山本品管部長奮闘記(30)


 今日は、東莞和僑会・改善交流会の第一回目だ。参加する会社は、次の6社
欧泰科技:光センサー応用電子機器
豊信精密:機械加工
厚偉包装:梱包材料
高志電子:電気部品
エース電源:電源装置
協立電気:ワイヤーハーネス加工

協立電機は春節前に開催した東莞和僑会で、改善交流会の説明を受け参加を決めた日系企業だ。自動車用、設備の電装ワイヤーハーネスまで量産品から多品種少量の製品を生産している。同時に電源コードのような同一規格品も手がけている日系企業だ。エース電源も電源コードを使うが、今まで台湾企業から調達していた。

今回の会場となった豊信精密に各社のメンバーが集まっている。
エース電源は陳工場長、山本品証部長、程利民生産技術課長、春節後昇格したばかりの陳南初製造課長、黎玲経理課長、譚小琴人事係長、楊双成助理が顔を揃えている。人事部だけが係長の譚小琴がメンバーに参加することになった。
本来江霞人事課長が参加するはずだったのだが、土曜日は子供の世話があるのでと辞退して来た。山本はせっかくのチャンスなのにと考え、説得しようとしたが、小楊に止められた。人それぞれ価値観が違うのだからという小楊の言葉に、山本は妙に納得感を覚えた。自分の価値観を押し付けるべきでないと感じたのだ。それにひきかえ、参加できることになった譚小琴は喜び、大いに張り切っている。一年後に、江霞課長と譚小琴係長の実力が逆転してしまうと処遇を考えるのがめんどくさいなという思いが山本の頭をよぎる。副総経理に昇格後人事課も山本の所管になっているのだ。

豊信精密の北山和昌総経理が挨拶をし、第一回改善交流会が開始した。
豊信精密の改善メンバーの発表を、隣に座る小楊の翻訳に耳を傾けながら聞く。
驚いたことに、1月の打ち合わせで山本が提案した加工機械のレイアウト改善をすでに実施済みだという。今まで同じ方向に一直線に並べていた加工機械をお互いに向き合うように並べることにより、一人の作業員で二台の加工機械を操作できるようにしたという。山本は前方右側に座っている北山の顔をそっと見た。見かけは穏やかな顔をしているが、部下の指導は厳しいのかも知れないと思った。何台もある加工機械を春節休暇を含む2ヶ月間でレイアウト変更できるとは思えなかった。当然春節休暇があるためその前後は、仕事量が増加しているはずだ。山本は林会長の助手として改善交流会の指導をする立場であるが、これはどうやったのか質問しなければと考えていた。

改善事例の発表の後今後の改善計画の説明があった。その計画を聞いて山本はさらに驚いた。加工機械を1人で2台操作できるようにして、一人当たりの生産効率は2倍になったはずだが、さらに加工設備の可動率をあげさらに20%効率を上げるという積極的な計画だった。

「可動率(べきどうりつ)」とは「稼働率」とは違う概念だ。生産に必要であるべき時間と実際の設備稼働時間の比率を可動率という。標準作業時間×生産台数が分子となり、分母はその生産にかかった総時間だ。総時間には、段取り替え時間、手待ち時間、設備の清掃・故障・修繕・チョコ停、不良を生産した時間などの無駄時間と必要な作業だが付加価値を生まない作業時間が含まれる。したがって可動率が100%になることはない。

改善実績と今後の改善計画の説明が終わり、山本は真っ先に質問をした。
「1月から改善を始め2ヶ月、いや春節休暇があるから実質1ヶ月半でこの成果はすごいですね。それに春節前は生産負荷が高かったのではないですか?」
中国国内向けの製品は、他の工場も休業しているので問題はない。しかし日本向けの製品は春節休暇中も顧客工場は稼働しているので、造りだめをしておく必要があるはずだ。

「そうなんです。土日にレイアウト変更をしました」北山総経理は自社の改善メンバーを見回していう。「それに遊休設備を1台倉庫から引っ張り出したので、設備は全部で6台配置することができ生産効率だけでなく、総生産量も上がりました」「山本さんにいただいたアイディアで、作業効率だけでなく、生産スペースの効率も上がりました」と続けた。
「いやいや、もっとすごいのは北山君のすぐやる実行力と、君の改善メンバーだなぁ」林会長の言葉に出席者が頷く。

「こりゃぁ、すごい人たちと一緒に改善活動をすることになったぞ!」山本は心の中でつぶやいた。