月別アーカイブ: 2020年3月

不況の処方箋・高フレキシビリティ

 2週間続けて世界同時金融不況の逆境の中で,高品質,高付加価値を追求し収益性を上げよう,というテーマで書かせていただいた.

完結編・不況の処方箋・高付加価値
完結編・不況の処方箋・高品質

今週は逆境をチャンスに変えるため「高フレキシビリティ」について考えたい.

高フレキシビリティ:
 マーケットは供給者主権から,消費者主権にパラダイムシフトしている.
従って多様な消費者の要求にフレキシブルに応えられなければ,企業として生き残れない.

これからは廉価品大量生産から多品種少量生産にどんどん置き換わってゆくだろう.モノ造りを消費者のワガママに合わせてフレキシブルにする事が重要となる.

売れるモノを,売れるだけ,売れる時に,作って出荷することだ.

そのためには

  • 徹底的に消費者のワガママを理解し,ワガママに応えられるモノを作り出す.
    モノはその価格や機能だけでは売れなくなってくるだろう.消費者が所有したいと思える「オーラ」を作りこまなければダメだ.
    部品メーカもこういう考え方で,完成品メーカと一緒に売れる部品を開発しなければならない.
  • 必要な量を投入し100%良品を生産する,不良ゼロの工程品質を実現する.
    歩留まりを考慮して余分に材料を投入する.こうして完成した余剰製品は,明日も売れる保証はない.どんどん売れない完成在庫が増えてゆく.
    また歩留まり100%の向こう側,直行率100%を達成すれば,損失コストが削減できる.損失コストは,単純に見積もるよりはるかに大きいはずだ.
  • 徹底的にリードタイムを短縮し納期変更,数量変更に耐えられる工程を作る.
    リードタイムを短くしまとめてドンと作る事を止めれば,マーケットの変動に伴う納期変更・数量変更に対して損失最小限で生産量調整が出来るはずだ.

不況で生産量が落ちている時こそ,こうした基礎体力を磨くチャンスだと思う.


このコラムは、2008年12月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第74号に掲載した記事です。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

完結編・不況の処方箋・高付加価値

【今週のお題】
不況に打ち勝つため,高付加価値にするための工夫やアイディア

【私のアイディア】
本編では

  • 高品質にこだわることにより,顧客での受け入れ検査省略などの付加価値を付ける.
  • 顧客が部品を生産現場に投入する時の利便性を考えて梱包形態を変更する
  • 次世代売れ筋商品(高付加価値商品)の生産技術開発
  • 顧客心理を捉えた接客

などのアイディアを書いた.

別の切り口から考えてみよう.
「オーラを造りこむ」
モノにはモノそのものが持つ機能や価値以外にモノから発せられるオーラがある.造り手のモノづくりの思いを込めてオーラ造りこむ.モノづくりのストーリィそのものが,広告になる.
例えば岡本雅行さんの「痛くない注射針」はそのモノづくりの技術もすごいが,その完成ストーリィを聞くと,思わずその注射針で注射してほしくなる(笑)
これも「付加価値」になると思うがいかがだろうか.

【S様のご意見】
違う視点で考えることができ、ためになっています。
品質管理畑を長年やっていたため、中々アイデアがありません。
QCD以外の観点がないか?もう少し考えてみたいと思います。

S様いつもご投稿ありがとうございます.
品質管理屋だから思いつく付加価値もあると思う.
Qに関して言えば,受入検査が省略できる製品というのは「高付加価値」と言ってよいだろう.
Cに関してはメーカ側の都合なので,顧客にコストで「高付加価値」を提供するのはちょっと難しいかもしれない.むしろ「高付加価値」によりコストにかかわらず高値で売れる製品・サービスを考えたい.
Dは業界の常識を超える短納期を提供できればそれが「高付加価値」になる.

【K様のご意見】
自社製品やサービスの付加価値を上げるための工夫ですが、私の工場では全ての客先に対して同じ品質管理をしています。
日本の本社以外の独自の仕事もしているのですが、ヨーロッパ系の客先からの品質要求は厳しくありません。しかし、日本の客先と同じ品質管理で生産をしています。工数はアップしますが、製品の付加価値を上げる為に、厳しい基準での生産を行なっています。
このおかげでこの客先からのクレームは全然発生していませんし、新たな受注にも繋がっています。
以上、ありきたりな内容ですが、投稿させて頂きます。

ありきたりと謙遜されているが,普遍的な考え方だと思う.
中国で車を買う場合,購入費用が高くても国産車より日本車を選ぶと言う人は増えている.メンテナンスなどの生涯コストを考えると,日本品質の車を買ったほうが
 安くなるからである.日本品質が世界品質だと思われる時代が来るに違いないと思っている.
日本の自動車メーカは更にその上で,ヨーロッパ車のような「高くても乗りたい」というオーラを持った車を開発できれば,鬼に金棒だ.


このコラムは、2008年12月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第73号に掲載した記事です。

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不況の処方箋・高付加価値

 先週は世界同時金融不況の逆境の中で,高品質にこだわり収益性を上げようというテーマで書かせていただいた.

今週は逆境をチャンスに変えるため「高付加価値」の追求について考えたい.

高付加価値:
「高品質」も一種の付加価値になりうる.従って先週の記事とダブるところはある.
例えば不良が極端に少なければ(狭義の高品質)顧客は受け入れ検査を省略できるであろう.これは物そのものの品質ではなく物を使う際に発生する付加価値といって良いだろう.

顧客が部品を生産現場に投入する時の利便性を考えて梱包形態を変更するという事例も高付加価値の実現だ.

この事例のように物の付加価値を上げることは,開発設計が伴わなくても可能だ.

工場で製品の開発をするということはあまりないかもしれない.しかし工場が開発機能を持たなくて良いということではない.物を作りながら(今日のメシの種)新しいモノ造りの技術(明日のメシの種)を開発すべきだと考えている.

次世代主力になるであろう製品を作るための技術を先駆けて開発しておく.
これはOEM工場でも採れる戦術だろう.

CDドライブを搭載した廉価音響製品を作っていたあるOEM生産工場は,DVDを搭載した高級製品をばらして作り方を研究していた.今その工場は超高級音響製品を生産している.

OEM供給先の要求に先駆けて生産技術を蓄えておけば,こちらから商品企画の提案もできる.顧客・ベンダーの主従関係から,パートナー関係に転換できる.

生産量が落ちている時ほど「重要だが急がない案件」に取り組むチャンスである.

製品やサービスの付加価値を高めるためには,必ずしも製品の開発設計は必要ではない.自社ブランド製品がない工場でも応用は可能なはずだ.

製造業以外でも応用可能だ.
例えばレストランで店員が顧客の名前を覚えて名前で呼びかける.
たったこれだけで顧客のリピート率は上がるはずだ.
石龍にあったレストランは私を名前で呼んでくれた.
たったこれだけのことで,私は毎日通っていた(笑)

ハンバーガチェーンのように「こちらもいかがですか?」と芋フライを勧めても顧客ロイヤリティは上がらない.


このコラムは、2008年12月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第72号に掲載した記事です。

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天職について

 先週のニュースからのコラムに読者様からメッセージをいただいた.

※N様のメッセージ

車椅子つくりに専念したことに感動。
仕事を始めてから 40年にもなるが、”天職”とは何か?
判らんが、今やっていることが ”天職”と信じて 残りの時間を仕事に専念したい。残り少ない時間ではあるが。

このところ「天職」を考えるテーマが続いている.
私自身は,製品の設計者から,ひょんな縁で品質保証を担当することになった.若い頃は,製品設計の仕事に誇りを持っており,違う仕事をするくらいならば転職をしようと考えていた.

しかしその頃,既に守らなければならないモノをたくさん抱えてしまい(笑)
転職をする勇気はなかった.ところが品質保証の仕事をしてみると,これが実に面白く感じた.二流の設計技術者でいるよりは,よほどやりがいのある仕事であり,品質保証の仕事が天職だと思うようになった.

そして独立をするに当たり,次の世代に仕事を通して学んだことを伝えてゆくことが自分の使命であり天職だと気が付いた.

いささか場当たり的ではあるが,私もN様と同じように,人生の残り時間を天職を全うするために時間を使いたいと思っている.


このコラムは、2011年1月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第188号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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亡き弟の姿胸に、電動車いす開発40年 京都の技術者

 進行性の難病だった幼い弟のため、父と電動車いすを作った兄がいた。弟は19歳で世を去ったが、兄は40年たった今も車いすを作り続ける。

 「オメガ・スリー」。ジョイスティックを指で傾けると六つのタイヤが動き出し、約10センチの段差を軽々と乗り越えた。悪路にも対応した機動性と安定性に乗り心地の良さを兼ね備えた電動車いすだ。

 作ったのは京都府宇治市で有限会社「アローワン」を経営する西平哲也さん(58)。社員と2人で、車いすをオーダーメードする。室内型の「くるくるマウ」、座席が床まで下がる「エフ・エックス」もある。障害の状態に合わせた特注のため1台200万円以上するが、脳性まひや筋萎縮性側索硬化症の人たちを中心に全国で約200人が利用している。

 1967年、九つ年下で当時6歳だった弟守儀(もりよし)さんが全身の筋力が低下する筋ジストロフィーと診断された。3年後には自力で車いすを動かせなくなった。電動車いすは高価な輸入車しかなかった時代、工業高校に通っていた西平さんは木材加工職人の父と一緒に開発に乗り出した。

 室内で使うにはシートの高さが変わらなければ不便だ。そこでシートの昇降やリクライニング機能をつけた。病状に合わせて10号機まで作り、守儀さんは亡くなる直前までわずかに動く指で車いすを操り、趣味の絵を描いた。

 西平さんは弟の死後、担当だった理学療法士に「必要としている人は他にもいる」と励まされ、車いすを作り続けた。しかし、東京・深川で会社は98年に経営が行き詰まった。知人の紹介で福祉機器販売会社の研究拠点があった宇治市に移り、修理と改造を主にして再出発した。

 5年前、堺市内で開かれた福祉機器の展示会で、大阪市西淀川区の福祉コンサルタント栂(とが)紀久代さん(58)と出会ったことが転機となり、新車づくりを再び始めた。

(asahi.comより)

 西平氏にとっては酷な言い方かもしれないが,弟さんの難病のおかげで天職に就けたとは言えないだろうか.難病の弟のために,高校生の時から車椅子を造る.大学でも機械工学科で,車椅子の研究をしている.そして卒業してからも一貫して車椅子に関連した仕事をしてこられた.

利用者に対する愛情があるから,素晴らしい製品を作ることができる.
その製品の一つ一つは,彼の一生をかけた天職によるものだ.そして弟の夢を,他の車椅子利用者に託す希望だ.

お金儲けのために,何かを造ろうというのとはまったく方向性の違う事業だ.お金儲けが卑しいものだというつもりはない.しかし,まず困っている人を助ける.そしてそれが収入となる.これが本来の順番だと思うのだ.

○○が売れそうだから,工場を建てる.というよりは,○○で困っている人がいるから工場を建てる,というアプローチの方が,人々の共感を得られる.

どのように考えようが,それはそれで,その人の人生だ.
しかし自分の人生ならば,仕事そのものが夢であり,人々から共感を得て支援される仕事に就きたいと考えている.

西平氏は「夢が叶う魔法の翼―電動車イスは移動の自由だけじゃなく、心の自由も与えてくれた!」という本を書かれている↓

アマゾンの読者書評欄には,西平氏の車椅子ユーザと思われる方の書評もあり胸を打たれた.

車椅子ユーザは,オフィスで働こうと思っても,コピーすら思うように取れない.そういうことが健常者には分からない.西平氏の車椅子には,座席の高さを上昇下降する機能もある.これでコピー機に原稿を載せ,コピーをとることができるようになる.

お客様の要求や言葉にならない願望を実現し,お客様の役に立とうとする事により,初めてお客様や社会から必要とされる企業になることが出来る.


このコラムは、2011年1月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第187号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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