仕事貫徹の意欲


 ついに丸7年間使ったMacBook Proを買い換える時期が来た。

昨年寿命となったバッテリーを交換した。同時に異音を発して回るファンと、ディスクを飲み込まなくなった内蔵光ディスクを交換し、主記憶を倍増、HDDをSDDに交換し延命を検討した。しかし正規修理部品による見積もりを見て思いとどまった(笑)

電池は復活したが、緩慢な動作はますます磨きがかかっている(笑)
しょっちゅう処理中を示す風車(Windowsの場合は砂時計?)が回る。
キーボードの操作に追いつかず、入力した文字を取りこぼす。
仕事中のイライラが募る。
ようやく重い腰を上げて、新しいコンピュータを買うことにした。

オフィス近くの量販店には、私の欲しい機種はなかった。東莞中の店舗在庫も調べて貰ったが在庫ゼロだ。

ダメ元でアパート近所の電気店に行ってみた。
店内に在庫があり即納。この店で購入することにした。
なんとインストール作業もしれくれるという。

MacOSのインストールは一瞬で終わるが、この世界では異端の我々Apple教徒に必要な、仮想WindowsマシンソフトとWindowsをインストールする必要がある。
以前はMacOS内蔵のBootCampとWindowsXP(日本語版)を使っていた。
さすがに今更WindowsXPをインストールする気になれず、Windows10とParallelsも購入した。Parallelsはともかく、Windows10のインストールはちょっと腰がひける(笑)中国語版なので、インストールのインストラクションはすべて中国語だ。

ありがたくインストール作業をお願いする事にした。

MacOSは起動後の設定を何項目か入力して終わりになった。
Parallelsのインストールも順調に完了したかのように見えた。
Windows10インストール後に、デスクトップ上に現れるParallelsのウィンドウのサイズを変更できない。再度インストールしても状況は同じ。
店員さんは、なんとネットで対処方法を検索しだした(笑)

午後7時に始まった作業はすでに9時を回っていた。
さすがに空腹に耐えられなくなってきた。インストール完了後に取りに来る事にし、後の作業を店員さんに任せた。

翌朝MacOSの設定を変更するためのパスワードを教えてくれと電話がかかってきた。そして昼過ぎにはインストール完了の電話がかかってきた。

彼は、私を見るなり3回も再インストールしちゃったよと苦笑いした。

彼はなぜここまでの熱意を持って仕事をしてくれたのだろう?という好奇が心に浮かんだ。

基本給与の他に売上高に応じた成果報酬がもらえる?
しかし良く考えれば、コンピュータ担当の彼はそれなりに成果報酬が貰えるが小物やサプライ品を担当している店員さんは、頑張っても成果報酬は少ないだろう。あまり給与差があれば辞めてしまうこともありうる。経営者としては、小物やサプライ品を担当する店員がいなくて困ることになる。

インストールサービスを完了させないと店から罰金を取られる?
中国的にはありうる。しかし彼は、Parallelsのウィンドウサイズを変えられないという点を除けば、インストールを完了していた。しかも顧客(私)はそれなりにコンピュータに詳しそうに見える、多分クレームにはならないとわかっていたと思う。

なぜ他の仕事を放り出してまで、私のコンピュータのインストール作業を貫徹したのだろうか。成果報酬があるのならば、他の顧客の接客をした方が報酬が上がるはずだ。

彼の仕事貫徹のモチベーションはどこにあるのか?
ヒントは、最後に製品梱包を手伝いに来た若い店員との会話にあった。

彼は若い店員に対し、今回の仕事は日本語環境のMacOS下にParallelsを通して中国語Windowsをインストールするという初めての経験をすることができたと、語っていた。

彼のモチベーションの源泉は報酬などではなく、未知の体験を通した自己成長欲求の充足なのだと理解した。

彼はiMac21.5″の箱を抱えて、ショッピングモールの出口まで見送ってくれた。
そのまま私のアパートまで送ってくれるつもりだったようだ。丁重にお断りした。日本の家電量販店でも受けたことがない接客サービスだった。


このコラムは、2016年8月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第489号に掲載した記事です。

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