ずいぶん昔のことになるが、シンガポールのハードディスク工場を訪問したことがある。
工場を見せていただいて、工程内不良が多いのがすごく気になった。案内をしていただいた幹部の方に質問すると、歩留まり率が80%を超えたので、もう改善はしていない。改善のリソースは全て新機種の立ち上げに投入している、という説明だった。
当時(1993年)のハードディスク業界は、容量アップの競争が激しく、新機種をどんどん投入しないと、旧機種の売値が即下落してしまうという状況だった。
その話を聞いた時に、合理的な経営判断と感じたが、その後もずっと違和感を感じていた。量産製品の生産指導をするようになって、その違和感の原因が分かって来た。
まず第一に、改善リソースと新機種立ち上げリソースがトレードオフ状態になっている事だ。つまり新機種立ち上げに人を投入してしまうと、旧機種の改善を担当する人がいなくなってしまうという事だ。
私たちは、量産開始時に設計完成度、生産技術完成度が一定の水準に達している事を確かめ、その後は現場のリーダが継続的に改善を進める、というやり方をしていた。そのため、新製品の立ち上げリソースは量産開始後すぐ次の新製品に取りかかることができる。
まれに、生産性や品質を改善するために、設計にさかのぼって変更をかける必要がある事もあったが、それが原因で新機種の立ち上げが遅れる事はほとんどなかった。
第二の原因は以下にある。
旧機種の改善により、設計完成度が量産開始時には相当高いレベルに達する事が出来ていた。量産品の設計完成度とは、作り易く不良が出ない、と言う事だ。旧機種の問題の改善は、新機種の設計にどんどんフィードバックする仕組みを作った。
例えば、設計審査時に製造部のメンバーも参加し、生産性のレビューをする。量産試作時は当然だが、技術試作時にも製造部、生産技術が積極的に参加をするようにした。
これは相当効果が高かった。このシステムを導入した当初は、設計部門は仕事が増えると、陰で反対したモノだ。しかし実際には量産リリース後の手間は激減、しかも試作時に製造部や生産技術が手伝うので、試作にかかる設計部門の作業も軽減出来た。
更に大きな効果は、製造部、生産技術の生産側のメンバーが、開発初期から設計に関わるので、彼らの意欲が向上した。それまでは、出来の悪い機種を「造らさせられている」というネガティブな思いがあったが、造り易い機種にするために、積極的に設計に関わるというポジティブな意欲となった。
当然設計部門と生産側のコミュニケーションが格段に上がった。
こういうレベルとなると、製造部がコツコツと改善する。そしてその成果は次の機種の設計に反映されるという、ポジティブサイクルが出来上がる。
私たちが生産していたのは、電源装置であり、ハードディスクの生産とは直接数字の比較は出来ないが、量産開始後3ヶ月以内に工程内不良を100ppm以下にすることができた。つまり直行率が、99.99%という意味だ。歩留まり率は、修理して良品になった物も良品としてカウントするので、歩留まり率は100%だ。
歩留まり率や直行率の目標を置く事は間違いではない。しかし中途半端な目標に満足するのは勿体ない。
改善を阻害する要因(リソース不足)を排除する。つまり製造現場の改善力を鍛え上げる。それにより生産が続く限り改善が継続するようにする。
過去の設計・生産経験を積み上げる仕組みを作る。
私はこの二つに取り組むことにより、ハードディスク工場で感じた違和感を払拭した。
このコラムは、2012年9月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第276号に掲載した記事を加筆修正したものです。
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