#08:躾は異次元


5Sの騎士ドン・キホーテの如く
躾はまず挨拶.おはようございます,ありがとう,と言わせる.
言葉が変われば心が変わる.心が変われば行動が変わる.

5Sでの躾の定義は,人がきちんと決りを守るよう,よい習慣を身につけさせること.つまり人の行動規範を養うことだ.
日本人の行動規範には,「世間様に申し訳がない」と言う心理がある.躾により養われた「世間様」が日本人の道徳を支えている.
一方,欧米人は「神」が行動規範の根底にある.信仰が欧米人の道徳を支えている.その躾の中心となっているのは「神」であろう.
中国人の行動規範の根底にあるのは「世間様」でも「神」でもない.中国人の道徳を支えているのは「自分と家人の利益」のように見える.「家人」とは血縁,地縁でつながった人たちである.
では中国人に対する躾はどのように行われるべきか.「信仰」や「世間様」ではない.自分自身のため,仲間のためが中心となった躾だ.つまり,自己成長のため,仲間に迷惑をかけないための躾でなければ,理解しにくいだろう.

誰が躾をするのか
子供の躾をするのは両親.学生の躾をするのは教師.部下の躾をするのは上司だ.子供が自分自身で自分を躾るというのは考えにくい.子供は躾を守るもの.弟子が師匠の教えを守るのと同じだ.これは作法と言う.
5Sでは整理・整頓・清掃・清潔と並んで躾があるが,躾は次元が違う.新人には先輩が,部下には上司が躾をする.究極的には,躾をするのは社長だ.
家庭では,夫が妻に,妻は子供に,兄姉は弟妹に躾をすることにより,家風と言う行動規範ができ,代々受け継がれてゆく.
企業も同様にして,社長が原点となり,企業文化を築かなければならない.それが躾だ.

躾で行動開発
躾とは知識を与えることでも,能力を付けることでもない.好ましい行動を習慣にすることだ.
「おはよう」と言うことで,コミュニケーション行動も活発になる.「ありがとう」と言うことで,感謝の気持ちが生まれ,人に感謝される行動を起こそうとする.
挨拶をすることを,習熟していても何も始まらない.挨拶が出来るようになり,それが習慣となるまで躾ける.そしてそれが習性となれば,行動が起こる.
整理・整頓・清掃・清潔の4Sも同様に,まず習熟させる.どうやるかを教えるだけでは,足りない.なぜやるかを教える.なぜは「神様が見ているから」でもなく「世間様が見ているから」でもない.「自己成長のため」「仲間のため」だ.
毎日4Sをやれと大きな声を出すのが躾ではない.命令・服従型の推進では,士気は上がらない.
部下と一緒に整理・整頓・清掃をする.そしてそれらの問題点を改善する(清潔).上司の率先垂範が部下の士気を上げる.士気が上がれば,部下は自ら行動を起こす.
躾とは,相手の成長を願う思いやりと,模範を示すことだ.躾で部下の士気を上げ,自発行動により5SのPDCAがスパイラルアップする.


【今月の一言】
躾で5Sに仰角をつけよ!

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5S実践研修

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2012年2月号に寄稿したコラムです.