よく職位が人を育てるという言い方をすることがある.まだ能力不足と思いながらも一つ上の職位につけると,本人のモチベーションも上がるが,それ以上にその職位に見合った自覚が生まれる.このモチベーションと自覚が成長の助けをしているはずだ.
以前お手伝いしていた工場に若い班長さんがいた.彼は人柄はよさそうだが,あまりぱっとしない人物だった.ミーティングに出席しても何も発言しない.
ある時などは筆記用具を持たずに会議に参加して日本人上司にこっぴどく叱られていた.そして何よりも話をするときの声の小ささが,リーダとして致命的な欠点だと思っていた.
しかしここの経営者はその彼を課長に抜擢した.
他になり手がいなくて苦汁の選択だったのかも知れないが,私には能力不足に思えた.作業員を集めたミーティングでも,声が小さくて何を言っているのかわからない.かなり心配をした.
しかし1ヵ月後に訪問したときにはすっかり変わっていた.
朝礼をしているのを横で聞いたが,しっかりと声が出るようになっていた.
職位を与えられたことにより自覚が出たのと,毎朝の朝礼で訓練されたのだろう.「職位が人を育てる」「仕事が人を育てる」の好例だ.
これを人材育成の仕掛けにしてしまってはどうだろうか.
職位を同じままにして一クラス上の職位の仕事を一定期間代行させる.この期間に能力やモチベーションのアップが見られれば本当に昇進させる.今までと変わらなければ,昇進は取り止めで次の人にチャンスを回す.
昇進をさせていないので「職位が人を育てる」という効果が少し薄いが,うまく能力が発揮できなかったときの「降格」によるマイナス効果を考慮してみた.
組織の中で「降格」がマイナスに受け取られない,敗者復活の道がきちんと用意されている,という組織文化があれば職位も上げてしまった方が効果が高いだろう.
定期的にこのような「役割の変更」が行われていれば,「昇進」も「降格」も単なる役割の変更という組織文化も生まれてくると思うがいかがだろうか.
「昇進」をすると自分が偉くなったと勘違いする人間が多くいる.昇進はただ単にそういう職務を与えられたというだけだ.
このコラムは、2009年11月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第127号に掲載した記事を修正・加筆しました。
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