5Sの騎士」カテゴリーアーカイブ

#03:侮れない主婦向け雑誌

5Sの騎士ドン・キホーテの如く
整頓とは,決まったモノを,決まった位置に,決まった数だけ,名前を表示して置くこと.整頓により,ムダをなくすことが出来る.

整頓の目的は,定品,定位置,定量を徹底することにより,モノを探す無駄をなくすことだ.
人はモノを探すのに,一年間で平均百五十時間以上費やしているそうだ.一ヶ月分の労働時間とほぼ同じ時間を,無駄にしている.
例えば書類に判子を押す仕事を考えて欲しい.まず判子を探す.朱肉を探す.判子を朱肉につけて,紙の上に押し付ける.仕事として価値を生んでいるのは,紙の上に判子を押し付けた瞬間だけだ.
判子と朱肉を探す時間はまったく無駄.判子に朱肉を付け紙の上まで持ってくる時間,判子と朱肉を片付ける時間は,必要だが付加価値を生んでいない作業だ.
この無駄な時間をなくし,付加価値のない作業を減らすのが整頓の目的である.
私たちは子供の頃から一日に一度は「片付けなさい」と誰かに言われ続けてきた.
この片付けが,整理・整頓である.整理・整頓を一まとめにするのは5S的理由がある.
まず要らないモノを整理しなければ,整頓が出来ないからだ.不要なモノを捨てずに整頓をしようとするから,モノをあちらやこちらに動かすだけで,一向に片付かないことになる.

侮れない主婦の知恵
主婦向けの雑誌に,収納の三大ルールが書いてあった.
「面や直線を作る」我々は生産現場で,直角・平行といっている.ピシッと面や線が揃っていると,見栄えが良いばかりではなく,物を置くスペースが節約できる.
「色や素材を揃える」何がどこにおいてあるか一目で分かる様にすること.見える化である.
「枠を作る」物を置く定位置を決める.物がいつも同じ場所にあることを保証すれば,物を探す時間を減らすことが出来る.
片付けノウハウは,この様に書いてある.「散らかるのは元に戻せないから.使うときの手間よりしまう時の手間を省く」この指摘は,工具を収納して置く場所を決め,工具の形を縁取りし,夫々がどこに吊るされているか明確にしておいても,工具がどこかに消え去っているという,問題とその対策を見事に示唆している.
つまりどこに戻せばよいか明確にしておいても,戻す手間を省かないから整頓が出来ないのだ.

整頓は収納にあらず
しかし,収納ノウハウで収納効率を上げたところで,それは整頓にはならない.先ほどあげた収納三大ルールに「定量」が入っていないのが原因だ.
つまり整頓はたくさんモノを収めておく事ではない.適量のモノで運用できるようにするのが,整頓のもうひとつの目的だ.例えば副資材や刃具など消耗品の,最大在庫量,最小在庫量を決め,欠品や過剰在庫をなくすのが整頓の目的である.言い換えると在庫の見える化だ.
収納効率を上げることは,この目的には貢献しない.綺麗に収納することにより,人の目に触れなくなってしまえば,逆効果だ.

【今月の一言】
整頓とは見える化なり.

こちらもご参考に。
5S実践研修

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2011年9月号に寄稿したコラムです.

#02:トイレを捨てた男の話

5Sの騎士ドン・キホーテの如く
整理とは,必要なモノと不要なモノを区別し,不要なモノを捨てること.
5Sのスタートは捨てることだ.

私の友人は中国で会社を経営している.彼は,中国人従業員がオフィスのトイレを清潔に保てないのに業を煮やしていた.そしてついに,オフィスのトイレを捨てると言う快挙(暴挙?)に出た.オフィスのトイレを撤去し,廊下の先にある共用トイレを使うことにしたのだ.
是非はあるが,究極の「整理」と言ってもよいだろう.必要なモノ,不要なモノを区別する際に「聖域」を作らない.トイレといえど整理の対象になりうる.
顧客資産の金型でさえ,整理の対象だ.何年も使わない金型が,倉庫に鎮座しており,作業安全性までも脅かしかねない状況となっている.顧客の資産だから捨てられないと言う「理由」は理解できる.しかし捨てる「方法」を考えてこそ,改善があるというものだ.

書架の扉は捨てる
新しいオフィスに引っ越す際に,書架を新調した.ガラスの引き戸付きの書架を購入した.しかしガラス引き戸は,使い始めて3日目に捨てた.書類ファイルを取り出すたびに引き戸を開け閉めしなければならない.左右の引き戸が重なる棚の中央にあるファイルが取り出しにくい.引き戸が邪魔をしている.引き戸を捨てることによって,ファイルのアクセスは効率が良くなった.
要らない物を捨てれば,空間が捻出できる.不要物を保管するという,付加価値を生まない空間を,付加価値を生む生産空間に変えられる.
活用しない記録用紙を捨てることで,無駄な記録作業も捨てることが出来る.
要らない物を捨ててすっきりするだけではなく,効率向上,安全確保,品質確保など,整理には多くの効能がある.

在庫は問題を隠す悪
倉庫に在庫があれば,お客様の需要に即納できる.お客様にとっては都合が良いが,生産者にとって良いことはひとつもない.在庫金額の金利負担が増える.更に悪いことは,生産リードタイムに問題があることが表に出なくなる.問題として認識されなければ,改善はありえない.
中間在庫も同様だ.工程に問題が発生していても,中間在庫により生産は継続できる.現場は残業をして,つじつまを合わせる.しかし残業代の分だけコストアップしているはずだ.最悪なのは,工程で発生した問題を改善するチャンスを失うことだ.
製品在庫,中間在庫は不要な物とは言い切れない.しかし,今必要な物ではない.今不要な物も,整理の対象だ.
ある工場で,完成品在庫の30%削減を目標に改善活動をした.元々の活動内容は,余分な生産投入をしないように業務担当に教育をし,生産投入の基準を作る,ERPの導入,となっていた.問題の本質を解析していないので,この様な対策になる.本質対策により在庫は,1/3に低減できるだろう.本質的改善をしないままERPを導入しても効果はない.

【今月の一言】
捨てるカミあれば,拾う改善あり.

こちらもご参考に。
5S実践研修

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2011年8月号に寄稿したコラムです.

#01:あなたの5S,そこが間違い!

5Sの騎士ドン・キホーテの如く
5Sは品質,コスト,納期,安全,士気,環境,全ての基本.
正しい5Sの推進は,経営課題だ.

5Sは,日本語の整理・整頓・清掃・清潔・躾の五つがローマ字表記すると,Sで始まることに由来している.日本では製造業を中心に,サービス業でも取り組んでいる企業が多い.
中国の工業団地では,工場に5Sの標語を掲示してあるのをしばしば見かける.日系企業ばかりでなく,中華系企業も5Sを取り入れている.
5Sの他に,セーフティ,スピード,スマイル,サービス,サティスファイ(満足),作法,節約,習慣,始末,しっかり,しつこく,などを追加している企業もある.
近所の食堂に,Sが付くスローガンが10個も貼り出してあった.しかしSの数が多い方が良い,というわけではないようだ.この食堂は,今はない.残念ながらつぶれてしまった.Sの数より,経営者のホンキ度が重要だ.

5Sの間違い
あなたは部下に「明日お客様がいらっしゃるから5Sをしっかりするように」と指示していないだろうか?
お客様がいらっしゃるから,油だらけの床をきれいにし,ワックスをかける.工程内にある中間在庫は,倉庫に片付ける.倉庫内にある不動在庫は,外に借りた倉庫に隠しておく.そんなことをしていないだろうか?
5Sはお客様のためにやるものではない.5Sの目的は,品質,コスト,納期,安全.士気,環境を改善し,儲かるようにすることだ.
きちんと整理・整頓されたオフィス,ぴかぴかに清掃した生産現場.大変気持ちが良いが,5Sは見栄えを良くする活動ではない.その活動の一つ一つが,利益につながらなければならない.

5Sは経営判断
あなたは「ウチの連中は5Sを継続できない」と嘆いていないだろうか?
5Sを継続させるのは,部下の仕事ではない.継続のための仕組みと仕掛けを作り,部下に躾をする.これは経営者の仕事だ.
整理・整頓・清掃・清潔をまとめて4S運動ということがある.つまり従業員に職場の整理・整頓・清潔・清掃の重要さを認識させ,これらを徹底させる啓発活動を4S運動という.これにより職場をより快適かつより安全なものにする.従ってこの4S運動は従業員が主体となる活動だ.
5Sを4S運動+躾と理解することに,勘違いの根源があると考えている.5Sにも啓発効果,職場環境維持効果はある.しかしこれが目的ではない.5Sは経営効率を上げ,業績に貢献するための具体的手法である.経営者が自ら判断し,行動をしなければならない活動である.
例えば,整理は,要るモノと要らないモノを区別して,要らないモノを捨てること,と定義されている.完成品倉庫にある,売れるかどうか分からない製品を捨てるのも,たくさん買ってしまった部材の処分も,従業員が出来る仕事ではない.経営トップがすべき経営判断だ.

【今月の一言】
社長!5Sはあなたの仕事です!

こちらもご参考に。
5S実践研修

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2011年7月号に寄稿したコラムです.