従業員との信頼関係構築


 人の行動欲求の根源は「苦痛回避」と「快楽享受」だと言われている。
死の恐怖に直面すると、非常に強い行動欲求が生まれ、実際に行動する。「火事場の馬鹿力」の様に高いパフォーマンスを発揮することもある。報酬などを求めて行動を起こすのは、快楽の享受だ。

そんな単純ではないとは思うが、究極まで突き詰めれば、快楽と苦痛で説明が付きそうだ。
報奨金、昇格・昇給の餌で釣って、好ましい行動を強化する。
罰金、降格・降給などの罰則を使って、好ましくない行動を抑制する。
簡単に言えばこの様な「快楽」と「苦痛」の組み合わせで、人のマネジメントを行っている方が多いと思う。

しかし人のマネジメントの基本は、信頼関係だと考えている。
上司・部下の間の信頼関係。従業員同士の間の信頼関係。会社・従業員の間の信頼関係。信頼関係が有れば、相当無理な事も聞き入れてもらえる。信頼関係が出来ている組織では、ストライキは発生しない。
つまり、信頼関係が有れば「苦痛」や「快楽」の境界線が大きく変わると、考えれば良い。

2012年に自動車部品メーカの長期ストライキがきっかけで、多くの日系企業に賃上げ要求のストライキが発生した。ある地域の商工会会長さんから、地域で一番給与が安い日系工場があるが、ここでは絶対ストライキは発生しないだろうと言うお話を伺った。組織内の信頼関係ががっちり出来ているからだ。

日本人は、他人をすぐに信用する傾向に有る。海外に出れば、すぐ騙されるなど、ネガティブな側面が強調されるが、人を信頼出来ると言うのは「人間力」だと思う。

他人を容易には信じ合わない人々からどうやって信頼されるか。大変な難問の様に見えるが、実は簡単な事だ。相手に関心を持っている事と信頼している事を伝えれば良いのだ。

経営幹部のあなたは、従業員に対して「あなたの事をいつも気にかけています」と発信し続ければよい。

毎朝挨拶をするのは当たり前。(部下が先に挨拶するモノだと思っている人には、誰も挨拶して来ないだろう。こちらから先に声をかける。)誕生日や家族の記念日に声をかける。小さな善行を褒める。
一日に一回は現場に出かけ、こういう活動をしてみてはどうだろう。

ウチは従業員が5,000名もいるから不可能だと言う方も有るかもしれない。
しかし5,000名いたとしても、今日誕生日の人は平均13人強しかいない。1日に13人ならば、何とかなるだろう。それでも難しければ、携帯メールを送れば良い。誕生会をやっているから良いと考えてはいけない。私一人に言葉をかけてくれた、メールをくれたと思ってもらう事が必要なのだ。

従業員の生年月日、携帯電話、家族構成などは、入社時に書かせれば、人事データベースに入っている。人事部から今日記念日がある人のリストを毎朝提出させれば良いのだ。また慶弔金の支払いが有れば人事部から情報を貰う。この様に少し工夫をすれば、5,000人の従業員の心を掴むことができる。
小さな労力で、大きな効果があるはずだ。


このコラムは、2014年9月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第379号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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