QCC3.0


日本の製造業が、力を付け「モノ造りニッポン」と言う称号を得た影には、品質に対する継続的改善が有ったと言って良かろう。
当時先を走っていた欧米先進国に一歩でも追いつこうと、執拗なまでに改善活動をして来た。その原動力がQCC活動であり、QC七つ道具などの手法だ。
これをQCC1.0と名付けてみたい。

QCC1.0とは、以下の手順に従った問題解決型活動だ。
現状の問題を把握し、原因を分析し、改善対策を実施する。すなわち現状の「悪さ加減」を見つけ、改善する活動だ。日本の製造業がもっとも得意とする改善活動であり、これはもはや日本企業のDNAと言っても良かろう。これを継続し続けたことにより、他に追随出来ない品質レベルを達成した。QCC1.0が日本の戦後復興を助けたのは間違いない。
しかしそれがビジネスとして成功しているかと言うと、はなはだ疑問だ。
コモディティ化してしまった家電製品などは、中国企業に追い上げられている。
一方日本にはアップルの様な魅力的製品を創造する企業は稀だ。

QCC1.0が有るのならば、QCC2.0も有る。そうでなければわざわざ1.0と名付けた意味がない(笑)

元々QCC活動は、製造現場を中心にして取り組まれて来た。しかしTQCと言う概念が出て来る。全社で取り組むQC活動と言う意味だ。間接部門を含む全社で取り組む活動となってきた。これをQCC2.0と呼びたい。

間接部門も製造部門と同じ様に、現状の悪さ加減を把握し、原因を分析して改善すると言う活動をしたが、製造部門の様には上手く行かない。製造部門の問題は、解決すれば大きな成果が得られるが、間接部門の問題はさほど大きな成果が期待出来ない。それよりも今の業務レベルをもっと上げる、新しい業務に取り組む、と言う活動の方が大きな成果が期待出来る。しかしこの様な活動
は、QCC1.0の現状把握・原因分析の問題解決型アプローチでは、上手く行かない。

そこで考え出されたのが、「課題達成型活動」だ。
例えば、フレキシブルな納期対応をする為に、従来ロットごとにまとめ生産をしていたのを、平準生産に変えたい、という課題が有ったとする。
これを問題解決型アプローチで取り組むと、ムリがある。現状(まとめ生産)の悪さ加減を把握しても、平準生産に移行する対策は出て来ない。
「課題達成型」は平準化生産と言う「理想状態」を実現するための課題を定義して、実現していくと言うアプローチになる。

この事例の活動を、無理やり問題解決型で活動することも可能だ。
「顧客の納期要求に応えられない」と言う問題を解決する活動として、現状把握をしてみたら「まとめ生産」がフレキシブル生産を阻害し、顧客納期要求を満足出来ない原因と判明した。この原因に対する対策を検討する。と言うストーリィになる。
しかし「無理やり感」が漂う。顧客の納期要求に応えられる様に「平準生産を行う」という課題を設定し、どうすれば良いかを検討した方が素直で良い。

つまりQCC1.0とQCC2.0の違いをまとめると以下の様になる。
QCC1.0は「何を改善するか」と言うWhat型の活動。
QCC2.0は「どうやって課題を達成するか」と言うHow型の活動。
別の言い方をすると、
QCC1.0は過去と現在の悪さ加減を改善する活動。
QCC2.0は現在もしくは未来に設定した課題を達成する活動。
となる。
QCC2.0の活動は、「改善」ではなく「改革」を目指すことができる。
しかし先に述べたように、この活動をしていれば「アップル」の様になれるかというと、否定的な答えしか返って来ないだろう。

アップルは、今までユーザが体験したことが無い製品を創造することにより、ユーザに「魅力的品質」を提供する企業と言って良いだろう。
「問題解決」「課題達成」では不十分だ。それに加えて「価値創造」が必要だ。

価値創造型のQCC活動をQCC3.0と名付けたい。
問題解決型活動も課題達成型活動もその活動目標は、自己都合だ。
価値創造型活動の目標は顧客都合だ。顧客が考える理想状態をまず知ることが必要となる。
顧客が考える理想状態(What)をどのように実現するか(How)、QCC3.0はWhat+How型の活動となる。

顧客の期待する理想状態を実現させれば「顧客満足」が得られる。

顧客が期待していなかった欲求を満たせば「顧客感動」が得られる。
アップルが目指しているのは「顧客満足」ではない。彼らはユーザに、どんな製品が欲しいですか?などと言うアンケートはしない。
まだユーザが期待すらしていない「感動価値」を創造しようとしているのだ。

アップルは、天才のアイディアと強力なリーダシップで、感動価値を創造する企業だ。
我々凡人はQCCの様なチームワークを使ったフレームワークで対抗するしかないだろう。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】2015年7月13日号に掲載した記事に加筆しました。
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