置のはずです。それが工事用の車両だけ対象外になっていることが問題だと感じました。

「ガソリンが動力の工事用車両は車輪に電気が通らないため、作動の対象外」
この対象外を対象内にする改良を加える事を義務化すると再発防止に繋がるのではと思いました。

満点をさし上げてよい回答だと思う。
私も(多分)N様もJRの仕事をした事はないので、ピントがずれているかも知れないが、今あるシステムで上手く行く方法を考えるのが良いと思う。
問題が発生するたびに個別に対応する再発防止対策を考えると、再発防止対策だらけとなり、管理しきれなくなる。例外処理を作らない様に再発防止を考えるのが肝要だ。


このコラムは、2014年3月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第352号に掲載した記事に加筆しました。

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京浜東北線脱線、現場の線路閉鎖されず 工事手順ミスか

 JR東によると、線路内での作業は「線路閉鎖」の後で始める手順だった。現場の「閉鎖責任者」の端末から、JRのシステムを経由して運転席に停止信号を送る仕組みだ。閉鎖されれば電車は減速し、現場の手前で止まる。だが京浜東北線の北行きは事故当時、線路閉鎖に向けた確認作業中。乗客がいれば大惨事につながった可能性がある。

京浜東北線の回送電車が横転 川崎で進入の作業車と衝突

 回送電車は横浜市のJR桜木町駅で乗客を降ろし、東京都大田区の蒲田駅に向かっていた。一方、工事用車両(全長5・1メートル、幅2・5メートル、重さ9・5トン)はガソリンを動力に、単体で動く。川崎駅の東側から西側へ、順に東海道線の下り(南向き)と上り(北向き)、京浜東北線の南行きの各線路を閉鎖して横断。同線北行き線路上で、車輪走行の準備をしていた。

 JR東は「本来は工事管理者から、工事用車両の運転手に作業開始の指示があるはずだが、その有無は確認中」としている。

 同様の事故は1999年2月、東京・品川のJR山手貨物線でも起き、回送電車にはねられた作業員5人が死亡。2003年10月にはJR京浜東北線の大森―大井町間で、乗客約150人を乗せた電車が、補修工事で線路内に置き忘れられた機材と衝突し、立ち往生した。このため、保守作業前の線路閉鎖を徹底させるなど点検を厳格にしてきたが再発は防げなかった。

 今回、電車は自動列車制御装置(ATC)も搭載していた。電車間の位置を検知し、後続列車が停止する仕組みだが、ガソリンが動力の工事用車両は車輪に電気が通らないため、作動の対象外という。

 鉄道アナリストの川島令三さんは「現場に業者をチェックするJR東の担当者が不在なのは問題。コスト削減のためか現場を業者任せにする態勢が続いている。業者への指導にも責任がある」と指摘する。

(朝日新聞デジタルより)

 東急東横線の追突事故に引き続きJR東日本でも衝突事故を起こしている。
乗客が乗っていない車両の事故だったのが、不幸中の幸いだった。しかし反対側に脱線していれば、乗客を乗せた列車と衝突した可能性もある。

工事用車両と言うのは、小型トラックを線路を走らせるためにタイヤをレール用の車輪に交換した改造車の事だろう。

日経新聞の記事も合わせ読むと、事故発生の状況は以下の通りだった様だ。

工事用車両の男性運転手(43)が神奈川県警の聴取に「作業時間を間違え、閉鎖される前の線路に車をのせてしまった」と話している。
事故当時、工事管理者(JR職員)らは現場近くで打ち合わせをしていた。
工事管理者らは、JR東日本の調べに「作業開始の指示は出していない」と説明している。

この事故原因を記事から整理してみると、

  • 下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した。
  • JR東日本職員が不在であり、管理監督責任を果たしていなかった。

と言うことになろうか?

国交省は、緊急対策会議を招集している。

さてこのメルマガを読んでおられる読者様は、この事故に対してどのような再発防止対策を取ったら良いとお考えだろうか?
本業と関係なくても、この様な人為ミスに対しどう再発防止を立てるか、思考訓練のために考えてみていただきたい。
お考えになった事故再発防止対策をぜひ教えていただきたい。このメールにご返信いただければ、私に届く。

私の再発防止対策は来週のメルマガで発表する。


このコラムは、2014年3月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第351号に掲載した記事に加筆しました。

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神戸製鋼所データ改ざん

 一年近く前に発覚した神戸製鋼所の検査データ改ざん問題で、検察は企業に対し虚偽表示で起訴、検査責任者の品質部門長は不起訴処分となった。と毎日新聞が7月20日付で報道している。

東京地検特捜部と警視庁による捜索から1カ月余りで起訴するというスピード捜査となった。その背景は、欧米の司法が調査に乗り出そうとしているため、神戸製鋼所が社内データの海外流出を恐れ、早期決着のため地検・警視庁の捜査に全面協力したと毎日新聞は解説している。

昨年10月頃に神戸製鋼所、日産自動車で立て続けに発覚した検査データ捏造・改ざん問題をコラムに書いた。この事件により神戸製鋼所が顧客から信頼を失い、最悪倒産するという私の予測は外れたようだ。

神戸製鋼所データ改ざん問題

ちなみに株価総額は、問題発覚直後に2,900億円を割り込んでいたが、先週末現在3,700億円を超えている。

この事件の深層には「川上産業の傲慢」があるのではないかと感じている。顧客は不正があったとしても、他から調達ができなければ転注はできない。

深々と腰を曲げお詫びしながら、心の中では仕様通り生産するには値上げを顧客に呑ませねば、などと考えているのではなかろうかと邪推してしまう。

我々がこの事例から学べることがあるとすれば、神戸製鋼所を反面教師として

  • 工程能力指数を上げる努力をする。
  • 顧客との仕様取り決めを真摯に行う。

チェック機能として、受注判定会議の議事内容に「仕様の妥当性確認」を追加。ということになるだろうか。
(以上の検討は、事実関係に基づいたものではなく私個人の私見です)


このコラムは、2018年7月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第697号に掲載した記事に加筆しました。

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工程飛ばしの予防

 今週のメルマガ・第61号「中国華南地区の景気」で,人手による持ち回りバッチ処理の「工程順間違い」「工程飛ばし」を予防する方法を募集した.

例えば
ある製品はA工程→B工程→C工程の順に生産するが,
別の製品はA工程→D工程→C工程の順に生産する.

このような場合にどうすれば間違いなく工程順が守られ,工程を飛ばすことなく生産できるだろうか?

今回の制約は,

  • 工場の中は機械化が進んでおらずバッチ単位で人間が持ち回り生産する.
  • 設備は簡単には移動できない.

という条件にしよう.

意外にもこのような作業でミスをするのはベテランの方が多かったりする.作業に慣れてしまい,注意力が散漫になる事があるのだろう.新人の方がミスをしまいと工程ごとに確かめながら作業をするものだ.

※以下私のアイディア

  • まず各設備がどの工程かを一目で分かるようにしておく.
    天井から「A工程」「B工程」と書いた大きな看板をぶら下げておけばいいだろう.
  • 次にロットごとに生産流動カードを用意する.
    このカードには,その製品を生産する工程順,作業条件などを記入しておく.
    作業が終わるごとに作業者の確認のサインを入れる.
    更に設備の横にはんこをぶら下げておき,これもカードに押す.
    言ってみればスタンプラリーのようにするわけだ.
    生産流動カードがラリーの道順を示す地図であり,チェックポイント(工程)ごとにスタンプを集めるような形で作業をする.
  • またこの生産カードは製品ごとの標準作業手順(SOP)の役割を果たす.同時に生産記録にもなる.

このような形式の生産をしている現場では,設備ごとに操作方法を指示する文書(MOI)はきちんと完備しているが,製品がどのように流動していくかを作業手順書の形で準備しているところは少ない.
工程ごとに作業手順書を掲示すると,機種の数だけ手順書を掲示しなければならず,多くの手順書の中から該当する物を探さなければならなくなる.

殆どの現場ではQCフローチャートでこれを代用していると思うが,作業員はQCフローチャートを見ながら作業はしない.従ってこのような生産流動カードが作業手順書の役割を果たすことになる.

SOP:Standard Operation Procedure
MOI:Manufacuturing Operation Instruction

いただいたご意見をご紹介しよう.

※S様のアイディア

メッキ工程を色分けし、作業手順書で色を指定する。
ポカよけは、どうすればよいのか?
この部分は、作業者のスキルにならないように、チェックシートを記載させる。
・・・とか

色分けによる識別の徹底を考えられたアイディアだと思う.
色だけでは表現できない場合もあるので,番号を併用すると良いだろう.
例えば前処理槽は黄色,処理の内容ごとに1,2,…と番号をつける
メッキ処理層は,赤1,赤2,…という具合だ.


※O様のアイディア

門外漢ですが考えました。バッチを入れて運ぶケースと対応した設備双方に、共通した色を着けてわかり易くサイン化する方法です。それぞれの色が対応していなければそのバッチは工程間違いというわけです。
また人の目は自然と色を追っていくので工程飛ばしも発生しにくくなるのではないかと思います。ただ製品の種類が多くなっていくと当然設備に付いたサインの色数も多くなるわけですが。。。
どうでしょうか?それではまた。いつも楽しみにしています。

こちらも色による識別のアイディア.
トレーと設備の色を合わせるというのは分かりやすい.
難点は,機種が増えてしまうと,使える色が足りなくなってしまうことだろうか.



今回は出題の仕方が悪かったようだ.
例としてあげたのが3工程しかないため,一つの製品を完成させるときに10工程以上もあるような場合の考慮が抜けてしまったように思う.


このコラムは、2008年11月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第62号に掲載した記事に加筆修正しました。

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異部品混入

自動車要部品は左右対称になった異部品が多数存在する。自動車のデザインが左右対称になっているのでそうならざるを得ないだろう。例えばドアミラー、ドアハンドル、ヘッドライト、方向指示灯など同じ形だが左右対象形になっている部品が多い。

この様な部品を生産する工場は、左右同数を同時期に生産し、同時に出荷する必要がある。形状が似ているため、左右製品の誤出荷や混入出荷の不適合が発生しやすいと思われる。

左右類似製品の誤出荷、混入原因をどのように防止しするかを検討してみたい。
検査で見つけるのは、上策ではない。製造方法で混入防止を保証する方がより良い。
全く別のラインで生産する、と言うアイディアもあるだろう。樹脂部品の場合一つの金型で左右を同時に成型してしまった方が効率が良さそうだ。その後の組み立て、検査工程も同時に進めてしまえば、無用の中間在庫を持たなくて済む。

つまり、左右の製品を同時にラインに流しても左右製品の混入や取り違いが無い様にするにはどうしたら良いか?と言う課題だ。

ちょっと頭の体操をしていただきたい。
私が考えたアイディアは編集後記でご紹介する。


【編集後記】



左右対称製品の、取り違い、混入防止対策を考えていただけたでしょうか?

私が考えたアイディアをご紹介します。
工程内の組み立て治具、検査治具を左右それぞれ専用にする。左側製品は左側治具にしかセット出来ない様にする。出荷トレーを左右それぞれ専用にする。これで左側製品に右側用の部品を組み付けたり、左右取り違えて出荷する事を防げるはずです。

ちょっと簡単すぎましたか?


このコラムは、2017年8月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第544号に掲載した記事に加筆修正しました。

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東大でシンドラー製エレベーター事故 学生1人けが

 国土交通省によると、千葉県柏市の東大柏キャンパスの総合研究棟(地下1階地上6階建て)で11日午後、シンドラーエレベータ社製のエレベーター(定員19人)が扉が開いたまま、1階から地下1階方向に下降した。かごを脱出しようとした男子学生1人がひざを打撲して軽いけがをした。同省が16日発表した。

 同省の調べでは、1階から18人が乗り込んで上昇するはずだったが、いきなり下降を始めた。あわてた学生が1階フロア側に脱出しようとした際、かごが下がって生じた段差に足を引っかけ、けがをしたとみられる。事故機は保守点検もシンドラー社が請け負っていたが、原因は不明という。同省はシンドラー社に対し、同型のエレベーターでブレーキに異常がないか点検するよう指示した。

(asahi.comより)

 Wikipediaによると,シンドラー社のエレベータは,扉が開いたまま上昇または下降,乗客の閉じ込めなどの事故が多いようだ.大阪府の西成警察署では,署内に2基あるエレベータのうち1基が,無人のまま最上階の7階まで上昇し,天井に衝突して停止すると言う事故が起きている.

国土交通省はブレーキの異常を点検するように指示をしているが,2007年に東京都港区が実施したシンドラー社エレベーターの電磁ノイズ耐性調査によると,電磁ノイズ耐性が低いことが分かっている.

今回の事故も,制御回路がノイズにより誤動作したのではないだろうか.
エレベータの構造を考えると,携帯電話から発する高周波電磁ノイズよりは,エレベータ自身に内蔵している,リレーやソレノイドから発生するバーストノイズ(低周波電磁ノイズ)の方が,影響を与えやすいと思われる.

このようなノイズによる誤動作は,電機・電子製品業界では既に30年ほど前にメカニズムを解明し,対策も確立したと考えていた.このメーカでは,これらの技術がエンジニアの世代を超えて伝承できなかったのではないだろうか.

ノイズ対策技術などは,世間から注目を浴びるものではない.ノイズによる誤動作を止めたとしても,それで当たり前のレベルになるだけだ.このようなあまり報われない技術がきちんと社内に蓄積され,世代を超えて
伝承されなければ,10年,20年のスパンで同じような不具合が繰り返し発生することになる.


このコラムは、2010年8月に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第180号に掲載した記事を修正加筆したものです。

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車両火災

 小田急小田原線の代々木八幡ー参宮橋間で9月10日に発生した車両火災事故に関して考えてみたい。経緯をまとめると以下の様になる。

  • 沿線のボクシングジムで火災発生。16時6分119番通報。
  • 消防士の要請により現場にいた警察官が踏切緊急停止ボタンを押す。16時11分。
  • 火災現場前に停止した車両の屋根に延焼。
  • 消防士の指示で列車が移動(ただし後部車両は火災現場前に残る)。16時19分。
  • 乗客の避難完了。16時42分。

幸いけが人はなかった様だが、過去には桜木町事故(1951年)、北陸トンネル事故(1972年)で車両火災事故があり多くの死傷者を出している。

桜木町事故は、車両扉の非常時開閉コックが乗客が操作しない事を前提に設計されており多くの人が車両外に避難出来ずに死亡した。この事故以降、非常開閉コックは乗客が操作する事を前提にし、改善された。

北陸トンネル事故は、火災発生時にトンネル内で停車したため消火活動、避難が困難となり多くの人が亡くなった。運転手は火災発生時には停車する様に運転マニュアルに定められていた。この事故以降、トンネル内、橋梁上で車両火災発生時には、速やかにトンネル、橋梁を抜けた後に停止する様マニュアル改訂が行われている。

今回の事故の最初の誤りは、踏切の非常停止ボタンを押してしまった事に有る、と言えそうだ。警察官は非常停止ボタンを押した場合、列車は自動停止する事を知らなかったのであろう。火災現場で停止すれば、列車に延焼する事は容易に推測出来る。

運転手は非常停止し前方の踏切を確認に行っている。この時、後部車両から火が出ているのを発見。消防士の指示で車両を移動。ただし後部車両は已然火災現場前にあった。消防士は列車の長さを把握せずに停車位置を指定したのだろう。この時に最後部にいた車掌は何をしていたのだろうか?火災現場が前方に見えており、車両に延焼した事も知れる位置にいたと思われる。

これだけの情報で何かを判断するのは無理だが、あえて私見を述べるならば、乗客の安全責任を持っている運転手、車掌の判断が何も入っていない事に問題が有ったと考える。警察、消防など非専門家の指示を鵜呑みにしてしまった。

運転手も車掌も規定通りの仕事をした様だが、「現場の判断」に基づいた仕事が出来なかった。マニュアルや規定は万全ではない。インシデントに直面している現場の裁量で判断しなければならない事もあるはずだ。

当然運転手も車掌も、その技能を認定され職位についているはずだ。
異常時の判断能力もその技能に含まれるべきだと考える。

例えば製造業では、作業訓練時に「正常作業」ばかりでなく「異常作業」も訓練すべきだ。例えば、ミリねじとインチねじを取り違えた時の作業感、ねじを斜行して締めてしまった場合の作業感を、体験訓練する事により異常に気が付く感性を養えるはずだ。

当然ミリねじとインチねじが混入している事が問題であり、混入防止対策が必要だ。しかし完全に防止する事が出来ないのであれば、作業者の気付きが最後の砦となる。

今回の車両火災事故も同様だ。
鉄道路線沿線の建築基準を変更すれば、事故は発生しなくなるかも知れない。しかし現実的ではないだろう。運転手、車掌に対して異常時対応訓練をする事で能力を上げる事が出来るだろう。当然マニュアルで規定された事を確認する訓練では不足だ。どのような潜在問題があるか、議論する所から訓練を始める。
この様な訓練を継続、蓄積する事により訓練内容は深化するだろう。

KYT(危険予知訓練)もこのような手順で進めれば、予測したインシデント以外にも潜在インシデントを蓄積する事が出来よう。


このコラムは、2017年9月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第568号に掲載した記事です。

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火災事故の本質

 先週先々週と思わぬ原因による、火災もしくは爆発事故についてコラムを書いた。

粉塵爆発
うどん屋火災

S様からこんなご感想をいただいた。

※S様のコメント

「火種がなければ火災は起きない」との思い込みがもたらした事故にも見えます。
「失敗」は水平展開することで「学び」になるのだと思いました。
「失敗に学んだのか」。社内でもよく聞く言葉ですが、「問題の本質は何か」まで掘り下げていかないと再発してしまうことを時々感じます。

コメントいただいた通り「本質」が重要だと思う。

火災事故の「本質」は
・酸素の存在
・可燃物の存在
・可燃物の発火温度以上の熱源(火種)
以上の3点が同じ場所、同じタイミングで揃うことだ。

そして酸素が十分に供給され続ければ、爆発事故になる。

「油の酸化熱」が火種となり、うどん屋火災事故が発生している。

1996年山梨厚生病院で発生した事故は、高気圧酸素治療装置内に使い捨てカイロを持ち込み爆発事故を起こした。
使い捨てカイロの発熱は鉄の酸化熱だ。高気圧酸素が満たされた治療装置内で酸化熱が火種となりアクリルの下着が、高気圧酸素下で爆発的に燃焼した事故だ。この事故の「本質」を社会が共有していれば、うどん屋の火災は発生していないはずだ。

1969年の飛行船ヒンデンブルク号爆発事故は静電気放電が火種となった。
水素を充填した飛行船はもはや見かけないが、静電気による事故は未だにある。

世の中の事故はほとんどが既知の原因による再発事故だ。

個別の事故原因・不良原因ではなく、事故の本質・不良の本質に目を向け対策をしなければならない。


このコラムは、2018年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第646号に掲載した記事です。

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続・未知の災害

 先週のメルマガで未知の災害であっても、他社、他業種、他業界から学ぶべきことがあり、未然防止が可能であると言う趣旨のコラムを書いた。その事例として、米国は9.11同時多発テロを紹介した。その後9.11同時多発テロに関する情報を見つけたので、今週は続編としてお伝えしたい。

米政府の原子力規制委員会(NRC)は同時多発テロの翌年2002年2月に「原子力施設に対する攻撃の可能性」に備えた特別の対策(通称B5b)を各原発に義務づけている。

  • 電源喪失
    交流電源と直流電源両方を同時に喪失する事態を想定。中央制御室を含むコントロール建屋の全滅も想定。
  • 原子炉内部の減圧
    持ち運び可能な直流電源で「逃し安全弁」を現場で開け閉めする方法の準備を義務づけている。
    バッテリーを運ぶ台車や、交流電源を直流に変換する整流器の準備も促す。
  • 原子炉の冷却
    直流電源や交流電源がない状態でも、IC(非常用復水器)やRCIC(原子炉隔離時冷却系)を手動で起動・運転する方法の文書化を義務づけている。
  • 格納容器ベント(排気)
    ベント弁を手動で開けるための準備を義務づけ。空気駆動の弁を開けるのに必要な物資は被災を避けるため少なくとも100yd(91m)離れた場所に保管するよう明記。

B5bが2002年に日本の原発にも適用されていれば、2011年の福島原発メルトダウンは防げただろう。

福島原発では、

  • 電源喪失
    交流電源の喪失しか想定していなかった。実際には交流・直流電源共に津波で水没した。
  • 原子炉内部の減圧
    「逃し安全弁」を開けるのに手間取り、炉内に水を注入するのが遅れた。
  • 原子炉の冷却
    電源喪失により監視盤が使えず、1号機のIC、2号機のRCICの作動状況を見誤り、対応を誤った疑いがある。
  • 格納容器ベント(排気)
    ベント弁を開ける準備がなく、格納容器内部のガスを外に放出して減圧するのが遅れた。

B5bには事細かく非常時に対する準備や手順の策定を規定している。
「テロ」と「自然災害」を置き換えて考えれば、B5bを導入出来たはずだ。


このコラムは、2018年4月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第658号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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