月別アーカイブ: 2019年2月

利己と利他

 「利己」とは自分の利を中心に物事を考えたり,行動する事だ.
一方「利他」とは他人の利を先に考えたり,行動する事だ.

利己と利他を公式で表現すると,以下の様になる.
利己:自分が支払うコスト<相手から自分が受け取る利益
利他:相手が支払うコスト<自分が相手に与える利益

つまり利己とは,相手から受け取る利益よりも自分が支払うコストを減らそうと言う考え方や行動である.自己努力により,相手から受け取る利益を一定のまま,自分が支払うコストを減らす努力は,利己とは言わない.
自分が得る利益(対価ーコスト)を増やすために,相手が受け取る利益を減らす事が利己だ.

利己の人は,相手から利益を奪い取る事を優先して考える.

利他とは,相手が受け取る利益よりも自分が支払うコストが大きくなってもかまわないと言う考え方や行動だ.むしろ相手が利益を受け取れるのならば,自ら進んで自分のコストを支払う,と言う人が利他の人だ.

つまり利他の人は,相手に利益を与える事を優先して考える.

どちらが成功するかと言えば,当然利己の人だ.
利他の方が聞こえは良いが,自分の利益を考慮せずに相手に利益を提供しようと言うのは,ボランティアでしかない.崇高な生き方かもしれないが,ビジネスとしては成功出来ない.

こう考えておられる方が大半だろう.二宮尊徳翁も「経済なき道徳は寝言である」と言っておられる.あなたは,いかがだろうか?

短期的な視野で物事を考えれば,利他の人の利益を利己の人が吸い取る構造だ.
しかし長期的な視野で考えると,利己の成功は短期的であり,大成功するのは利他だと思う.

利己のビジネスは,狩猟型のビジネスであり次々と狩り場(新規顧客)を開発する事が必要だ.

一方利他のビジネスは,農耕型のビジネスであり顧客や市場を育成する.その結果ロイヤリティの高い顧客が増え,顧客からの紹介で更に顧客が増える.

利他とはただ単に,相手に献身的な貢献をする事ではない.
相手に献身的な貢献をすることにより,利を得る事だ.

貢献(相手が受け取る利益)が目的であり利は結果だ.
これを間違えて,利を目的として貢献をしようとするから,利己になる.

営業経験がない私が独立した時に決意したのは「利他」を押し通す事だ.

無料工場診断に出かけると,そこまで教えちゃうの?と同行者があきれる程のノウハウを教えてしまう.訪問先の経営者からは,目から鱗でしたと感謝をいただく.
ある工場では,訪問して1週間後に,ここまで改善出来ましたと,写真入りでレポートを送って来てくれた.

同業のコンサル会社を何社も無料で指導している(時々晩ご飯をご馳走して貰っているが・笑)

このようにして集めた感謝が,後に収入・利益になるはずである.


このコラムは、2013年7月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第320号に掲載した記事です。

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続・見えない不良

 先週月曜日のメルマガでお約束した様に、書籍「『品質力』の磨き方」から、品質工学(田口メソッド)について、シェアしたい。

「『品質力』の磨き方」長谷部光雄著

品質工学に関してはこちらの書籍も大いに理解を助けてくれるだろう。
「技術者の意地」長谷部光雄著

この書籍は、湿度センサーの開発者が製造部門での不安定性、市場不良を解決すべく奮闘する姿が物語として語られている。品質工学を指導する十文字教授が登場するが、この人は品質工学の元祖・田口玄一教授がモデルだろう。田ー口=十だ(笑)

この2冊の書籍を読んでも即「品質工学」を活用出来る訳ではないが、考え方は理解出来る。その上で品質工学の専門書を読まれるのが良いと思う。

若い頃田口玄一教授の講演を聞いた事がある。残念ながら当時は田口教授の言っている事が全く理解で樹なかった(苦笑)田口メソッドは実験計画法の一種だと思っていた。田口メソッドは実験計画法の直交表を使うが、実験計画法とは全く違う理念に基づいた手法だ。

工程内不良や市場不良の原因を分析する時に、よく「分ければ分かる」と言う。
現象を層別したり、原因となる要因を分け、要因ごとに解析し対策を検討する。そんなやり方が一般的だろう。このやり方が悪い訳ではない。しかしこの方法は不良が発生しなければ、活用出来ない。

一方田口メソッドは「いじめれば分かる」という。
設計時に「いじめる」事により、より堅牢な(ロバスティックな)設計をするのが田口メソッドだ。堅牢な設計とは、製造時の変動や市場環境の変動による影響に対して「鈍感」にしておくと言う意味だ。
製造条件の変動に対して「敏感」であれば工程内不良は減らない。
市場環境の変動とは、ユーザの使い方や経年変化を含む。
これらの変動に対し「鈍感」(ロバスティック)になる様に設計パラメータを決める。

通常は設計パラメータを決定する場合、条件を製品仕様範囲内で検討する。
一方、田口メソッドの場合は、製造や市場での環境変動を仕様範囲を超えて極端に振る。これを「いじめ」と言っている。いじめによって、変動に「鈍感」なパラメータを設定し、特性に対して感度の高いパラメータで特性を調整する。

つまり変動に対する感度(SN比)と狙いの特性に対する感度(S)を同時に評価し設計するのが田口メソッドだ。

田口メソッドは「見えない不良」を設計時に先行対策するのに大いに力を発揮する。それだけではない、巨大化するソフトウェアの評価にも力を発揮する。

田口教授の講演を聴いてもさっぱり分からなかったが、その後もずっと気になっており、当時の部下に品質工学会に入会して勉強してもらった。彼はその後全社のソフトウェア評価の責任者になっている。

中国の日系工場は設計は既に本社で完了している事が多いが、徐々に設計を中国に移管し始めている企業もある。

書籍を読む限り簡単に応用出来そうだが、実際には制御因子、信号因子、誤差因子をどのように決めるかの経験智が必要になる。実践して経験を積むことにより活用出来る様になるだろう。

余談だが、本日ご紹介した書籍「技術者の意地」は、本のソムリエさんからいただいた。本のソムリエさんは、読んだ本を毎日一冊づつ紹介するメルマガを配信しておられる。読んで見たけど紹介に値しない本もあるだろう。年間356冊以上本を読んでおられると思う。驚異の読書量だ。

メルマガ:1分間書評!【一日一冊】

さらに読まれた本をメルマガ読者様にプレゼントしている。
すでに3000冊近くの本をプレゼントしている。郵送料だけでも大変な金額だ。時間をかけてメルマガを書き、さらに読んだ本をプレゼントする。ただの本好きではできないことだ。上記のURLから配信の登録ができる。無料配信だ。ご興味のある方はご登録いただきたい。


このコラムは、2017年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第554号に掲載した記事です。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

人の過ちや

yuē:“rénzhīguòdǎngguānguòzhīrén。”

《论语》里仁第四-7

素読文:
子曰く:“人のあやまちや、各々おのおのそのとうおいてす。あやまちをここじんを知る。”

解釈:
人がらしだいで過失にも種類がある。だから、過失を見ただけでも、その人の仁、不仁がわかるものだ。

人は過ちを犯すものです。しかし仁者が犯す過ちと、不仁者が犯す過ちは性質が異なります。過ちの内容をよく見れば、それが仁者によるものか不仁者によるものか区別がつく、という意味と理解しました。
『党』をその人が属する集団と解釈する読み方もあるようです。

見えない不良

 最近大規模な市場クレーム・リコール問題が多く発生している。
昔と比較して日本企業の技術力が低下しているのではないだろうか?私自身もこの様な危惧を抱いていた。技術力と言うのは設計技術ばかりではなく、生産に関わる現場の技術も含む。

バブル崩壊後、日本の製造業の多くが米国流の株主最優先の経営に傾倒し短期業績を追求した結果「現場力」を失ってしまったのが最大の原因と考えていた。つまり現場の職能工を、派遣社員や臨時工に置き換え人件費を変動経費化する事により経営を建て直そうとした。しかしその結果、現場に有ったモノ造りの力が消散してしまったのが原因と考えていた。

しかし、長谷部光雄氏の『「品質力」の磨き方』と言う書籍を読んで得心した。

『「品質力」の磨き方』長谷部光雄著

長谷部氏はリコーで複写機の開発をして来られた方だ。
彼の主張では、リコールの増加は技術力の低下ではなく、社会的要求の変化だ。

市場クレームやリコール問題が発生する製品は、製造過程では良品であった。工程内検査も、出荷検査も全て合格品だった訳だ。(この書籍が執筆されたのは2008年であり、昨今の検査データ改ざんなどの品質問題には触れていない)
出荷後の使用環境(温湿度や経年変化だけではなく、ユーザの使い方、期待等)の変化を予め想定出来なかった「見えない不良」がリコールの原因だと、彼は主張している。つまり現場力の低下が問題ではなく、開発設計力が市場要求の変化に追従できていない事が、リコール問題の根本原因だと言う。

設計の確からしさ、妥当性の確認が不十分だと言う事だ。もちろん設計評価に十分時間をかけていただろうが「見えない不良」(潜在不良)の想定が時代の変化に対して不十分だったと言う考え方だ。

「見える不良」「可視化で切る不良」は製造現場の力で排除出来る。しかし「見えない不良」を解決出来るのは開発設計工程だけだ。長らく開発設計に携わって来た技術者としての見識だろう。私も開発、品証を経験して来た者として、得心を得た。

書籍から判断すると、長谷部氏は「品質工学」(田口メソッド)に精通した方の様だ。近いうちに『「品質力」の磨き方』から得られた知見をシェアしたいと考えている。


このコラムは、2017年8月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第552号に掲載した記事です。

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