5S回帰


 自分の専門性はどこにあるのか考えてみた。
超がつく多品種少量生産のモノ造りをしているメーカで、開発設計をしていた。
その後大量生産製品の品質保証責任者として、国内、海外の子会社や生産委託先で生産・品質指導をしてきた。

独立してからはバネからバスまで、月産数百万台の大量生産から、単品生産の工場まで指導した。少品種大量生産の工場に、1台ずつ生産する生産方式を導入したこともある。

少量生産、大量生産の枠では、自分の専門性を定義することは出来そうもない。

元々電源関連の生産メーカの指導が中心であった。20社近く指導をしたが、今は全くない。民生用、産業用の電子応用製品の組み立て、電気・電子部品の生産、金属製品、プラスチック部品の生産、玩具、衣類の縫製、表面処理などの指導をしており、自分の専門業種を語ることも難しい。

従来は電気電子業界の仕事が多かったが、最近は自動車業界の比率が上がっている。業界も私の専門性を絞ることは出来ない。

いわゆる「現場の改善屋」として仕事をしているが、改善を達成し、それを定着させるためには、企業文化の構築や、リーダの育成も必要になる。幹部やリーダの育成も仕事だが、経営者へのコンサルもやらなければならない。
仕事の対象でも、専門性が絞れない。

ムリに専門性を絞る必要はないのだろうが、「現場の改善屋」という看板では、何が得意なのかぼんやりしてしまうと考えたのだ。

考えが煮詰まって、気分転換に外に出てみた。
夜半の街を歩いているうちに閃いた。自分は「5S」が専門ではないだろうか。検証してみると、顧客から5Sの指導を依頼されたのは10社しかなかった(笑)10社程度では、ダントツの5S専門コンサルトは言い難いだろう。

しかしよく考えてみると、あらゆる仕事の基本は5Sに始まる。
現場の改善指導の仕事を受けても、5Sを指導することになる。そうなると今まで70社近くの企業に5Sを指導したことになる。

前職時に指導した中国電源工場(広東省に4社)では、日本人監査官の監査を受けて、ここまで5Sが出来ていれば安心ですと言っていただいた。今まで日本企業18社、欧米、台湾、韓国。中国企業13社の監査を受けたことがあるが、5Sについて問題指摘を受けたことは一度もない。

中国で発行されている日本語ビジネス雑誌2誌に1年間5S啓蒙のコラムを寄稿したこともある。

2011年12月には、北京の商社経営者(中国人)が5S修行をさせて欲しいと来社され1ヶ月居候をしていった。

これならば、世界一とは言えなくても、華南一くらいにはなれるだろう(笑)

正直に告白をすると、5Sを指導しても結果に納得出来なかった工場が2社だけある。指導先からクレームを付けられた訳ではないが、自分自身が満足できなかった。
私が経営者や経営幹部の「本気」を引き出せなかったのが原因だと考えている。
この経験のおかげで、指導の方法を変更することができた。


このコラムは、2012年9月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第275号に掲載した記事です。

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