先週は、電子製品の組み立て工場を「無料工場診断」で訪問した。
この工場は、ベルトコンベアに作業員が並んで作業をする従来型の生産方式だ。
組み立てラインで全数検査した製品を、全数出荷検査をしておられた。工程内検査と同じ検査をする検査専用ラインに完成品を再投入し、コンベアに着席した検査員が再検査をする。
私は以前、お客様から「抜き取り出荷検査」を要求され断った事がある。
その時の私の常識は、工程内で100%検査している製品をAQLで抜き取り再検査しても無意味と考えていた。しかしお客様の常識は、AQL抜き取りで出荷検査をする、だった。
例えば、生産ラインの検査プログラムが間違っていたり、検査装置が故障しているなどの問題があれば、抜き取り検査で発見出来る。しかし我々の工程は、そのような潜在問題は考慮済みであり、生産開始時と生産終了時に検査設備の始業点検・終業点検をすることにより、問題回避を計っている。
最終的には「目視検査」を別の検査員が別の場所で実施する事の意義を問われ、その代替を説明出来なかったので、抜き取り出荷検査を引き受けた。実は官能検査の確からしさを追求されると答えに窮するので、議論を終わりにした(笑)
ある通信機器メーカは、全数24時間のエージングテストを要求して来た。
電子回路製品で、まともな部品を使っていればエージングでスクリーニング出来る故障モードはほとんどない。エージングによるスクリーニングが有効なのは「電解コンデンサの極性違い」不良だけだ。1時間以内で発見可能なので、24時間のエージングは無意味だ、と説明した。
しかし24時間稼働の彼らの製品の信頼性を保証する一手段として、24時間のエージングは彼らの常識だった。
この時は、エージングで一定ユニットアワーを無不良でクリアしたら、段階的にエージング時間を削減する、と言うプログラムを提案し、最終的には2時間のエージングで了承いただいた。
ちなみにこの製品は、製産開始後エージング中の不良は1件もないばかりか、顧客工程内不良、市場不良も1件も発生せず、我々の工場は伝説の工場になった(笑)
お客様の常識は自分たちの常識と異なっているのが、当たり前だと考えた方が良い。
しかしお客様の常識に合わせる必要はない。
自分たちが生産している製品に関しては、お客様より知識も経験も深いはずだ。
重要な事は、お客様要求の背後にある真の要求を理解する事だ。
前述の100%出荷検査を要求しているお客様も同じだ。
アパレルなどの業界では、検品会社による100%再検査が常識となっている。しかし本来お客様の要求は100%再検査ではないはずだ。真の要求は100%良品納入だ。
要求の背景には、国内での受け入れ検査コストを押さえたい、受け入れロットアウトによる販売機会ロスのリスクをなくしたい、などがあるだろう。
これらの真の要求を満たすことができれば、100%再検査がマストではない。
工場としては100%良品出荷を保証出来ないのであれば、100%再検査もやむを得ない。しかし唯々諾々と100%再検査を続けるのではなく、100%再検査をしなくてよくなる様に努力するのが本来の姿だろう。
このコラムは、2014年5月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第362号に掲載した記事を加筆修正したものです。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】