月別アーカイブ: 2018年7月

賢なるかな回也

子曰:“贤哉回也,一箪食,一瓢饮,在陋巷,人不堪其忧,回也不改其乐。贤哉回也。”

《论语》雍也第六-十一

huíは孔子の弟子・yánhuíの事。颜渊yányuānとも呼ばれる。
dān:竹でできた飯を盛る器
piko:柄杓
陋巷lòuxiàng:路地裏のあばら家、顔回の住まい。

素読文:
子曰く、けんなるかなかいや。一箪いったん一瓢いっぴょういん陋巷ろうこうり。人はれいにたえず。回や其のたのしみをあらためず。賢なるかな回や。

解釈:
顔回はなんという賢者だろう。一膳の飯を食べ、一杯の水を飲むだけ。あばら家に住まいしておれば、たいていの者は堪えられないだろう。顔回は学問を究める楽しみを変えない。顔回はなんという賢者だろう。

子貢が顔淵は一を聞いて十を知る才人ですと褒めたとご紹介しました。
一を聞いて十を知る

師匠である孔子も顔淵にはかなわないと言っています。
今週ご紹介するのは、その孔子が顔淵を褒めて言った言葉です。
貧しい暮らしを一向に苦にする様子もなく、研鑽を積む姿は求道者と言っても良さそうです。孔子は顔淵のそういう学問を究める姿勢を愛していたのでしょう。

続々・モチベーション向上

 このところモチベーション向上に関するテーマが続いているが、ご容赦いただきたい。
「モチベション向上」
「続・モチベーション向上」

モチベーションと聞いてすぐに思い出すのが、ダニエル・ピンクの著作だ。

「モチベーション3.0」ダニエル・ピンク著

モチベーション3.0と言う言い方と、ダニエル・ピンクと言う著者名に興味をそそられた(笑)

モチベーション1.0:生存本能に基づく動機付け
モチベーション2.0:報酬と罰による動機付け
モチベーション3.0:創造性を引き出す動機付け

モチベーション1.0が一番強い動機付けだろう。例えば火災などの災害時に、年寄りが家財道具を運び出す力を発揮する、いわゆる「火事場の馬鹿力」を発揮する動機付けだ。残念ながら、モチベーション1.0で仕事に対する動機付けを高めるのは難しいだろう。

モチベーション2.0が今中国工場の使われている動機付け手法の本流だろう。
生産高に合わせて報酬を出す。不良を出したり、規律を乱す行為には罰金を課す。
つまり
「好ましい行動」に対し褒賞を与え、その行動を強化する。
「好ましくない行動「に対して罰を与え、その行動を抑制する。
と言う考え方だ。

経済成長期はこの手法が生産のモチベーション向上に有効だった。
需要に対し供給能力が小さいので、生産すればいくらでも売れる。日系企業でもいまだに多くがモチベーション2.0スタイルの管理をしている。

しかし経済成長が飽和している環境でのモノ造りでモチベーション2.0が有効とは考えにくい。受注量が減少すれば、生産高でモチベーションを与え続けることは出来なくなる。本来受注生産だったのを、計画生産に切り替え従業員の収入を確保する。こんな馬鹿な経営はないだろう。早晩工場の中には在庫品が堆積し、資金繰りに苦しむことになる。企業が倒産してしまえば、従業員の雇用を守ることすら出来なくなる。

生産改善も、量の改善から質の改善に変わって行かねば生き残れない。
しかしモチベーション2.0で動機付けられている作業員は、収入減につながる可能性がある改善に協力するはずもない。

自己成長に対する喜び、達成感。同僚、会社、顧客、社会に対する貢献による自己充実感。こういう要素によるモチベーション3.0による動機付けが重要だと考えている。


このコラムは、2016年3月21に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第468号に掲載した記事に加筆しました。

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続・モチベーション向上

 先週のメールマガジンでご報告した様に、先週末の東莞和僑会で講演をした。
「モチベーション向上」

東莞和僑会の公演でモチベーションの向上について話をさせていただいた。
正直に言うと、前職時代は技術、品質保証の仕事をしており、人事に関する事にはほとんど興味がなかった。自分で考えなくても、人事部門が色々な施策を下ろしてくれる。私は自分の部署で、その施策をどう運用すれば良いかを考えるだけで良かった。

しかし独立以来、経営の師匠として尊敬している原田師から「全てのことは人の心から始まる」と教えを受け、自分の不明を恥じた。その後中国で実際に組織経営されている経営者の方々との勉強会を開催させていただき、モチベーションをいかに向上させるかと言うテーマで多くの学びを得た。そんな内容を参加者の皆さんに提示し、では私たちは何をなすべきかと言うテーマで話し合った。

そして月曜日からどんなことを実際にするか、皆さんから決意表明を聞く事が出来た。皆さんの話を聞いて、私は自分自身のモチベーションが上がった(笑)

実はこの講演のやり方そのものが、会議を通してメンバーのモチベーションを高める方法の提案だった。初めて試した方法だったので、うまく出来なかった所も有るが、自分なりにそこそこ納得がいく結果だった。

翌日曜日は、深セン和僑会に参加し香港日本料理協会の吉田会長の講演会に参加した。飲食業会については全く見識がないが、製造業との共通の問題がある事に気がついた。香港の飲食業会では、ホールスタッフの仕事は立ち仕事、長時間の拘束、低賃金などの理由により若者の人気がなく離職率が高いそうだ。
製造業でも作業員の定着率が低いと悩んでいる方も多い。そのような職員にどのような方法で、モチベーションを上げているのか質問してみた。

吉田会長が経営する日本食レストランでは、休憩時間の延長、チップの個人受け取り、ボーナス、日本への研修旅行でモチベーションが上がる様に工夫しておられる。大変興味が有り、労働条件の改善、金銭的報酬、研修旅行のどれが一番効果が上がりますかと更に質問した。想像通り、研修旅行が一番効果が高かったそうだ。研修旅行は、年に一回店長の推薦が有ると、行く事ができる。研修旅行に参加出来た従業員は日本式サービスを学びモチベーションを上げるそうだ。参加出来なかった従業員も、次は自分が行こうと更に頑張る。

まさにハーズバーグの衛生理論だ。労働条件や金銭(衛生要因)よりは、上司の評価や自己成長機会(動機付け要因)の方が高いと言う事だ。


このコラムは、2016年3月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第467号に掲載した記事に加筆しました。

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モチベーション向上

 今週末の東莞和僑会で講演をすることになった。
東莞和僑会の会長になって以来、裏方として活動して来た。そのため自分自身で講演をしない様にしていた。ボランティアで東莞和僑会の活動を支えいるメンバーが講師を担当し、一巡した。順番で私にも講師の当番が回って来てしまった(笑)

モチベーションの向上について話してほしいと言うリクエストを貰っている。
独立以来、リーダや作業者のモチベーションをいかに上げるか?という課題を考え続けている。毎月定例で開催していた「人財育成勉強会」では、経営者・経営幹部の方々と従業員のモチベーション向上について語り合って来た。

そんな経緯も有り、モチベーション向上と言うお題をいただいたのだろう。

以前このメルマガでモチベーションが高い組織はチームであり、テンションが高い組織はグループだと言うコラムを書かせていただいた。

「チームとグループ」

ではモチベーションとテンションの違いはどこに有るのだろうか?

私は、次の様な例でモチベーションとテンションの違いを理解している。

明日の遠足が楽しくて眠れなくなっている小学生。
共通の趣味を持つ仲間が酒を飲みながら盛り上がっている。
朝礼で大きな声で社訓を唱和している。
こういう状態はテンションが高い状態。

このパットを沈めると優勝と言う状況で静かに集中力を高めているゴルファー。
課題達成のために、上司・同僚と激論している。
経営理念を達成するために貢献意欲を高めている。
こういう状態はモチベーションが高い状態。

テンション:今得られている喜び、もしくは近い将来確実に得られると期待出来る喜びに対して生まれる感情の盛り上がり。

モチベーション:努力すれば得られると期待出来る貢献や成果に対する意欲の盛り上がり。

こういう線引きでいかがだろうか?


このコラムは、2016年3月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第466号に掲載した記事に加筆しました。

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改善「N理論」

 今週のテーマ「運用力』でご紹介した様に、出来高制の給与体系を採用している企業では、作業員が改善に抵抗を示し、監督職が改善に消極的な例を良く見る。

このような状況で、「N理論」を紹介している。N理論は、工場経営の師匠原田則夫師から教わった。

一般的に、生産性は一定のレベルに斬近する曲線で向上する。すなわち技能の習熟とともに一定のレベルまで生産性は上昇するが、斬近点に到達すると上昇しなくなる。更に上昇させる為には、何らかの改善が必要である。

生産量で自分の給与が決まってしまう出来高制で仕事をしている作業員には、改善により生産量が減少してしまうのを恐れる。そのため今まで通りの作業のやり方に固執する。

今週ご紹介した工場でも、作業効率を上げる為に溶接の工具を変更した。
高価な工具を導入する訳だから、当然作業効率(生産量)の向上を見込んでの投資だ。ところが今までと違う工具を使用する事に作業員が躊躇する。新しい工具を使い始めても、慣れないうちは生産量が低下する。作業員達は工具が大きすぎる、重たいなど使わない理由を並べ立てる。実際に新工具は大きく重い。しかし上から吊るしてあり、作業者に負担が無いようにしてある。

それでも作業者の不安は払拭されない。監督職達は無理矢理新工具を使わせて作業効率の良さを実感させ、納得させた。

従来の工具を使っていても、斬近点に近づけばそれ以上の改善は見込めない。新工具によって、慣れるまで一時的に生産性が落ちても、慣れれば生産性の斬近点は上昇する。

この時の生産性の一時的な下降が「N」の字の真ん中の右下がりの部分だ。左端の右肩上がりは、従来方法の習熟による上昇。改善によって一時的に生産性が下降しても結果的に「N」の字の右端の右肩上がりの上昇カーブに乗る、と言うのが「N理論」だ。

この時Nの右端の線を思いっきり長く書く(笑)
改善をしなければ、すぐに斬近点に到達する。しかし改善をすれば斬近点は更に上に行くと説明する。こう説明しておく事で、作業者の不安を取り除く。

全ての改善は、作業者に負担を強いるものであってはならない。何も改善せず生産量だけ上げれば、作業者の負担は増加する。ただ「頑張れ!」と言うのと等しい。作業を楽にする。その結果生産性が上がり、作業員の給与も上がる。これを説明するのが「N理論」だ。


このコラムは、2016年5月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第478号に掲載した記事に加筆しました。

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運用力

 先週はトヨタの中国合弁企業で働いた経験を持つ幹部がいる民営企業で現場指導をしていた。生産現場のレイアウト、生産設備、製品の流し方など随所にさすがと思わせるモノがあった。同業種の中国工場を4社指導した事があるが、4社の中ではダントツのよい工場だ。

しかし現実は、生産投入の仕方、部材の配置など改善の余地が多くある。
生産現場のレイアウト、生産設備、製品の流し方などハード的な改善は簡単に真似をする事が出来る。目で見えるからだ。

一方生産投入の仕方、部材の配置など運用のソフト面は、真似しにくいのかも知れない。
見かけの効率だけ追求し同一部品を大量加工をすれば、生産リードタイムが長くなる。万が一加工不良が混入していれば、後工程のロスや手戻りのロスが発生する。しかも当該工程の改善は間に合わない。
大量に加工した部材の置き場所を確保しなければならず、生産現場のスペースを圧迫する。そのため必要な部材を探すロスや運搬のロスが発生する。

見かけの生産性を追求する最大の要因は、作業員の給与制度にある。生産量に比例する出来高制となっている為に、作業員は改善に不安を感じる。直接作業者を指導している監督職も改善に消極的となる。

この工場の最重要課題は、経営者から作業員まで全ての人の心を変える事だ。
各工程が部分最適、もっと言えば自分の給料最大化と言う個人最適に陥っているのを、全体最適に変えなければならない。全体最適が出来れば、企業の利益が増え、結果的に従業員の収入増につながるはずだ。
経営者から現場作業者まで、このロジックを理解させ、改善に対する勇気を鼓舞する事が、私たちコンサルチームがまず取り組むべき解決課題だと考えている。


このコラムは、2016年5月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第478号に掲載した記事です。

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一を聞いて十を知る

子谓子贡曰:“女与也孰愈?”对曰:“赐也何敢望回?回也问一以知十,赐也问一知二。”子曰:“弗如也!吾与女弗如也。”

《论语》公冶长5.9

は汝の意味。
huíは孔子の弟子・yánhuíの事。
は子贡の本名(姓・端木、名・賜)から

素読文:
子、こういてわく、なんじかいいずれかまされる。こたえて曰わく、や、何ぞあえて回を望まん。回や一を聞きてもって十を知る。賜や一を聞きて以て二を知る。子曰わく、かざるなり。われと女と如かざるなり。

解釈:
孔子が子貢しこうに尋ねました、
「お前と顔回がんかいとどちらが優れているか?」
子貢は、
「私など彼にとても及びません。彼は一を聞いて十を知る事が出来ますが、私は一を聞いて二を知るくらいがせいぜいです。」
と答え、孔子は、
「そのとおり、私もとても顔回には及ばない。私たちはとても彼には及ばないのだ。」
とおっしゃった。

「一を聞いて十を知る」聡明な人を称してこう言います。日本原来の言葉と思っていましたが、原典は論語です。

孔子一番の弟子・顔回(字名は子淵、別名顔淵)は、どちらかというと清貧にして学研の徒という感じです。顔回の求道の姿勢を孔子は高く評価していた様です。しかし孔子より先に夭折してしまう。
孔子は『顏淵死。子曰。噫。天喪予。天喪予。』(先進11.8)と嘆いています。

対する子貢は、弁が立ち高い職に就いています。
この孔子との問答でも、顔回は一を聞いて十を知ると讃えながら「自分は一を聞いて二を知ることができる」としっかりアピールしています。