整理整頓が継続しない理由


 中国民営企業で指導をしている。生産現場は、合理的なレイアウトを持っており、指導を大変楽しみにしている。しかしハードはよく出来ていてもそれを使うソフトに改善の余地が沢山残っている。

ソフトを鍛え直すために、まずは現場の5Sを指導している。
先週訪問時には、機械加工職場の班長が自分が使う刃具類を整頓する収納戸棚を自作していた。初回指導時に戸棚の整頓をすれば、作業効率が上がるよね、とヒントを出したら古い戸棚を整理整頓した。そして今回は新しい戸棚を自作し更に改善してあった。私が見ても「おぉ!」と感心する出来映えだ。

場所が狭い、購入部材が足りないなど不平不満を言う職長が多い中、彼は自主的に改善活動を継続している。
私の助手は彼に『工匠精神員工』と言う称号を与えている(笑)

我らの『工匠精神員工』は更に自分が使っている加工機の徹底清掃を開始している。徹底清掃とは、ただ設備の油汚れを清掃する事ではない。古い設備を復元する作業だ。先ずは剥げちょろになっている設備の塗装を剥がし、再塗装を始めた。私は何も教えていないが、結果的に彼はTPMの第一歩を踏み出した。彼は、他人の指示ではなく自分で改善を始めたと認識しているはずだ。これが改善意欲を高める。

しかしまだ大部分の現場で整理整頓が出来ていない。管理職の強引な指導で見かけは整理整頓が出来ている様に見える。しかしすぐに元に戻ってしまう。
これを繰り返していると、現場の作業員も管理職も疲弊してしまい、5Sが継続出来なくなる。

これは現場の監督職や作業員に『工匠精神』が足りないからではない。
整理整頓すべき物を減らす努力が足りていないからだ。

作業現場には今必要な物だけを置く。前工程は次工程が必要な物だけを次工程に送る。この基本が出来ていないから、現場に物があふれ整理整頓に工数を割く事になる。5Sで生産性を高めると言う本来の趣旨から逸脱してしまう。

前工程(この場合は機械加工工程や部材調達工程)で適時適量生産をすれば整理整頓が楽になる。段取り替えに時間がかかる、輸送費がよけいにかかると言う自己最適を優先させ、全体最適を考慮していない。

どうすれば、段取り替え時間を短縮出来るか、を工夫する事が必要だ。
一番手間がかかっているプレス機の段取り替え作業をビデオに録画し、機械加工工程の職長に見せた。職長は金型の段取り替えは10分以内に出来ている。と豪語していたが、ビデオを見てまだ改善の余地がある事に気がついた様だ。

実はこの職長は、暇になってしまうと職場の規律が落ちてしまうと考えていた様だ。確かに暇にしておくと、作業員は煙草を吸っていたり、携帯をいじっていたりしている。しかし彼は『工匠精神員工』の直属の上司だ。暇な時間に自主的に改善に取り組む事により、部下の能力や意欲が高まる事を理解出来たはずだ。

次回訪問も楽しみになっている。


このコラムは、2016年8月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第490号に掲載した記事です。

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