愛知県豊橋市の豊橋市民病院は6日、2010年に心臓病の手術を受けた男児(当時4)が、約10日後に死亡する事故があったと発表した。手術の際、血管に空気が入って心筋梗塞(こうそく)を起こしたためで、同病院は手術ミスを認めて謝罪した。
男児は、心臓の壁に穴が開いたままになる「心房中隔欠損症」と診断され、心臓血管・呼吸器外科などの執刀医3人らが10年11月、穴をふさぐ手術をした。
手術は、いったん心臓を止め、血管を人工心肺装置につないで行われた。その間、心臓を壊死(えし)させないように冠動脈に「心筋保護液」を流そうとしたが、装置のチューブの接続部が緩み、2回にわたり計32ミリリットルの空気が入ったという。
このため、心臓に保護液が届かなくなって心筋梗塞を起こして死亡した。
同病院によると、心臓手術の中では初歩的な手術で、死に至るケースはまれだとして、調査委員会を設置。スタッフが装置のチューブ接続部などをしっかり点検していなかったとして「人為ミスの可能性が高い」と結論づけた。(asahi.comより)
この医療事故の原因は,
「スタッフが装置のチューブ接続部などをしっかり点検していなかった」ではなく,
「心筋保護液回路に空気が混入した」ことである.
「点検をしっかりしていなかった」は流出原因であり,根本原因ではない.
「点検をしっかりしていない」という人為ミスに対して対策を考えると
- 点検をしっかりする様に指導をする
- 点検チェックリストを作り,点検漏れを防ぐ
- 臨床技師と看護士のダブルチェックとする
という効果を実感できない対策となる.
根本原因「空気が混入した」に対策を考えると,以下の3分類の対策を考えれば良いはずだ.
- 空気が混入しない様にする
チューブ接続部分を,カチッとはまるコネクタ方式にする.中途半端な接続が出来ない様にする. - 空気が入っても問題ない様にする
エアートラップを循環回路の中に入れる. - 空気が入ったらすぐに循環を停止する様にする
気泡検出装置を付けておけば,自動で循環装置を停止させる事は簡単だろう.
人為ミスで解析を停めてしまうと,このような対策は出てこない.
上記の根本原因対策の実施が全て不可能だった場合は「しっかり点検しなかった」流出原因に対策を考えることになる.
- 空気混入により事故が発生する事を知らなかった(あり得ないと信じたいが)
- 点検箇所が漏れていた
- 点検したが見つけられなかった(点検困難,誤判断)
それぞれの対策が変わって来るはずだ.
記事を読むと,今回の事故は術中に空気の混入に気が付いたが,正しく処置出来なかった可能性もある.つまり冠状動脈に入った空気を,迅速に抜く操作が出来なかった.
この場合も,上記同様に更に原因を掘り下げる.
- やり方を知らなかった
- やり方は知っていたがやり難かった
- パニックになった
例えばパニックになる原因を更に考える.
初めての体験でパニックになったとすれば,シミュレーション訓練で防ぐ事が出来るはずだ.
術中に発生する可能性のある潜在事故を洗いざらい上げて,その対処方法をシミュレーションできる実地訓練を準備すれば,予防保全が出来るだろう.
工場でも同じ事だ.
事故や,不良の発生を潜在故障としてリストアップし予め対応方法を決めておく.いわゆるFMEAと同じだ.
勝手なことを書いたが,私は医学に関しては全くの素人だ。工学の専門家としての知見から、我々が遭遇する可能性のある事故に置き換えて思考実験をしてみた。
このコラムは、2012年7月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第265号に掲載した記事に加筆しました。
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