自己責任


 中国の工場で仕事をしていて,一番がっかりするのは職員の「自己責任意識」の足りなさだ.
以前指導していた生産委託先工場で,技術改訂連絡の不備で旧バージョンのまま生産してしまったことがある.技術改訂といっても,製品に貼る主銘版の変更だけである.従って修復作業は,新しい主銘版を手配し,貼りなおし作業をするだけである.

しかしこのミスを放置するわけには行かない.次に同じようなミスが発生した時の損失が小さいとは限らない.致命的な損失だってありうる.

即関係部門を集めて,問題点を理解し是正をしようとした.

会議を始めて暫くは,各部門の言い訳発表会の様相だ.
営業部門は顧客の変更要求をE-mailで関連部署に通知したと,E-mailをプリントアウトして訴える.
技術部門は,技術改訂依頼が来ていないので作業が出来ないという.
購買部門は,部品表が改訂されていないので「正しく」部品手配したという.

全部署が自分の責任を果たした.問題は他部署にあるといっている.
これでは再発を防止する是正など,検討できない.

営業部門は顧客の変更要求を受けた時点で,次の出荷計画を調べ,変更適用がどのロットから可能か把握し,場合によっては顧客と変更適用スケジュールについて相談をしなければならない.
これが出来て最低限の自部署の責任を果たしたことになる.

更に今回の問題を自己責任として捉えることができれば,顧客の変更要求を各部門に伝達するだけが仕事ではなく,それが各部門に伝わって正しく改訂作業が始まっていることを確認するところまでが,自分たちの責任であると理解できるはずだ.

同様に技術部門も,自己責任の意識があれば,E-mail情報を「非公式情報」として取り扱うだけでなく,正式情報の発効を営業部門に要求することが出来たはずだ.

購買部門も同様である.

今回の問題の是正処置としては,技術改訂システムにあった欠陥を補強することとした.しかしそれでは不足である.各部門の「自己責任意識」を高めなければ,技術改訂システムにある「まだ見つかっていない欠陥」によるトラブルが発生しうる.又は技術改訂システム以外にある欠陥で問題発生する事もありうる.

完璧無比な品質保証システムをあらかじめ構築することはできない.
また「自己責任意識」を高めろ,と言っただけでは人の意識は変えられない.

例えば,出勤途上で車両事故があり会社に遅刻をした.
遅刻をした責任は電鉄会社にあるのだろうか?
車両事故は遅刻の「原因」ではあるが,遅刻は自分に責任がある.
世の中に完全無比な交通システムなどない.その不完全さを予測し対策を持つのが,遅刻をしないという「自己責任」だ.


このコラムは、2010年6月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第159号に掲載した記事に加筆しました。

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